14 / 103
12「ある冒険者とリザと」
しおりを挟む『――お、おい見ろ。トロル騎士団のカルベと腕組んで歩いてるの……、まさか……リザ姫じゃねえか!?』
『カルベの野郎、いつの間に姫とそんな仲に――!』
『――ひ、姫……。お、俺の姫……姫ぇ――!』
どうやらそんな感じで街をひと騒ぎさせたらしく、デート冒頭と違って少し距離を取り、リザとカルベは腕どころか手も繋がずに街を巡っていらしたの。
まぁしょうがありませんよね。
リザはトロルのアイドル、カルベだってトロルナイツの隊長格ですもの。名と顔の知れた二人が腕を組んで歩いていれば噂にもなりますわ。
でもね。
それでも二人はね、割りと良い感じだったんですよ。
二人で買い食いしてみたり、花壇のお花を二人で並んで眺めたり、二人でそれぞれお互いに似合う帽子を探したり。
リザが元々思い描いていたデート像の正にそのままを擬えたかの様なデートだったんですよ。
これには私も驚きました。
トロルの男どもは根本的にね、恋愛すっとこどっこいばかりなの。
例に漏れずカルベもそういう子だったはずなんですけどね。いつの間にかカルベなりに勉強したみたいですね。
そうこうしてぐっと二人の距離も縮まったかに見えたお昼過ぎ。昼食をどこで取ろうかなんて話す二人がギルドの側を通りがかったの。
ギルドからもほど近い広場中央の女神ファバリンが宿ると言われる大木へ、二人が祈りを捧げ終えて顔を上げたその時、ギルドから一人の男性が出て来たんです。
そしてその男性を見たリザが声を上げました。
「貴方……もしかして……ロン? ロン・リンデルじゃなくって?」
「……? いかにも、俺の名はロン・リンデルだが……?」
スラリと背の高いその男性はそう名乗りつつも、呼び掛けたリザの事は誰だか分からないご様子でした。
ロン・リンデル……。
聞いた事はある気がしますが、どなただったかしら?
歳をとると記憶が曖昧になっていけませんね。
「やっぱりロン! わたくしです! エリザベータ・アイトーロルです!」
「エリザ……あっ、なんとエリザベータ姫でございましたか。立派なレディになられていて分かりませんでした」
「まっ! ロンったら!」
さりげなくリザを褒めるその手腕。
このさりげなさはカルベやアレクには難しいでしょうね。
背中まであるストレートの黒髪、少し浅黒いお肌にスラリと高い背、明らかにトロルではありませんし、魔族ほどには暗い色のお肌ではありません。
もちろんツノもありませんし明らかに魔族の容姿ではありません。どうみても人族のそれですが、けれどなぜか、なんとなく警戒心を抱いてしまいます。
それというのも……ただもうとにかく、見れば見るほどに…………美形なんです。
「――姫?……………姫!」
「……え、なあにカルベ?」
「どなたですか?」
カルベも気が気でないでしょうね。さっきまでのリザと雰囲気が全然違いますものねぇ。
「あら。カルベは初めてかしら? と言っても十年振りですから、会っていても分からないかも知れませんね」
十年振りですか? …………あっ! あの時の――
「十年前、はぐれ魔竜退治を手伝ってくれた冒険者の一人、ロン・リンデル様ですわ」
あのロン・リンデルでしたか。
私としたことが、すっかり失念しておりました。
十年前のあの、リザの両親である王太子とその妃が亡くなる原因となった二頭のはぐれ魔竜。
今の半分ほどの総数だったトロル騎士団が一頭にあたり、王太子と王太子妃にロンやその他数人の冒険者を加えてもう一頭にあたりました。
どちらもそれぞれがなんとか魔竜を仕留めはしましたが、王太子と王太子妃の二人は大怪我を負い、その傷が元で数日後に息を引き取ったんでしたね。
「お久しぶりですね、ロン。あの時の皆様もお元気ですか?」
「皆様……? あぁ、あの冒険者たちとは一緒じゃありませんよ。俺はずっと一人、緊急時だったのであれは臨時パーティですよ」
確か……、ロンの他に五名。
全員がかなりの腕前だったのを覚えています。リザの両親と併せてたったの八名で魔竜を仕留める程ですからね。
その冒険者の中でもロンは頭一つ抜き出た存在で、リザの両親に迫ろうかという力量でした。
確かリザの両親が盾役に徹し、トドメを刺したのがロンだったわね。
そのロンが片膝を折ってリザに対して跪きました。
あらやだ、まさか、もしかしてまた求婚かしら?
「エリザベータ姫」
「――な、なんでしょう?」
リザの声も少し上ずっていますね。
これほどの美形ですからそれもしょうがありませんけど。
しかしこんなにハンサムだったかしら。
いえ、綺麗な顔をしていたのは覚えているのです。
確か当時二十歳くらい、この十年で大人の色気を醸すようになったせいかしら。
「ご両親のことは誠に申し訳ありませんでした。あの時、俺にもっと力があれば二人は……」
「――なっ、何を仰います! 貴方がいてくれたお陰で最低限の犠牲で済んだのです! 二人だってそう言って息を引き取ったのですから!」
……まぁ、そうでしょうね。そんな立て続けに人族の男がトロルの女に求婚なんてありませんわよね。
「貴女ならそう仰るとは思っておりました。アイトーロルの姫としてのお立場もありましょうから。けれど一人の少女の両親を助けられなかったのですから――」
「い、いえっ、わたくし個人としてもそう思っております! 謝罪など無用にございます!」
「――ならば、この俺を許すと……?」
「許すも何もありません! 貴方には感謝の言葉と――、と……、感謝の言葉しかありません!」
緑のお肌でもよく分かる程にリザの顔が真っ赤ですわね。
それと言いますのもね。
リザの美醜に対する感覚が人族と同じになった原因、それはこのロン・リンデルへ恋心を抱いた事が発端だったのです!
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる