84 / 103
78「デートをしませんか」
しおりを挟む『わたくしが参ります』
そう言ったリザの言葉に敏感に反応したのはもちろんアレク。
「そんなのダメ! 危ないよ!」
アレクの気持ちも分かります。
十年前、以前のリザと遜色ない強さを誇ったリザの両親。さらにロン達五人の冒険者を加えても、一頭の魔竜を屠るのが限界でした。しかも大きな犠牲を払って。
けれど今の、勇者認定を受けたリザであれば……
「アレク、落ち着いて聞いて下さいね」
「そんな落ち着いてなんて――」
「アレク。聞いて下さい」
うぐっ、とアレクが口から出し掛けた言葉を飲み込みました。
「十年前と同様であれば、恐らく二頭は居るでしょう。わたくしでなくジンさんが魔竜に当たるとすればどうでしょうか?」
「倒せる……と思う」
「回復の出来ないジンさんが、お一人で、ですよ?」
「倒せても……無事じゃ済まない、かな」
まぁそうかもな、というふうにジンさんが頷いていますね。
ゆっくりと、リザがアレクに一つずつ話しを続けます。
「レミさんならば? 魔力に限界のあるレミさんが、ですよ?」
「短期決戦なら……けど、危ない、かな」
レミちゃんも少し自信なさげに頷きました。
「もしここに今、ジフラルトが現れたらどなたがそれを倒すのですか?」
「――…………僕」
こっくりと、不満ありげにゆっくりとアレクも頷きます。
「ですからわたくしが行くのが一番良いのです。それに何より、狙われているのはわたくしの国です。分かってくれますね?」
リザの癒術は一級品、さらにリザの精霊力は辺りにマナさえあればほぼ無限です。
単騎で赴くのであれば、アレクを除けばリザが最もバランス的にもベスト、とまでは言いませんけどベターなのは自明ですね。
「わ、分かる……けど――」
アレクの気持ちももちろん分かりますよ。
一人で送り出して何かあったら――そう思うのもしょうがありませんよね。
そんな泣き出しそうな顔のアレクへ、リザが優しく語り掛けます。
「アレク。事が全て済んだら……またデートをしませんか?」
「……デート?」
「この間カコナから美味しいパンケーキのお店を教えて頂いたのです。ご一緒しませんか?」
「する! 僕パンケーキご一緒! するよ!」
「約束ですよ?」
「うん! 約束する!」
屈託なくそう返事を返したアレクへ、微笑みを消して真剣な眼差しのリザが続けます。
「――わたくしは、絶対に約束を違えるような事はありません。ですから、行かせてください」
少しの沈黙。
そして、ふぅっと息を吐いたアレクが言います。
「……ずるいなぁリザって」
「これでもわたくし大人ですから。大人は狡いものなんですよ」
「僕も早く大人になりたい。そしたらこんなの、一人でチョチョチョイっと解決させるんだけどな」
「お一人でなんてさせませんよ。その時もわたくしがお手伝い致しますから」
ニコっと微笑んだリザの胸へ、アレクが勢いよく飛び込んでしがみつきました。
「きゃ――こら、ダメっ――あんっ」
「リザ! 僕まだ子供だからか! みんなが言う今のリザの綺麗はよく分かんない!」
ぎゅっとリザにしがみついたアレクが大きな声で続けます。
「でも! 前のリザも今のリザも同じくらい好きだよ!」
え…………まぁっ! それって――!?
「アレク? それは……」
「よく分かんない!」
アレクは元気よくそう返事をしましたが、そういうものかも知れませんね、恋心って。
「でもホントだよ! 一番とか二番とか、そんなのもう関係ない! どっちのリザも較べられないくらいに好き!」
むぎゅう、とリザの胸へ、真っ赤になった顔を隠すように押し付けるアレク。
それを慈しむように、さらにその上からアレクをぎゅっとその胸に抱きしめるリザ。
良いシーンでしょう?
なのにそれを見てニヤつくジンさんがレミちゃんに向かって、両手を使って胸の前で円を描きつつ下ろし、お腹の下あたりでもう一度円を描いて見せました。
すかさずレミちゃんの膝蹴りがジンさんの太腿の外側にクリティカル。そして悶絶するジンさん。
そりゃそうなるでしょう。
なにが、ぼん・きゅっ・ぼんですか。
もっとやったんなさいレミちゃん。
「ねぇアレク?」
「なに?」
「今のわたくしにアレクを振り向かせた、そう思っても良いのかしら?」
そうそう、それですよ。
ちゃーんと答えて貰いますよ~。
「あ、あー……そ、そういう事になっちゃう、かな」
「アレク――っ!」
感極まったリザは、その強力をもってアレクをぎゅうぅぅっと抱きしめました。
「ちょ、ちょっと――リ、リザ、くる、苦しっ、い、息が出来ない、よ!」
「――ご、ごめんなさい! 嬉しくってつい!」
げほっげほ、げほ、と咽せるアレクがちょっと待ってというふうに掌を広げて息を整えます。
そして改めて――
「リザ、早く戻ってきてね」
「ええ。それこそチョチョチョイっと済ませてアレクを助けに戻りますわ」
「うん、待ってる。終わったらさ、デートもするけど……、僕と結婚しよ」
「――! ……ええ、喜んで」
ふんわりと微笑んだリザ。
とっても綺麗ですよ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる