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確かに過去には恋人が居たことはある。
 高校、大学と一人ずつに、社会人になってから一人の、計3人だ。
 もちろん、経験もある。
 特に社会人になってからの恋人は、結婚まで考えたが、互いの仕事が忙しすぎて結局自然消滅したのだ。
 とはいっても、会社の同期である彼は、岬と別れてからとっとと結婚したが。
 それ以降、岬に恋人はいない。
 というか、作る暇がない。
 それに岬も、恋にのめり込むタイプではなかったため、このままお一人様でいる気でいたのだ。

「そりゃあ、あるけど……」

 岬の言葉に、その場の空気が重くなる。
 眉間に深くしわを刻んだラインハルトに、岬はたじろいだ。

「そういうライだって、恋人くらい居たことあるでしょ?」
 わざと明るく、おちゃらけた口調で言う。

「ライだったら、モテんじゃないの~?」
「…………ない」
「へ?」
「恋人は居たことがない」
「ええ!? じゃあ、まさか童……」

 ラインハルトの意外な返答に、驚いた岬は何とか言葉を飲み込んだ。
 流石にそれは聞けない。
 しかし、岬の言いたかったことを正確に察したらしいラインハルトが、眉間のしわをますます深くして岬の問いに答えた。

「恋人と呼べるような関係の人間は、居たことは、ない」

 何やら持って回った言い方だが、一応経験はあると言いたいらしい。
 とうことは素人童貞か、などと岬が下世話なことを考えていると、ラインハルトが掴んだ岬の手を引き寄せ、ずいっと体の距離を近づけてきた。

「ラ、ラインハルトさん……? これは……」
「ミサキはいつもそうやって誤魔化す」
「そ、それは……」
「私の気持ちは、知っているんだろう?」
「……」

 真剣な顔で見詰められて、岬は思わず言葉を失った。

 いつからだろうか、ラインハルトの自分に向けられる視線に熱が込められていることに、岬は気が付いていた。
 ふとした瞬間に、甘い瞳で見詰められ、手を取られたこともある。
 しかしその度に、岬はそれに気付かない振りをして、スルーするようなことをしてきたのだ。
 最近は、敢えて弟扱いやゴンベエ扱いすることで、牽制していた。
 というよりも、自分に言い聞かせていたと言ってもいい。

「ミサキ、私はミサキの弟ではないし、ましてや犬でもない。私はミサキが、私の運命の相……」
「ま、待って! ラインハルト、あなた今酔って-------」
「待たない! もう十分待った! それに、私は酔ってなどいない!」

 そう言って、ラインハルトが腰に腕を回して抱き寄せ、岬の唇に自らの唇を押し当てた。
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