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 目的の場所は、案内の看板からそう遠くない場所にあった。
 二つ目の案内看板の指示通りに右折をすれば、目の前にペンキの禿げたゲートが現れる。
 どう見ても何世代か前の古臭い造りのそこだが、構わず岬は車を直進させて建物の入り口にあるゴムの暖簾をくぐらせた。
 こんな山の中にある、どう見ても寂びれた建物にもかかわらず、ちらほらと車が停まっているのが意外だ。
 案外需要があるのだな、などと思いつつ素早く辺りに視線を走らせた岬は、空いているスペースに車を駐車した。

「ミサキ……?」
「降りるわよ」

 てっきり真っすぐ家に帰ると思っていたのだろう、見慣れない場所にラインハルトは戸惑った様子だ。
 しかし、素っ気なく一言言い捨てて岬が車から降りると、ラインハルトも大人しくそれに従う。
 各駐車スペースの真後ろにあるステップを上ってドアノブを回せば、そこはもう部屋の玄関だ。
 呆気に取られるラインハルトを促して靴を脱いだ岬は、そのまま黙って部屋の奥へと足を踏み入れた。

「こ、ここは……?」

 初めての場所に、ラインハルトは戸惑った様子で部屋を見回している。
 もちろん、こんな場所に寄る予定はなかったわけで、ここがどういう場所かわからないラインハルトにしてみたら、岬の考えがわからず困惑しているのだろう。

 それにしても、意外にも部屋はしっかりとした造りだ。
 薄寂びれた外観から少し不安はあったのだが、古びた雰囲気ではあるものの、きちんと掃除されたそこは案外普通の部屋だ。
 いささか殺風景ではあるが、こういう場所にありがちのいかがわしい設えのものよりはよっぽどましだ。
 部屋の中央にある、綺麗にベッドメイクされたキングサイズのベッドを確認して、そこで岬は後ろを振り返った。

「ミサキ……?」

 ラインハルトの手を取って、ベッドサイドまで移動する。
 ラインハルトは、岬にされるがままだ。

「――――っ!?」

 ベッドの端まで移動し、戸惑うラインハルトの顔を見上げた岬は、トンっとその胸を押した。
 大して力を入れなかったが、虚を衝かれたラインハルトの体はあっさりと後ろに倒れてくれた。

「ミ、ミサキ!?」

 自身もベッドに上がり、腰の辺りを跨いでラインハルトの体の上に乗り上げる。
 目を見開いて呆然とした様子のラインハルトだったが、岬が無言でシャツのボタンを外すと、そこでようやく何をしようとしているのか理解したラインハルトが、慌てて体を起こそうとした。

「動かないで」

 困惑したラインハルトの顔を見下ろして、にっこりと微笑む。
 すると、気圧されたようにラインハルトが動きを止めた。
 その様子を微笑んだまま見詰めて、岬はそっとその頬に手を添えた。

「私ね、腹が立ってるの」
「そ、それは……」
「もちろん、ライと篠山の間で何かがあったってわけじゃないのは知ってる。でも、嫌なの」
「――っ」

 言いながら、頬に添えた手でそこを撫でてから、シャツの合わせ目にするりと手を差し入れる。
 服をはだけさせつつ、滑らかに隆起した胸を掌で撫でると、ラインハルトの喉がごくりと上下に大きく動いた。
 見れば、戸惑いつつもその頬は、赤い。
 岬を見上げる青い瞳には、微かに期待と欲望が。
 それを確認して、岬はそっと顔を首筋に寄せ、胸に置いた手を下へと滑らせた。

「……だから……、安心させて……?」

 しっかりとした首筋に口付ければ、ほんのりと汗の味がする。
 途端、声にならない呻きが聞こえて、岬はようやく苛立ちが和らいだのがわかった。

 今では岬も、この苛立ちが何なのかわかっている。
 これは、嫉妬、だ。
 愛良とラインハルト、二人の間に何もないとわかっていても湧き上がるこの感情は、強い独占欲だ。
 自分以外の誰かに触れて欲しくないし、触れさせたくもない。
 何より、ラインハルトの関心を引くのは、自分だけであって欲しいという強い思いだ。
 八つも年が上だというのに、何とも大人げない。
 挙句に、そんな感情に振り回されて、こんな所にラインハルトを連れ込んでいるのだ、内心そんな自分に呆れてしまう。
 けれども、いきなりこんな場所に連れてこられて、唐突に岬に押し倒されているのだというのに、ラインハルトが抵抗する気配は微塵もない。
 もちろん困惑はしているのだろうが、岬にされるがままだ。
 触れる肌の熱が、ラインハルトの期待を伝えてくれる。
 そのことに安心すると同時に、ひりつくような独占欲が満たされていくのがわかる。
 これまでの恋人にはこんな感情を抱いたことはついぞなく、如何に自分がラインハルトに執着しているのか思い知らされたような気分だ。
 そんな自分に、岬は小さく苦笑を漏らした。

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