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しおりを挟む「上機嫌でらっしゃいますのね。不出来な娘でも使い道があったようで、よかったですわ」
「はは、そうだな。持つべきは娘だと、改めて思うよ」
先ほどの遣り取りから考えて、多分お父様は、今後王太子殿下は我が家の庇護を仰がなくてはならない状況になると判断したのだろう。
後ろ盾のない王太子が、これまた実家の力のない王太子妃を選んだのだから、人心が離れるのは当然のことである。
しかもモント公爵家という強い後ろ盾を持った王子が他にいるとなれば、そちらこそを王太子にという流れが起きるのは目に見えたこと。
つまり、王太子殿下が今の地位を維持するには、モント公爵家に対抗しうる力を持つ我が家の庇護が必須なのである。
しかしながら、強硬にヒルデガルド令嬢を王太子妃にしたあたり、政治的視野もなくそのまま我が家を遠ざけるのではないかとお父様は懸念していたに違いない。
となれば殿下の廃太子は必然、結果、モントの血筋の王子が王太子となり、我が家の勢力は大きく削られることになっただろう。
だからこそお父様は、モント公爵を牽制するために弱点を欲したのだ。
けれども、王太子殿下が我が家の力を必要とし、尊重する気があるとわかれば、状況は大きく変わってくる。
モント公爵の弱点がわかればそれに越したことはないだろうけれど、無理に弱点を探る危険を冒す必要はない。
したがってロルフ卿を操る必要もなくなり、代わりに私をヒルデガルド令嬢に近づけることで、王太子殿下に貸しを作る気でいるのだろう。
だからこそお父様は、一度は捨てると決めた私を、今日王宮に連れてきたのだ。
「お褒めに預かり光栄です。でも買い被りすぎでしょう。私のように不肖の娘では、お父様のご期待には応えられそうにもありませんわ」
さすがにもう、疲れ果てた。
これまでは家族としての愛あればこそ、お父様に従ってきたけれども、お父様にとって私はいつでも切り捨てることができる使い捨ての操り人形にしか思われてないとわかってしまった今では、何もかもが虚しい。
第一、今は良くてもいつまた不要の存在となるかわからないのだ、常に捨てられることを怯えながら過ごすのは辛すぎる。
それに。
私がいなくたって、我が家が――お父様がどうにかなることなどないのだから。
「――ではこれで、私は失礼させていただきます」
お父様の返事を待たずに、綺麗に礼を取って身を翻す。
背後でまだくつくつと笑うお父様の笑い声を感じながらも、私は振り返らずにまっすぐ会場の出口へと向かった。
どんなに抗ってみせても、結局は家に帰るしかないことをお父様も知っているのだ。
だがそれも、今日で終わりである。
私は、今夜中に家を出て領地へ向かおうと決意していた。
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