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最終話「トロルの姫でございますもの」
しおりを挟むあれからも色々ありましたね。
あの後、ジンさんから離れないキスニ姫を引き剥がしてウル姉弟に託し、みんなでアイトーロル王の下を訪れ戦勝の報告をしたんです。
二組の勇者パーティを王は労い、各国へ伝令方を走らせました。
さらにロンがデルモベルトの姿を晒して見せ、ロン・リンデルの正体が改めて魔王となったデルモベルトである事を伝えたんです。
驚いたのは魔王だけではありません。
一つの相談も無かったため、ロンを除く全ての者が驚きました。
「アイトーロル王よ。賢君と名高い貴方へお願いがある」
「聞こう」
「我が魔族の国ロステライドと友誼を結んで頂きたいのです」
「友誼を……。同盟でなく?」
「俺と貴方の口約束程度で構わない」
「それに何か意味が?」
「他国との友誼がある――ロステライドにとってそれは建国後類を見ない事。その一事を持ち帰り、我ら魔族でも他国と友誼を結べる事を知らしめたいのです」
アイトーロル王は即決しました。
「結ぼう」
「有り難い!」
「勘違いするなデルモベルト――いや、敢えてロン・リンデルと呼ぼう。ロン・リンデル、貴君は魔王であると同時に、我が国の勇者パーティでもあるのだ」
そう。その通りですね。バフはほとんどなくても、確かにリザのパーティの一員ですから。
貴方ならそう仰ると思いました。
「すでに私と貴君は友誼を結んでいる、私はその様に認識している。改めて友誼を、などと言う必要さえない。だからこうだ」
王はベッド上で頭を下げて言いました。
「今後ともよろしく頼む」
「……魔族である俺に……頭を――こちらこそ……よろしくお願いします」
深々と腰を折って頭を下げたデルモベルト。その瞳から幾つもの涙が溢れて床を濡らしました。
そして王はさらに思い切った事に、デルモベルトをデルモベルトのまま客人として扱いました。
魔王ジフラルト打倒の立役者としてデルモベルトも、さらには人を遣わしアドおじさんまで呼び寄せて、戦勝祝いのゲストとして扱ったのです。
「アイトーロル王、さすがにこれはやり過ぎでは……」
「何を言うか。これは貴君の人となりや義理堅さを念頭に入れた、そう、外交だよ。これで貴君は尚更私を裏切れまい?」
はっはっは、と高らかに笑う王。
ロン、心配しなくても王はそんなに深く考えていないんじゃないかしら。
ただ新しい魔王を気に入っただけだと思いますよ。
そして戦勝祝いも終わって数日後のこと。
「ホントに行くの?」
「あぁ。世話になったな、アレク、リザ姫」
「レミさんもカコナもお元気で。たまには顔を見せて下さいね」
「見せる」
「リザ姫さまもね!」
ロンがロステライドに戻るのはまぁ分かりますが、レミちゃんもカコナも早速ついていくと言うのです。
「ロンてどっか惚けてるからさ。心配だしね」
「レミはロンと離れない。だから行く。一択」
そう言ってアイトーロルを離れたのがもう三年前。
今はそれぞれがそれぞれの地で頑張っていますよ。
私はたまに会いに行ってますが、久しぶりにみんなのところ覗きに行っちゃいましょうか。
◆◇◆◇◆
人族の国アネロナです。
ここはここのところ賑わってるんですよ~。
なんと言ってもね、一人娘である姫が立て続けに子を成しまして、みなすくすくと成長中なんです。
それを愛でる事だけに心を尽くすと決めたアネロナ王は引退し、王の座をを譲ったのです。
『久しぶりですね、ジンさん』
「お!? ば――、じゃなくて、ファ――でもなくて――」
『ば――、の方で結構ですよ。その方が貴方らしいじゃないですか』
「そうかよ? 助かるぜ婆さん。硬っ苦しいのはどうもな」
苦手なんて言ってられる立場でもないでしょうに。貴方はあの、大国アネロナの王なのですからね。
「まぁそうなんだけどよ。……参ったよなぁ、キスニが一人娘なの忘れてたぜ」
『一人娘だと覚えてたら愛さなかった?』
「いや、まぁ、そんな事ぁなかったろうけどよ」
そりゃそうでしょ。やる事やってもう二人も子供がいるんですから。ジンさんったら照れ屋さんなんですから。
「他の連中は元気してるか?」
『これからロンのところ覗こうと思うの』
「そうか。よろしく言っといてくれ」
◆◇◆◇◆
魔族の国ロステライドです。
「Fais attention!」
まぁ! いきなり『気をつけ!』との古の魔族言葉!
びっくりしました。
恐る恐るそーっと覗いてみましたら、ぷふっ――、笑ってしまいました。
魔王城一階の大広間を埋め尽くすのは、割りと良いバルクの魔族が数十人。そして一段高いところに立つのは小さな体の軍服さんが二人。
先ほどの魔族言葉を発したのはその片方。さらにもう片方が――
「Merci!」
「「「Merci!」」」
――礼! と告げると魔族たちが揃って『ありがとうごさいました』ですって。中にアドおじさんの姿も見えますね。
そしてぞろぞろと退出していくのを見送ってから姿を現しました。
『お久しぶりですね。なんですか今のは?』
「あ、お婆ちゃま」
「久しぶりじゃーん!」
聞けば、今日は他国についてのお勉強だったんだそうです。
講師はレミちゃん、助手がカコナですね。
『それは良いんですけど、どうして軍服なんです?』
「これ? 生徒どもが喜ぶんだ、コスプレすると」
「どっちが可愛いか、って盛り上がる」
『あ、そんな理由。良かったです、ほのぼので』
勉強は終わったか? と声を掛けながらやって来たのは魔王デルモベルト。
相変わらずちょうど良いバルクしてますね。
「これは! ファバ――いえ、アイトーロルのお祖母様。ご無沙汰しております!」
『はい、お久しぶりですね。ところでロン? 貴方はどっちが可愛いと思いますの?』
可愛くセクシーなポーズを取る二人を指差してデルモベルトに聞いてみました。答えはなんとなく分かっていますけど。
「どっち……――、どっち……? 無理だ、どちらも可愛い……」
でしょうね。だと思いました。
『そう言えばジンさんのところでお子さんたちの顔も見て来たんですよ。貴方たちはまだですか?』
あ、こんな事聞いちゃいけなかったかしら。私ったらデリカシーの欠片もありませんね。
「それが……、二人が同じことを言うものでして……」
「同じこと……?」
二人に目を遣ると、にっしっしっしと笑い合っています。
「『もうしばらくは自分たちだけを愛でろ』、と。ですから当分はお預けですね」
はい、ご馳走様。
レミちゃんとカコナの仲も相変わらず良さそうですし、聞くところによると三人で同衾も珍しくないとか。
今度こっそり覗いてみたいですね。
◇◆◇◆◇
帰ってきました。我がトロルの国アイトーロルです。
ニコラもジルも、みんな元気なんですよ。
バルクの復活したリザが結婚してしばらくは、トロルナイツの若手に元気がなかったですけどね。
え? あぁ、カルベですか?
ようやくリザを諦めましてね、落ち着いて周囲を見回すと、トロルの娘たちが自分を見る目に熱が篭っている事についに気がついたんです。
肥大しないバルクを本人は卑下していましたが、最近はバルク派でなくフィジーク派も人気ありますからね。
割りと色々浮名を流して巷を賑わしていますの。
『ただいま戻りました』
「お帰り。楽しかったかい?」
『ええ、とっても』
アイトーロル王も健在ですよ。
「お茶でも淹れよう」
『ごめんなさいね』
私は何にも触れませんから。
けれど王の体調が良いんですよね。ご自分でお茶を淹れられる程度には。
私が側に居るようになったからかしら、なんて自惚れてみたりして。
「おじいちゃん! おばあちゃん!」
バタン! と扉を開けて入って来たのは随分と背の高くなったアレクです。
と言ってもようやくレミちゃんと並んだ程度の百六十センチですけどね。
「蹴った! アリサが蹴ったよ!」
「なんと! 見に行っても!?」
「もっちろんだよ! 早く早く!」
アレクとリザの部屋は隣です。
アレクが十五になってすぐ、二人は結婚しました。
盛大な結婚式ではジンさんやレミちゃんたちもみんなが参加してくれましたし、魔竜の長も祝福に現れ騒然としましたが、それはとても素晴らしい結婚式でした。
もう要らないんじゃない?
アレクはそう言いましたが、王城三階テラスの手摺りの裏にはきちんと踏み台が用意され、全ての国民の前で二人はキスをしたんです。
そして――
「リザ! おじいちゃんとおばあちゃん連れてきた!」
「アレク、しーっ」
背をもたれさせてベッドに横たわるリザ。
そのお腹はずいぶんと目立つようになってきました。
「アリサが蹴ったらしいじゃないか」
アリサっていうのは仮の名前です。
まだ女の子かどうかも分からないんですけど、リザの勘では間違いなく女の子なんですって。
「ええ、初めて。でも止まっちゃったみたいです」
「なんじゃ。そうか」
見るからに残念そうなアイトーロル王。
「また幾らでも蹴りますよ、お爺様」
「そ、それもそうだな!」
「なんたってアレクの子ですもの。強くて美しい子になりますよ」
「何言ってんのさ。リザに良く似た強くて可愛い子になるんだよ!」
えへへ、うふふ、二人は結婚後もずっと変わらずそう微笑みあいます。
美しく可愛いかどうかは個人の価値観ですから、それはどうなるか分かりませんが、心も体も強くなることでしょう。
なんと言ってもね。
この子もリザと同じ、トロルの姫でございますもの。
◇◆◇◆◇
魔王デルモベルトを倒した勇者と、そのヒロインたるお姫様のお話、これにて完結でございます。
長くなりましたけど、みなさま、最後までお付き合いありがとうございました。
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