上 下
81 / 93

22-2

しおりを挟む
「……ねえ。それ、魔法でしょう?」
 言いながら、ずいっと近づいてくる。

「……車に乗ったことがないっていうのもあり得ないし、君の言うノルウェーの話も色々不自然だし。ずっとずっと、おかしいと思ってたのよ」
「……そう言われても……」
「じゃあ聞くけど、ノルウェーの首都は?」
「オ、オスロ……」
「オスロに美術館があるわよね? そこに展示されている、世界的画家の名前は?」
「……それは……」
「ノルウェーの出身なら、知ってるわよね? 知らないわけがないわ」
 篠山は下から睨みつけるようにして、ラインハルトを観察してくる。

 もともと嘘は苦手なうえ、質問の答えを知らないラインハルトには、誤魔化しの言葉は一切浮かんでこない。
 黙りこくってしまったラインハルトに、篠山が確信を深めたようだ。
 すっと瞳を細めて、こちらを威圧するかのように睥睨してきた。

「……君、本当は、どこから来たの?」
「……」
「……岬さんを、どこに連れていくつもりなの?」

 更に一歩、近づいてくる。
 既に篠山は、胸元に掴みかからんばかりだ。

「言いなさいよ! 岬さんを、どこに連れてくつもりなのよ!」

 声高に詰め寄られて、ラインハルトはこれ以上誤魔化すことは無理だと悟った。

「…………私がきたのは、こちらの世界とは、違うことわりの世界だ……」
「…………だから、魔法が使えるのね」
「そうだ……」

 見られてしまった以上は仕方がない。
 諦めたように頷くラインハルトに、篠山がその眼光を鋭くした。

「じゃあ岬さんは、君と結婚して、そっちの世界に行くってことなの?」
「……そうだ」
「……もしかして、そっちに行ったらもう帰って来れないとか、言わないわよね……?」

 押し殺した声で聞かれて、ラインハルトは押し黙った。
 しかし、沈黙が雄弁に答えを物語ってしまっている。
 しばらくしてその意味を察した篠山が、ハッとしたように息を飲んだ後、ギリギリと音がしそうなほどラインハルトを睨みつけてきた。

「……許さないっ! 岬さんを連れてくなんて、絶対許さないからっ!!」
 甲高い声が、静かな木立に響き渡る。

「なんなの、君!? どうして私から岬さんをとるのよ!!」
「……済まない」
「結婚するだけならまだしも、わざわざ連れてくことないじゃない!!」
「……」
「しかも!! 外国ってだけでも遠いのに、違う世界とかっ!! 何なのよっ、もうっ!!」

 拳を握って、いやいやをするように頭を振る。
 その様はまるで、恋人をとられてしまうかのような剣幕だ。
 ただの後輩にしては、いささか傾倒振りが激しすぎるだろう。
 篠山の、露わすぎる岬への執着を見せられて、ラインハルトは思わず戸惑ってしまった。

「シノヤマ、君は何でそんなに……」

 そのとき、木立の遊歩道から、パキッと高く乾いた音が響き渡った。
 誰かが小枝を踏んだであろうその音に、驚いて音のした方へと顔を向ける。

「ミサキ……」
「岬さん……」

 そこに居たのは、真っ青な顔で目を見開いた、今にも倒れそうな様子の岬だった。



しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...