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11「オフショルか魔王復活か」

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「お? おいアレク。どこ行こうってのよ?」

 ふらりと部屋を出て行こうとしたアレクにジンさんが声を掛けました。
 そりゃあそうですよね。
 魔王復活騒ぎの真っ最中ですから。


「こんな事してる場合じゃないんだ」

「――おい。まさかもう魔王の奴が来たってのか!?」

「魔王なんかどうでも良いんだ……。そんな事よりリザが……、オフショルのリザが……」


 ジンさんの当然の疑問に涙目のアレクがえぐえぐと、涙がこぼれ落ちないように堪えながらそう言いました。

「……あぁ、思い出しちまったのか。やべーな」
「やばすぎ。絶対ダメ。もう一度殴る」

 ジンさんとレミちゃんが視線を重ね、決心したように頷き合いました。
 ちょっと貴方たち、そんなのでも勇者さまなんですよ?

「じゃ、僕は行くから」

 そう言い残したアレクが扉に手を掛け、そろりそろりとその後ろから殴り掛かろうとするジンさんとレミちゃん。

 置いてけぼりを喰らった老トロル三人が息を呑んで様子を見守っていましたが、意を決したニコラが声を上げました。

「アレク殿! 事は魔王復活なのですぞ!」

「――貴方がたは! 魔王復活とリザとどちらが大事だと言うのですっ!」

 勢いよく振り向いてそう叫んだアレク。
 十二歳の少年が発したとは思えない物凄い迫力です。

「……ど、どちらが大事……ですと? そりゃあ――」
「そりゃ姫さまが何事よりも一等大事に決まってらぁ」

 ニコラとジルがアレクの言葉に頷き合いました。
 アレクの迫力に気圧けおされての事だろうと思いますけど、論点がはっきりとズレているように思いますよ?

 肩を出したリザがカルベとデートをしたからって誰も死にはしませんからね。


「でしょう!? だから僕はリザのもとへと参ります。ジンにレミ、アネロナへの手紙に精霊武装の件も書き添えておいてね」

 再び、じゃ! と言い残して背を向けたアレクへ、今度はアイトーロル王が声を上げました。

「待たれよアレク殿!」

「……なんです?」

 少し殺気を帯びたアレクがアイトーロル王へ顔だけ向けてそう言います。ピリピリしてますね。

「今、リザは人生初のデート、それは知っておられるか?」

「――! やっぱりそう……なら急がなきゃ――」

 再び慌てた様子のアレクが扉に手を掛け――

「――リザに嫌われますぞ」

 ――王の声に反応しビクリと背を伸ばしました。


 ピタリと体を止め、ゆっくりと振り向いてみんなの顔へ視線を彷徨わせたアレク。

「……き、嫌われちゃう?」

 老トロル三人と勇者パーティの二人がコックリと頷いて、代表する様に唯一の若い女性であるレミちゃんが言いました。

「嫌われる。絶対。間違いない」


 ノブを掴んだままのアレクはわなわなと体を震わせ、そして意を決したか、勢いよく扉を開きました。

「リザに嫌われたくない! けど……、けど男には行かなきゃならない時があるんだ……。それは……今なんだ!」


 カッコいい事を言った風にそう叫び、バァンと開いた扉からアレクが勢いよく飛び出して行ってしまいました。


 …………行っちゃいましたね。


「なんだか分かんねえが、童っ子わらしっこ勇者は青春してやがるんだな」
「それがなジル婆。こないだアレク殿がリザ姫にな――、でな――、でもな――」

 ニコラがジルにこの間の告白の顛末を事細かく耳打ちして、さらにアイトーロル王も聴力強化を自分に施し盗み聞きしています。

 アレクのプライバシーなんて全くありませんね。
 だからって私は別に気にしませんし、きっとアレクも気にしないと思いますけど。


「ジン。どうする?」
「どうするったってオメー。俺がアレク、レミが魔王復活騒ぎ、そうしかねぇだろ」

 老トロル三人と違い、勇者パーティの二人はいたって冷静に今やるべき事を速やかに簡潔に相談し、さっくり結論に至ったようですね。

 暴走しそうなアレクをレミちゃんじゃ体力的には止められない――、そういう意味かと思いましたが実際は、ジンさんじゃアネロナへの公式な手紙を書くのが難しい、というのが真実らしいです。

「そうね。じゃ、ジン。アレクよろしく」
「任しとけって」

 ジンさんらしくビッと二本の立てた指を額に当ててレミちゃんへ返事を返し、そしてアレクの後を追って駆け出しました。

 もう少しこちらの様子を見てから私も後を追いましょうかね。
 ジンさんも頼もしいんだか頼もしくないんだか良く判りませんからね。


「……いのか?」

 アイトーロル王が再び筆を取って手紙を書き進めながらレミちゃんに声を掛けました。

「良くはない。けど、今できる最善を尽くす。それしかないでしょ」

 その後、王が書き終わるのを待ち、それを一読したレミちゃんも違う便箋に向かい何事かをしたため、それをニコラへと差し出しました。

「出来るだけ早く、アネロナへ」

「相分かった。トロル騎士団ナイツの中でも最も足の速いものをると誓う」

 騎士団とは言いますが、これを読んでいる皆様方のイメージと異なりトロル騎士団ナイツの者は馬に乗る訳ではありません。
 乗れる馬がないんですよ、重くて。
 ですから基本的に走るしか手紙を届ける手段はありませんのよ。

 それでもトロルの筋肉で走れば、そんじょそこらの馬より速いですけどね。

 そしてニコラはトロルナイツの詰所へ駆け、レミちゃんとアイトーロル王は今後の為の打ち合わせを始めました。


 さて私はと言いますと、少し前から意識をいてリザ達の様子も窺っていたんですけどね。

 それがなんだかね。またややこしくなりそうな展開だったんですよ。


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