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15-4(ラインハルト)

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翌朝、さすがに酒が抜けて正気に戻ったら、岬の後輩であるその女も昨夜の自分の態度を反省したらしい。
 殊勝そうに謝られて、一旦は矛を収めたラインハルトだったが、何故か言葉の端々に何となく引っかかるものを感じる。
 鈍い岬は全く気付いていないが、ちょっとした仕草や表情はラインハルトを挑発するかのようだ。
 さしずめ、岬にラインハルトは相応しくないと、言いたいのだろう。
 挑発には挑発を、売られた喧嘩は買って上等とばかりに、これ見よがしに岬との仲を見せつければ、明らかに悔しそうな顔をする。
 まあ所詮、彼女は岬にとって会社の後輩という立場でしかない。それに、一緒に居られるのも後少しなのだ。
 そう思うことで少しは気が晴れたラインハルトだったが、帰りしな、岬が席を外した途端、それまでの従順そうな庇護欲を誘う可愛い後輩の仮面を脱ぎ捨てて、篠山とかいう女がラインハルトを睨みつけてきたのだった。



「……私、岬さんが外国に行っちゃうの、まだ認めてないですから」

 先程まで岬に向けていた顔が嘘のように、一転して冷たく見据えてくる。

「それにラインハルトさん、多分あなたって、随分若いですよね? 20、1、2といったところなんじゃないの? そんなんで、本当に岬さんを幸せにできるのかしら。今は恋にのぼせ上ってていいかもしれないけど、何年かして落ち着いてきたときに、それでも変わらず岬さんを大事にできるのかしらね」
「当たり前だ!! 私のミサキへの思いは絶対に変わらない!!」
「……ふーん、本当に? まだ若いからそう思うんじゃないの?」
「なっ!? 侮辱するのか!?」

 岬への思いを否定されるようなことを言われ、思わずかっとなる。
 そんなラインハルトに、篠山が馬鹿にしたようなため息を吐いた。

「ほら、こんなことも簡単にいなせないじゃない? それに、ぎっちぎちに束縛して、マーキングして、随分余裕がないわよね。これじゃあ、こんなお子様に岬さんは任せられないわ」
「……っ!」

 ラインハルトは思わず言葉に詰まってしまった。
 余裕がないのも、子供っぽいほどに岬を束縛しているのも本当のことだからだ。

「……とにかく、岬さんを連れてくようなことはさせないから」
 ニヤッと笑って宣言してくる。

 言い返そうとしたラインハルトだったが、ちょうどそのとき奥の部屋から岬がリビングに現れ、その話はそこで終わったのだった。


「岬さん! 今回はありがとうございました!」
「そう?」
「はい! それにラインハルトさんも、ありがとうございました」

 無邪気な笑顔でお礼を言ってくる。
 先程までの雰囲気は微塵もない。

「ふふふ。本当、お二人はお似合いですね!」
「そ、そうかしら?」
「はい!」

 篠山のもう一つの顔を知らない岬は、何とも嬉しそうに照れている。
 頬を染めて、ふわっと笑う様は、思わず抱きしめたくなるほどだ。

「じゃあ、ライ。篠山を駅まで送ってくるから」
「…………わかった」
「ラインハルトさん、

 最後に挑発的に片方の口の端を吊り上げて視線を寄こしてくる。
 岬の位置からだとわからないとわかっていてやっているのだ。
 まったく、なんて女だ。

 岬と篠山を見送ったラインハルトは、胸の中の憤りを晴らすかのように、強く玄関の壁を拳で叩いたのだった。





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