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56「付いてきてくれるだろうから」

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 リザのスピーチの出来栄えもあって、私は問題ないと思ったんですけど、ホントに騒動はどこからでもやってきますわね。


「――姫! 今はいかんでござる! そんな空気ではないでござろう!」

「うるさい! 今行かないでいつ行くっていうのよ!?」

 姫は姫でもアネロナの姫、キスニツプヤ姫ですね。
 ノドヌさんも大変よねぇ。

「ちょっとアレクちゃん! キスニのこと放っておくなんて酷いよ!」

 そう言えばそうですね。あの暴言があった日からこの三日、キスニ姫たちアネロナ勢は完全に放ったらかしでしたね。

 そうは言ってもキスニ姫が悪いんですよ。
 アネロナからの使者の筈なのに、王城に顔も出さないんですもの。

 ボラギノ女史が一度、キスニ姫の暴言について謝罪する為に王城へ来はしましたが、リザへこっそり謝罪する為もあって公式訪問ではありませんでした。

 もしかしてアイトーロル王をはじめとする王城の者たちは、既に使者が着いている事さえ知らなかったりして。

「キスニはさ、アレクちゃんが謝りに来ると思って一番亭でじっと待ってたの! なんで謝りに来ないの!?」

「僕あれから一度も宿へ戻ってないもん。それに謝ることないし」

「それがよ、キスニの奴うるっせえのなんのって。アネロナのお付きの連中ほんと大変だぜ」

 そう言えばジンさんはあの夜――リザが気を失った夜――王城にてしばらく待機はしていましたが、普通に一番亭に帰ったんでしたね。

「わっざわざ一番亭で宿取りやがってよ、オメエが帰って来なかった二晩、ぎゃーこらぎゃーこらよ。他の客の迷惑もお構いなしだぜ」

「バカジン! 黙れ! お父様に言って勇者パーティから外してやるんだから!」

「そんなん怖くねぇっての。バーカバーカ、キスニのバーカ」

 ジンさん、あなた平気なんですか? ご自分のとこのお姫様ですよ?

「姫! 相変わらずジン殿と仲が良いのは分かったでござるから! もう宿へ戻るでござるぞ!」

 相変わらずって、普段からこんななんですか? アネロナも変わりましたね。
 それともジンさんとキスニ姫がおかしいのかしら?

 なんでも良いですけど、この茶番、見てなきゃいけないんでしょうか……。
 周りのトロル達からも、王城三階のテラスからも、視線を集めっぱなしですよ。


「ノドヌは黙ってて! キスニはアレクちゃんとあのトロル女に用があるんだから!」

「……ねえキスニ。今は大事な時なんだ。後で顔を出すから大人しく部屋に帰ってくれない? さもなきゃホントに怒るよ?」

 アレクはジンさんを押し退けてキスニ姫の前へと進み、諭す様にそう言いました。
 この中で一番の歳下がアレクって驚いちゃいますね。

「――こ、怖い顔したってダメなんだから! キスニ知ってるもん! 新しい魔王は数年は来ないって!」

 チヨさんが言いふらした噂をどこかで耳にしたらしいですね。あ、いえノドヌさんには説明したんでしたっけね。
 魔王ジフラルトが既に魔王の力を得た事はまだ周知していませんから、一応は最新の情報ですね。

「……だったらなに?」

「お父様に言ってアレクの勇者認定も取り上げちゃうんだから! それで、誰かに新しく勇者認定あげちゃうの! 数年もあったら充分なんだから! それが嫌なら――」

「この間も言ったけど、好きにしてくれて良いよ。アネロナの勇者認定もソレもいらないから」

 アレクが食い気味に、キスニ姫が手首に着けた精霊武装を指差して言いました。

「仮に勇者認定を取られても、僕は出来るだけの事をするよ。とりあえず――」

 アレクが両手でジンさんとレミちゃんの肘を掴んで続けます。

「この二人と――」

 さらに視線を三階テラスへ向けて――

「リザは僕に付いてきてくれるだろうから!」

 ――満面の笑顔と共に、テラスのリザへ向けてグッと拳を握って掲げ上げます。

 テラスから身を乗り出す様にして覗いていたリザは、赤く染まった頬を両掌で押さえて微笑んで、両手をグッと握って返事としました。


 やや状況が掴めないながらも、アレクたち勇者パーティとリザの絆の様なものを感じ取ったトロル達がパチパチパチと手を叩き始め、それがある程度の拡がりを見せた頃、すかさずアイトーロル王は皆へ言葉を届けました。


「――我が孫娘、エリザベータ・アイトーロルへ勇者認定を『与える』――」

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