シェリ 私の愛する人

碧 貴子

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本編

18.星は光りぬ

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 人気ひとけのない回廊をミシェルに連れられて歩く私の胸中は、さながら連行される囚人の気分だ。
 会場からは微かに華やかなオーケストラの曲が漏れ聞こえている。
 今回のパーティーの目玉である次期公演の演奏が始まるなり、ミシェルが私を強引に会場から連れ出したのだ。

「シェ、シェリー……? どこに、行くの……?」

 私の問い掛けに、ミシェルは無言だ。
 表情を無くした顔で私の肩を抱いて歩く。
 これは明らかに、怒っている。

「……ねえ。少しは私の話を聞いてくれても……」

 その時丁度、前方から人のやって来る気配に、急いでミシェルが進路を変えた。
 曲がったその先には、化粧室が。
 一瞬躊躇いを見せた後、しかしミシェルが確認もせずに私を連れて化粧室へと足を踏み入れた。

「ミ、ミシェルっ! 何をっ!」

 驚愕する私にも構わず、誰も居ないことをいいことにズカズカと一番奥の個室まで私を連れていく。
 強引に個室に連れ込み、鍵を掛けたミシェルが、サイドの壁に私を囲うように手を突いて追い詰めた。

「……シェ、シェリー、何を……」
「……キャス、君には一体どれだけ言い聞かせたらわかるんだ?」

 見おろす彼の瞳は、怒りに冷たく光っている。
 その奥には、激情をともなうあの翳りが。
 見詰められ、居竦められて、私は息を飲んだ。

「僕が今日、どれだけ君に惑わされ胸を掻き乱されたか、全くわかってないんだろう?」
「そ、それは…………んぅっ!」

 顎に手を掛けられ、唇を塞がれて、私の言い訳はミシェルの口にかき消えた。
 割り開かれた唇の隙間から、強引に舌が差し込まれる。
 乱暴に舐め、吸われて、しかし条件反射ですぐさまそれが快感に変換される。
 自ら口を開いて迎え入れた私は、あっという間に蕩けさせられてしまった。

「んっ……ふぅ……」

 力の抜けた私の体を壁に押し付けて、ミシェルの手が不埒に体をまさぐっている。
 サイドに並んだくるみボタンの存在に気付いたその手が、あっという間にそれらを外して、弛んだ肩の布地を下に引き下げた。
 途端に支えを無くした白いふくらみが、赤く色付いた頂とともに晒される。
 硬く膨らんだ尖りを親指で潰され、強く胸を掴まれて、私の口からくぐもった嬌声が上がった。

「……僕以外にこんなことをされても、君は悦ぶのか……?」

 耳元で囁かれた言葉は、怒りを孕んで昏い。
 彼の怒気に当てられて、私の体が震えて鳥肌を立てる。
 しかし、それすらも快感に変わっていく。
 ミシェル、彼になら、何をされても受け入れられるよう、私の体は作り替えられてしまっているのだ。

「ち、違っ! シェリー、あなただから……っ」
「……どうかな……。君は、淫乱だから……」
「そんなっ…………あっ……」

 スリットの隙から手を差し入れられて、太腿の内側を撫で上げられる。
 そのまま裾を捲り上げられ、脚を上げさせられて、ミシェルの下半身が私の秘所に当てられた。
 既に布越しに分かるほど潤んだそこは、擦る様に揺すられる度にクチュクチュと水音を立てている。
 こんな場所で、こんなことをされているのだというのに、私の体は興奮しているのだ。
 堪らず小さく喘ぎを漏らして首に縋り付くと、それを合図にミシェルが私の下着を引き裂いた。

「あっ…………ああんっ!」

 手早くズボンを寛げ、宛がわれたものが、無遠慮に私のなかに入ってくる。
 小刻みに出し入れされながら、解されてもいないそこを、熱い塊が閉じた襞を掻き分け押し込められる。
 しかしそれを難なく飲み込んで、私の体が埋め込まれたそれを悦んで締め上げた。

「はあぁあんっ!」
「く……」

 嬌声を上げて首筋に縋り付く私を掻き抱いて、ミシェルが動きを止める。
 私の体内は、不規則に蠢き、収縮を繰り返している。
 そんな私に耐えるかのように、眉をひそめて歯を喰いしばるミシェルが、切ない吐息を吐き出した。

「あ……」

 熱い息が耳元を掠め、ゾクゾクと肌が粟立つような愉悦が沸き起こる。
 次の瞬間、体が浮くほど下から突き上げられて、高い嬌声を上げた私の口をミシェルが自らの唇で塞いだ。

 トワレットの狭い個室で、壁に体を押し付けられて犯されているのだというのに、堪らない快感にくぐもった嬌声が上がってしまう。
 今私に、それをしているのがミシェルであるということに、私の体は無条件に悦び、受け入れてしまうのだ。
 いや、むしろこんな状況だからこそ、余計に興奮しているのかもしれない。
 一体私はどれだけ淫らな女になってしまったのか。
 しかし、目の前にある男らしい首筋が快感で薄く汗を掻いていることに、訳もなく胸が高鳴る。
 ミシェルも、彼も、感じているのだ。
 こんな場所で、こんなことをせずにはいられないほどに求められているという事実に、女としての自分が喜びを覚える。
 力強く抱き上げられ、揺すられて、蜜を滴らせて締め上げ、感じてしまう。

「…………んぅっ、んんっ、んんっ!」

 それでもまだ、辛うじて残っている私の理性が必死に声を我慢させる。
 ここは誰が来るとも知れない化粧室だ。
 こんな場所で、夫婦でこんなことをしているなどと知られるわけにはいかない。
 しかしその思いすらも、背徳の感情が快感の後押しにしかならない。
 体を揺すり上げられるその度に、頭が白く、霞んでいく。

 だが、完全に快楽に飲み込まれる、その時、外から人の気配が近づいてきた。

「----------ふふ、--------第一楽章の------が-------」
「-----じゃあ、急がないと-----------は、----------ね」

 コツコツというヒールが立てる靴音と、軽やかに笑い合う女性の声。
 瞬時に我に返った私たちは、息を飲んで動きを止めた。

 やがて化粧室のドアが開けられ、ドレスの衣擦れの音がハッキリと聞こえてくる。
 徐々に近づく靴音に、私達は抱き合ったまま体を固くした。

「…………あら」

 私達の個室の手前で靴音が止まる。

「……ふふふ。……いやだわ……」
「まあ……。ふふふふふ」

 ドアの下の隙間から、膝から下が見えているのだ。

「……どちら様かしら、ね?」
「ふふふ、……詮索をしたら、悪くってよ?」
「やあねえ、ふふふふふふ……」

 密やかに笑い合うその声に、生きた心地もない。
 さすがに足下だけで私達とわかるわけはないとわかっていても、やはり気が気ではない。
 こめかみのあたりで、ドクドクと脈打つ大きな音が聞こえている。
 まるで全身が心臓になってしまったかのようだ。

 さわさわと、女性達が私たちの居る個室の前で小声で話し合っているのがわかる。
 きっと私達が誰なのかを探っているのだろう。
 しばらくしてようやく、女性の一人が口調に含みを持たせながら、もう一人の女性に声を掛けた。

「……仕方がないわね。他所に、行きましょう?」
「そうね。仕方がないもの、ね?」
「ふふふふふ……」
「…………ごゆっくり?」

 クスクスと笑いさざめき合いながら、気配が遠ざかっていく。
 その場が完全な静寂に包まれて、ようやく私は息を吐いた。

「…………ねえ、シェリー。もう戻------------あぁあっ!」

 言い終わる前に、強く突き上げられて、私は背中を反らせて嬌声を上げた。
 痛いほどに尻を掴まれ、持ち上げられる。
 片足のつま先で体を支える不安定さがそのまま結合部の繋がりを深め、目も眩むような快感が私を貫いた。

「ああっ、ああっ、シェリーっ! ダっ、ダメっ……おかしくっ、なっ……ああっ……!」
「……はっ……」
「あぁあっ! やめっ、ダっ、ああぁあっ……!」

 誰かが来るかもしれないということは、すっかり私の頭から消え去っていた。
 鈍く壁を打ち付ける音が部屋に響き渡っているも、既にそれを気にする余裕もない。
 信じられないほど深いところに埋め込まれたそれが、ぐりぐりと私の体内を抉り、その強すぎる快感に目の前が白く染まっていく。
 最後に一層激しく突き上げ揺さぶり上げられて、私は悲鳴のような嬌声を上げて達してしまった。
 同時に蠢く体内に、熱い欲望が放たれる。
 下腹に広がる熱と、脈打つそれすらも、気持ちがいい。
 すっかり放心状態の私を強く抱きしめて、ようやくミシェルが私の体を降ろして繋がりを解いた。

「…………あ」

 ずるりと引き抜かれたそこから、吐き出されたものがトロリと溢れて腿を伝う。
 半裸に剥かれた状態で、脚に彼のものを伝わせる私を見おろして、服を整えたミシェルが意地悪な笑みを浮かべた。

「……これで君がものなのか、嫌でも意識するだろう?」
「シェ、シェリー……?」

 戸惑う私に綺麗に微笑んで、ミシェルが耳元に唇を寄せ、囁いた。

「……だから言っただろう? その格好は魅力的過ぎる、って」
「で、でも……」
「僕以外の男を惑わした、罰、だよ」

 そう言って私のこめかみにキスを落として、楽しそうに笑う。

「さあ、戻ろうか。この後君は、皆の前でニナに花束を渡さなくてはならないしね」
「あ……」

 そうこの後、今日の催し物のトリを務めた主演のニナに、後援者である私達が花束を贈呈することになっているのだ。
 つまり、に彼のものを入れたまま、垂れ流した状態で衆目に晒されるわけだ。
 しかも今しがたの情交で、私の膝は笑ってしまっている。
 罰の意味に気付いて青ざめた私に、しかしミシェルは何とも楽しそうだ。

「大丈夫。今の君はとても綺麗だよ」

 光る透明な水色の瞳を細めて笑う彼と、脚を伝うその感触に、私はふるりと体を震わせた。








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「星は光りぬ」:オペラ『トスカ』より、カヴァラドッシのアリア。
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