ロゼと嘘

碧 貴子

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「ロゼリア、大丈夫。大丈夫だ」
「……」
「ちゃんと責任は取る」

 震える私を抱きしめて、宥めるように背中を撫でてくる。
 けれども、意味がわからない。
 責任を取るとは。
 そもそもこんな状態でロルフ卿と一緒に家に行こうものなら、その場で絶縁されて締め出されるだろう。
 最悪、ロルフ卿は切り捨てられてもおかしくない。

 第一ロルフ卿は、単に巻き込まれただけであって、何ら非はない。
 それどころか、放っておくことだってできたはずなのに、私の薬が抜けるまで付き合ってくれた。
 男の人は、好きでもない女性ともそういう行為はできるというけれど、勝手に媚薬を盛られた挙句、相手までしなくてはならないのは迷惑でしかないだろう。
 それに、決して結ばれることはないとはいえ、ロルフ卿には好きな人がいるのだから。

 朗らかに笑うヒルデガルド令嬢を優しく見つめるロルフ卿を思い出して、胸が黒く、重く、冷え切っていく感覚を覚える。
 まるで、冷たいタールを飲まされているかのようだ。
 目の前が暗くなり、激しく自暴自棄な気分に陥る。
 もう、考えることも、息をすることすらも煩わしい。

 なのに今、優しく私を抱き締める腕とその温もりが、泣きたくなるほど心地よい。
 胸に私の頭をもたれさせて、子供にするように頭を撫でてくる。
 今の私には、抗う力も、気力もない。
 力の抜けた体をロルフ卿に預けた私は、胸に埋めるようにして泣き出しそうな顔を隠した。

「……責任を取るって、どうするつもりですか?」
「公爵には、君と想い合っていた事実を告げて、結婚の許しを得るつもりだ。こうなったからには、一刻も早く式を挙げるべきだろう」

 何となくロルフ卿の答えを予想していた私は、ますます気持ちが沈み込むのがわかった。
 お父様が、ロルフ卿と私の結婚を許すわけがない。
 何より、ロルフ卿に責任を負わせるわけにはいかない。
 だって彼は、ただ巻き込まれただけの被害者なのだから。
 唇を噛んで息を詰めた私は、ゆっくりと息を吐き出してから重い口を開いた。

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