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6◇オークの家族◇

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 久しぶりの我が村だ。

 囲いがあり、以前よりもきちんと村らしくて嬉しくなる。


 見知らぬ顔の門番オークに声を掛けるが、完全に怪しまれたようだ。
 数年ぶりに戻った俺の顔を向こうも知らぬだろうからな、これは仕方があるまい。

「やっぱり痩せ型なのは貴方だけなのね」
「俺以外の連中は普通に太ったオークだからな」

 俺たちのやり取りを耳にした門番オークが何かに気付いたようで、別の門番オークをどこかへ走らせた。


 チラホラとだが、村の中に人族の姿も見える。
 俺が居た頃には、肝っ玉商人がたまにくるだけだったが。
 優秀な弟妹たちで、さらに嬉しくなる。


 そう間を空けず、見知った顔のオークたちが連なって駆け込んでくるのが見えた。

「紹介する。こちらに駆けてくるあの先頭のオークが、現在ここのボスをしてる弟だ」

 そう聞いた勇者は、襟を触り、前髪を摘んで整えた。

「きちんと御挨拶しなきゃだわ」
「そんな大したもんじゃあない。たかが俺の、愛する弟さ」


 兄だ兄だ、ボスだボスだ、ボスの嫁だボスの嫁だ、と見知った顔のオーク共が騒ぎ立てやがる。

「弟よ、俺はもうここのボスじゃあない」

 ではなんとお呼びすれば、か。

 ふん、良いじゃないか呼び方なんてどうでも。
 兄でも、前のボスでも、なんでも好きな様に呼んでくれ。

 どう呼ばれようとも、俺は俺。
 オマエたち家族のことを愛する、ただの痩せたオークさ。

「ねぇ、ちゃんと私のことも紹介しなさいよ」
「ん、ああ。そうだな」


「弟たちよ、コイツは人族の勇者。俺の嫁で、俺の子の母親になる。よろしく頼む」




◇◇◇◇◇

 アイツは俺の村で子を産んだ。

 人族の姿ではあるが、少しだけ鼻が上を向いた、それは可愛らしい男児だ。

「愛する家族が一人増えたわね」
「ああ、そうだ。オマエとこの子、二人のために、俺は生きると誓おう」

「お義父様やお義母様、それに弟妹たちは良いの?」

「オーク共の為にも生きる。他の誰かの為にも生きる。しかし、命を賭けて生きるのは、オマエたち二人の為だけだ」


 俺は、やはり変わった。

 最初のオークの頃は勿論、豚だった頃よりも、 人だった頃よりも、心の……、奥の、何か……、

 いや、分かっている。
 俺は、この心の奥の何かを、知っている。

 あの二人・・・・が、俺に与えてくれた物と同じだと、俺は知っている。


「ありがとう。貴方にそこまで想われて、私とこの子は本当に幸せよ」
「ああ。俺も、幸せを感じている」



「ところで、ね」

 なんだ? コイツにしては珍しく歯切れの悪い口振り。

「そんな貴方に、お願いがあるの。私とこの子の為に」
「オマエたちの為ならば、出来ぬ事でもやってやる。なんだ?」


「ちょっと行って、魔王をやっつけて来て欲しいの」




◇◇◇◇◇

 俺は今、一人旅をしている。

 以前はどうということも無かったんだがな。
 どうにも一人旅は寂しいものだ。


『二人で旅してた時にね、魔王軍っていうのを蹴散らしたのを覚えてる?』

 北の国で蹴散らしたのは覚えていたが、全然歯応えが無かったから細かい事は覚えていなかった。


『私の兄弟子あにでしたちが八年前には亡くなったって言ったのを覚えてる?』

 前世で俺が剣術を教えた連中だ。勿論覚えてる。


『十年前から八年前に、魔王軍と私たち勇者の戦いは激化したの。それでもなんとか、兄弟子たちの、命懸けの封印で魔王を封じたの』

 俺は魔物だが、魔王とやらとは会ったこともない。どんな奴かもピンと来ない。

『そしてその術式は、私の魔力で維持されてたのだけど、今回の出産で、私の魔力の大半はこの子に持っていかれた』

 話をここまで聞いた時に、遂に嫌な予感がしたものだ。

『だから魔王の封印がもうじき解けるみたいなの。だから、ちょっと行って、魔王をやっつけて来て欲しいの』


 そんな事言われてもな、正直言ってそんな見たこともない奴を、嫁が頼むもんで、なんて言って倒せるものかよ。

 勇者とその兄弟子どもで封印できる程度なのならば、恐らくは、俺ならば、能力的には充分に倒せるだろう。

 しかし、しかしだ。
 もしも、もしもだぞ?

 その魔王とか言う奴がだ、良い奴だったらどうすれば良い?

 俺は誰かの為に生きたい、アイツらの為なら命も賭せる。
 しかしだ、その為に誰かを不幸にしたいとは思わない。

 
 人と魔物が相争うのは、まぁしょうがない事だろう。魔物の多くは人を喰らう。

 俺だって喰おうと思えば喰える。

 今だから言うが、最初にオークだった頃には喰っていた。
 しかし、まぁ、味で言えば焼いた豚の方が断然旨い。そのお陰か今は、全く人を喰いたいとは思わない。

 豚様様さまさまだ。


 仮に魔王が悪い奴だったとしても、それは俺の嫁や人族にとって、ではないのだろうか。

 以前に蹴散らした魔王軍とやらは、魔王を慕い、魔王に忠誠を誓っているのかも知れない。

 そんな者をだ、嫁に頼まれたんだ、なんつって倒せるか?

 俺には出来ない、俺ならばしたくない。


 見極めねばならんだろう。

 その、魔王という奴を。
 
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