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15「冗談か真実か」
しおりを挟む「俺、ロン・リンデルは――、魔王デルモベルト本人なんだ」
ロンがとんでもない事を言い出しました。
いやホント驚きましたね。
その言葉の真偽はともかくとしても、本当の本当に衝撃の告白でした。
もちろん私としてはそんな筈ないと思うんですけど。
うーん、それにしてもよく分からないんですよね。
まぁ、百歩譲ってロンが魔王デルモベルト本人だと言う言葉を信じたとして、でもだからってそれを自分でバラす必要というか理由というか、それがちっとも私には分からないんですけど?
どうやら私だけでなく、リザも同じ気持ちみたいですね。
「ロン? 何を仰っているの?」
アレクはリザと違って然もありなんという顔を一瞬したものの、『リザを信じる』と言った手前がありますからね、なんとも言えない微妙な表情をしていますね。
カルベに至っては、速すぎる展開に一つもついていけていません。少し離れて立ってアレクとロンとリザの顔をキョロキョロと見回したりしています。
一見すると何かの審判をしているかのような立ち位置でちょっと笑ってしまいました。
ごめんなさいねカルベ。
「どういう冗談ですの? 言って良い事と悪い事があるでしょう?」
その存在の全てが優しさで出来ているという女神ファバリンばりに優しいと言われるリザでさえ、ちょっと怒っている様です。
それはまぁ、そうでしょうね。
しかしロン・リンデルに動揺は見られません。
黙ったままで凛々しくリザを見詰め、そしてその視線に耐えられなくなったリザが赤面すると同時くらいにアレクへと視線を遣りました。
「さすが勇者アレックス・ザイザール。幼くして大国アネロナの勇者認定を受けるだけある」
「……リザを信じると言った僕の立場はどうすれば良いのさ?」
ロンに褒められたアレクがそう言って頬を膨らませました。
先程までのアレクが纏っていた剣呑な様子が些か衰えた様な気がしますが、どうでしょうか?
ゆっくりと歩み寄るアレクとロン。
ロンは腰の剣へと手を伸ばしつつ、アレクも手首の精霊武装へ指先を近付けながら。
「――待ってください!」
そしてその間に割って入ったリザが声を上げて二人を制し、アレクへ向けて尚も言い募ります。
「ア、アレク! ロンが言ったのは――、そう! きっと冗談なんですよ!」
「リザ……。そいつの言葉は冗談なんかじゃないよ」
真剣な顔のアレク。
いつもよりも大人びたしっかりした声音でそう返し、さらにはっきりと続けました。
「――でもね、僕はそいつを斬らないよ」
左手首に近付けた右手を離して真っ直ぐに立ち、リザへそう告げます。
「っ! 冗談だと分かってくれたのですね!?」
「違うよ、リザ。さっきのは冗談じゃない。けど、近付いて分かった。そいつは間違いなく人族なんだ」
? アレクは何を言っているのでしょう?
私やリザだけじゃなく、話を聞いていたジンさんやカルベも首を捻っていますね。
「そいつは間違いなく魔王デルモベルト本人だけど――、けど、間違いなく人族でもあるんだ」
あ、いけません。
こんな物騒な話題を今までずっと街中で続けていたものですから、物見高いトロルやおっかなびっくりの人族なんかが傍観しておりましたが、遂に事の大きさに気付いたらしくざわざわと騒ぎになってきたようですね。
「アレク! ロン! こちらへ!」
リザが二人の手首を引っ掴み、トロルの姫の類稀なる膂力をもって引っ張っていきました。
どうやらギルドで部屋を借りるつもりのようですね。
男性陣二人は特に抵抗するでもなくリザに連れて行かれ、共にギルドの扉を潜りました。
まぁ、抵抗するだけ無駄ですけどね。
単純なパワーで言えばリザに敵う生き物はそうそう居ませんから。
そして残されたジンさんとカルベの二人……。
中でもカルベは悲惨です。
状況についていけてもなかったですし、なんと言ってもデート中だったんですから。
カルベの名誉の為にも明言しますが、リザはカルベに対してトップレベルの好印象を持っていますの。
ただ、今日はとにかくタイミングが悪かったと言わざるを得ませんね。
「カルベの兄ちゃん、ちょいと呑みにでも行こうぜ」
「ジン殿……。あなたはついて行かなくて良いんですかい?」
「良いんじゃねえか。アレクはあのハンサムを斬らないって言ってたしよ。そんな事より今はカルベの兄ちゃんと呑みに行く方が大事な事だぜ」
「ジン殿……お供致しやす……」
二人はそんなやり取りを済ませ、真っ昼間でもお酒の呑めるお店を求めてこの場を離れてゆきました。
ああ見えてジンさんは世話好きの兄貴肌ですから、カルベの事はジンさんに任せておいて大丈夫そうですね。
そしてギルドへ退避した三人ですが、顔パスであるリザの『二階の個室を借りますわ!』の一声をもって即座に個室が一つ充てがわれたようです。
「……なんだかんだあって疲れました……。けれどロン。言っても良い冗談と悪い冗談の区別くらいできますでしょうに」
「そうは言われますがね、姫。冗談ならば良いも悪いもあるでしょうが、真実はいつも、二つも三つもないのですよ」
あら。
今度はロンがどこかの探偵のような事を仰いましたよ。
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