上 下
99 / 103

最終話「トロルの姫でございますもの」

しおりを挟む

 あれからも色々ありましたね。

 あの後、ジンさんから離れないキスニ姫を引き剥がしてウル姉弟に託し、みんなでアイトーロル王のもとを訪れ戦勝の報告をしたんです。
 二組の勇者パーティを王は労い、各国へ伝令方を走らせました。

 さらにロンがデルモベルトの姿を晒して見せ、ロン・リンデルの正体が改めて魔王となったデルモベルトである事を伝えたんです。

 驚いたのは魔王だけではありません。

 一つの相談も無かったため、ロンを除く全ての者が驚きました。

「アイトーロル王よ。賢君と名高い貴方へお願いがある」

「聞こう」

「我が魔族の国ロステライドと友誼を結んで頂きたいのです」

「友誼を……。同盟でなく?」

「俺と貴方の口約束程度で構わない」

「それに何か意味が?」

「他国との友誼がある――ロステライドにとってそれは建国後類を見ない事。その一事を持ち帰り、我ら魔族でも他国と友誼を結べる事を知らしめたいのです」

 アイトーロル王は即決しました。

「結ぼう」

「有り難い!」

「勘違いするなデルモベルト――いや、敢えてロン・リンデルと呼ぼう。ロン・リンデル、貴君は魔王であると同時に、我が国の勇者パーティでもあるのだ」

 そう。その通りですね。バフはほとんどなくても、確かにリザのパーティの一員ですから。

  貴方ならそう仰ると思いました。

「すでに私と貴君は友誼を結んでいる、私はその様に認識している。改めて友誼を、などと言う必要さえない。だからこうだ」

 王はベッド上で頭を下げて言いました。

「今後ともよろしく頼む」

「……魔族である俺に……頭を――こちらこそ……よろしくお願いします」

 深々と腰を折って頭を下げたデルモベルト。その瞳から幾つもの涙が溢れて床を濡らしました。


 そして王はさらに思い切った事に、デルモベルトをデルモベルトのまま客人として扱いました。
 魔王ジフラルト打倒の立役者としてデルモベルトも、さらには人を遣わしアドおじさんまで呼び寄せて、戦勝祝いのゲストとして扱ったのです。

「アイトーロル王、さすがにこれはやり過ぎでは……」

「何を言うか。これは貴君の人となりや義理堅さを念頭に入れた、そう、外交だよ。これで貴君は尚更私を裏切れまい?」

 はっはっは、と高らかに笑う王。

 ロン、心配しなくても王はそんなに深く考えていないんじゃないかしら。
 ただ新しい魔王を気に入っただけだと思いますよ。



 そして戦勝祝いも終わって数日後のこと。

「ホントに行くの?」
「あぁ。世話になったな、アレク、リザ姫」

「レミさんもカコナもお元気で。たまには顔を見せて下さいね」
「見せる」
「リザ姫さまもね!」

 ロンがロステライドに戻るのはまぁ分かりますが、レミちゃんもカコナも早速ついていくと言うのです。

「ロンてどっかとぼけてるからさ。心配だしね」
「レミはロンと離れない。だから行く。一択」


 そう言ってアイトーロルを離れたのがもう


 今はそれぞれがそれぞれの地で頑張っていますよ。

 私はたまに会いに行ってますが、久しぶりにみんなのところ覗きに行っちゃいましょうか。



◆◇◆◇◆

 人族の国アネロナです。

 ここはここのところ賑わってるんですよ~。
 なんと言ってもね、一人娘である姫が立て続けに子を成しまして、みなすくすくと成長中なんです。

 それを愛でる事だけに心を尽くすと決めたアネロナ王は引退し、王の座をを譲ったのです。


『久しぶりですね、ジンさん』

「お!? ば――、じゃなくて、ファ――でもなくて――」

『ば――、の方で結構ですよ。その方が貴方らしいじゃないですか』

「そうかよ? 助かるぜ婆さん。硬っ苦しいのはどうもな」

 苦手なんて言ってられる立場でもないでしょうに。貴方はあの、大国アネロナの王なのですからね。

「まぁそうなんだけどよ。……参ったよなぁ、キスニが一人娘なの忘れてたぜ」

『一人娘だと覚えてたら愛さなかった?』

「いや、まぁ、そんな事ぁなかったろうけどよ」

 そりゃそうでしょ。やる事やってもう二人も子供がいるんですから。ジンさんったら照れ屋さんなんですから。

「他の連中は元気してるか?」

『これからロンのところ覗こうと思うの』

「そうか。よろしく言っといてくれ」



◆◇◆◇◆

 魔族の国ロステライドです。

Faisふぇ attentionあとんしょん!」

 まぁ! いきなり『気をつけ!』との古の魔族言葉!
 びっくりしました。

 恐る恐るそーっと覗いてみましたら、ぷふっ――、笑ってしまいました。

 魔王城一階の大広間を埋め尽くすのは、割りと良いバルクの魔族が数十人。そして一段高いところに立つのは小さな体の軍服さんが二人。

 先ほどの魔族言葉を発したのはその片方。さらにもう片方が――

Merciめるし!」

「「「Merciめるし!」」」

 ――礼! と告げると魔族たちが揃って『ありがとうごさいました』ですって。中にアドおじさんの姿も見えますね。

 そしてぞろぞろと退出していくのを見送ってから姿を現しました。


『お久しぶりですね。なんですか今のは?』

「あ、お婆ちゃま」
「久しぶりじゃーん!」

 聞けば、今日は他国についてのお勉強だったんだそうです。
 講師はレミちゃん、助手がカコナですね。

『それは良いんですけど、どうして軍服なんです?』

「これ? 生徒どもが喜ぶんだ、コスプレすると」
「どっちが可愛いか、って盛り上がる」

『あ、そんな理由。良かったです、ほのぼので』

 勉強は終わったか? と声を掛けながらやって来たのは魔王デルモベルト。
 相変わらずちょうど良いバルクしてますね。

「これは! ファバ――いえ、アイトーロルのお祖母様。ご無沙汰しております!」

『はい、お久しぶりですね。ところでロン? 貴方はどっちが可愛いと思いますの?』

 可愛くセクシーなポーズを取る二人を指差してデルモベルトに聞いてみました。答えはなんとなく分かっていますけど。

「どっち……――、どっち……? 無理だ、どちらも可愛い……」

 でしょうね。だと思いました。


『そう言えばジンさんのところでお子さんたちの顔も見て来たんですよ。貴方たちはまだですか?』

 あ、こんな事聞いちゃいけなかったかしら。私ったらデリカシーの欠片もありませんね。

「それが……、二人が同じことを言うものでして……」

「同じこと……?」

 二人に目を遣ると、にっしっしっしと笑い合っています。

「『もうしばらくは自分たちだけをでろ』、と。ですから当分はお預けですね」

 はい、ご馳走様。

 レミちゃんとカコナの仲も相変わらず良さそうですし、聞くところによると三人で同衾どうきんも珍しくないとか。

 今度こっそり覗いてみたいですね。



◇◆◇◆◇

 帰ってきました。我がトロルの国アイトーロルです。

 ニコラもジルも、みんな元気なんですよ。
 バルクの復活したしてしばらくは、トロルナイツの若手に元気がなかったですけどね。

 え? あぁ、カルベですか?
 ようやくリザを諦めましてね、落ち着いて周囲を見回すと、トロルの娘たちが自分を見る目に熱が篭っている事についに気がついたんです。

 肥大しないバルクを本人は卑下していましたが、最近はバルク派でなくフィジーク派も人気ありますからね。

 割りと色々浮名うきなを流して巷を賑わしていますの。



『ただいま戻りました』
「お帰り。楽しかったかい?」
『ええ、とっても』

 アイトーロル王も健在ですよ。

「お茶でも淹れよう」
『ごめんなさいね』

 私は何にも触れませんから。
 けれど王の体調が良いんですよね。ご自分でお茶を淹れられる程度には。

 私がそばに居るようになったからかしら、なんて自惚れてみたりして。


「おじいちゃん! おばあちゃん!」

 バタン! と扉を開けて入って来たのは随分と背の高くなったアレクです。
 と言ってもようやくレミちゃんと並んだ程度の百六十センチですけどね。

「蹴った! が蹴ったよ!」

「なんと! 見に行っても!?」

「もっちろんだよ! 早く早く!」

 アレクとリザの部屋は隣です。
 アレクが十五になってすぐ、二人は結婚しました。

 盛大な結婚式ではジンさんやレミちゃんたちもみんなが参加してくれましたし、魔竜の長も祝福に現れ騒然としましたが、それはとても素晴らしい結婚式でした。

 もう要らないんじゃない? 

 アレクはそう言いましたが、王城三階テラスの手摺りの裏にはきちんとが用意され、全ての国民の前で二人はキスをしたんです。


 そして――

「リザ! おじいちゃんとおばあちゃん連れてきた!」

「アレク、しーっ」

 背をもたれさせてベッドに横たわるリザ。
 そのお腹はずいぶんと目立つようになってきました。

「アリサが蹴ったらしいじゃないか」

 アリサっていうのは仮の名前です。
 まだ女の子かどうかも分からないんですけど、リザの勘では間違いなく女の子なんですって。

「ええ、初めて。でも止まっちゃったみたいです」
「なんじゃ。そうか」

 見るからに残念そうなアイトーロル王。

「また幾らでも蹴りますよ、お爺様」
「そ、それもそうだな!」

「なんたってアレクの子ですもの。強くて美しい子になりますよ」

「何言ってんのさ。リザに良く似た強くて可愛い子になるんだよ!」

 えへへ、うふふ、二人は結婚後もずっと変わらずそう微笑みあいます。

 美しく可愛いかどうかは個人の価値観ですから、それはどうなるか分かりませんが、心も体も強くなることでしょう。

 なんと言ってもね。
 この子もリザと同じ、トロルの姫でございますもの。



◇◆◇◆◇

 魔王デルモベルトを倒した勇者と、そのヒロインたるお姫様のお話、これにて完結でございます。

 長くなりましたけど、みなさま、最後までお付き合いありがとうございました。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。

石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。 助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。 バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。 もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

処理中です...