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三章✳︎勇者襲来編
101「天狗の策」
しおりを挟む大きな穴を開けた二人を労った天狗は、砦東端に設えられた跳ね橋に目を遣った。
「そろそろだと思うんだけど……。あ、来たかな」
「リオさんでござるな? 首尾良くいったでござるか?」
「それはもうバッチリさ。僕が付き合ったのは途中までだけどね」
ヨウジロウはトザシブのエスード商会にある大型転送術式を使い、ここシャカウィブへとやって来た。
着地点はカシロウらと同じ、天狗がセットした砦西端の地下牢。
天狗による治癒がちょうど済んだリオが立ち上がった時、ヨウジロウは牢内に着地した。
ちょうどそのタイミングは、カシロウとタロウが砦三階に辿り着き、天狗の『魔術の瞳』が砕かれた少しあと。
そしてヨウジロウは天狗の提案に従い、地上に上がると共に砦から出て、砦のすぐ南に位置するシャカウィブの街へと移動。
街の中を走って真っ直ぐに砦東端へとさらに移動。
さらに外壁と神力の刃を交互に蹴って最上階を目指していたヨウジロウの頭上へと、タロウが降ってきたのを捕まえて登り、クィントラ戦へと参戦した。
そしてリオは天狗と共に、リオに治癒術を使い続けて逝った部下に礼を告げ、囚われの部下、及びクィントラに従わなかったシャカウィブ警備隊の残りの解放を目指して駆けた。
そして今、砦東端の跳ね橋が降りた。
「来た来た。これで僕らみたいなチビ三人よりかは随分とマシだよね」
「……焼け石に水と感じるのは儂だけじゃろうか?」
「ま、僕も感じるけどねー」
パガッツィオ軍五万に対し、皆が騎馬のリオ率いる混成軍がおよそ千ほど。
「あれ? それでも聞いてたより増えたでござるな?」
「ヤマオさんも相当殴ったけど、僕とリオさんもだいぶ殴って正気に戻したからね」
タロさんは斬りまくって殺しちゃったけど、と小声で付け加えた天狗に対し、堂々と胸を張って言い放った。
「奴らも仕事のため、儂はカシロウのため、それぞれが信念を守った結果に過ぎん! 後悔はないのじゃ!」
「タロウ殿なんだかカッコイイでござる!」
「そうじゃろそうじゃろ!」
リオ率いる混成八軍は、騎馬とは言え千人。
天狗の下へ合流したものの、五万には相当に見劣りする。
「うーん、そうだね。戦っても良いけど――」
天狗はタロウにヨウジロウ、そしてリオを見て、五万相手でもなんとか太刀打ちできそうだけど、と呟きを加え、
「――でもここはハッタリでやり過ごそっか」
タロウを見詰めてニヤリと笑い、そう言った。
そして幾つかの打ち合わせを済ませ、決め手となるタロウには、穴に落ちたパガッツィオの兵が登るまでの少しの時間を練習に充てた。
タロウとヨウジロウが開けた穴を挟み、馬に乗った序列八位リオ・デパウロ・ヘリウスが大声で名乗りを上げた。
「私は魔王国八軍の将リオ・デパウロ・ヘリウス! 貴殿らは我が国の土地を侵しておる! 即刻立ち去られる事を求める!」
「……リオさんて大きな声出せるんだね」
「驚いたでござるな」
ヒソヒソと囁き合った天狗とヨウジロウ、対してザワザワと響めき合うパガッツィオ軍。
しかし当然、理解した上で他国の土地を進んでいるパガッツィオ軍は立ち去らない。
大穴を迂回し、天狗らと混成八軍をただ踏み散らかそうと南下を進めたが、さらにその一団の先頭に進み出た者がいた。
急遽拵えた土を盛っただけの台に登り、
「儂の名はキョウゴク・タロウ・アルトロア! その名の通り、聖王国アルトロアの勇者であり聖王!」
大声でタロウがそう名乗りを上げた。
再び響めくパガッツィオ軍に向け、さらにタロウが言う。
「我がアルトロアは! 魔王国ディンバラと正式に国交を結ぶ! このままこれ以上進むと言うならば覚悟せよ!」
このタロウの宣言は魔王国を囲む人族国家としては、目を瞠るほど有り得ぬもの。
しかもあの、獰猛な聖王国アルトロアがだ。
しかし、パガッツィオ軍はほんの少しの躊躇いを見せたのみで軍を進めた。
「お、お、おぉ? この儂の――聖王の言葉を……まさか無視じゃと?」
「タロさんタロさん、もうアレ、やっちゃって」
「お? おぉよ! やったるぁぁ!」
台の上、目を閉じて集中するタロウ。
そのタロウへ向けてゆっくりと進むパガッツィオ軍。
その距離は少しづつ縮まって、混成八軍の者がざわつき始めた頃、両軍から悲鳴が上がって――
「やったでござるぞタロウ殿!」
「お? 出てきたのか?」
「出たでござるよ! タロウ殿の竜!」
――パガッツィオ軍は瓦解した。
目を開いたタロウが見たのは、とぐろを巻いて鎌首を持ち上げた、黄色い鱗を持った巨大な竜。
胴の太さでおよそ五尺。
全長およそ一町。
その巨大な竜がタロウの背後に突然現れた。
蜘蛛の子を散らすように、パガッツィオ軍の兵士達が叫び逃げ惑う。
ほんの数瞬後には戦う気のある兵士は一人もいなくなった。
それを見て最も戸惑うのはタロウ。
「何故あれほどに怯えたんじゃ?」
「あれ? イチロワと戦ったんじゃないの?」
「戦ったが……なんか関係あるのか?」
「イチロワの宿り神も竜だからね。パガッツィオの人たちは怖くてしょうがないんだよ」
ニカリと笑い、自分のこめかみ辺りを指差して天狗が言った。
「思った通り、僕の作戦勝ちだね!」
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