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124「ブレてませんね」
しおりを挟む「ねぇ、ヴァンさん」
「どうしました?」
明日のお昼前にはファネル様のお屋敷に着く地点を、この旅の最後となるであろう野営地としました。
「今だったら誰が一番強いっすかね? 俺らん中で」
おや?
今までのタロウならきっと僕が一番強いと思っていてくれた筈ですが、みんなの成長に著しいものがあるからでしょうか。
「いやね、単純に強いのはヴァンさん。これは譲れんと思うんすけど、二番は誰かなって気になったんすよ」
今でも僕が一番だと思ってくれているんですか。実際のところどうでしょうね。
『ロップス殿も相当に強くなってるでござるな』
「いや、しかしパンチョ殿がおられる。私などまだまだよ」
そうかも知れませんね。経験という点ではパンチョ兄ちゃんが一番ですからね。
「皆誤解しているようだからはっきり言ってやろう。我とロップス殿が真剣に戦えば、勝つのはロップス殿よ。間違いなくな」
「え? そうなんすか?」
「それどころか、プックルやロボ殿の方が我より強いかも知れんわ」
『え? そうでござるか?』
そういうものでしょうか?
みんなあまりピンときていないようですが。
「タロウはよく分からんがな」
その発言にはみんなピンとくるようで頷いています。
タロウも頷いていますが、本人が一番よく分からないようですね。
「じゃあ一番強いのはヴァンさん。次がロップスさん――」
「いや、ウギーだろう」
『ボクも入れてくれるんだね』
「あ、そっすね、確かにウギーはクッソ強えっす。じゃヴァンさん、ウギー、ロップスさん、でロボとプックル、でパンチョさんすか」
『タロウ殿は?』
少し沈黙。
「タロウだけは分かりませんね」
「分からんな」
『もしかしたら一番強いかも知れないし、普通に一番弱いかも知れない』
「こっち来た頃よりは強くなったと思うんすけど、どれ位かはよく分からんっすねー」
タロウの強さはよく分かりませんが、さらに現在、明き神の魔力は使用禁止でお願いしています。
依然として続いている地鳴り、この状況でさらに使うのは危険だとの判断です。
『ボクを二番に入れてくれたのは嬉しいけどさ』
「なんだ不満か?」
『魔力全開のヴァンなら確かに負けるかも知れないから不満とかじゃなくって』
「じゃあなんだ。はっきり言え」
『イギーはともかくアギーはもっと強いよ』
流れる沈黙を破ったのはロップス殿とパンチョ兄ちゃん。
「そんな事は知らん! 私が叩っ斬る!」
「変なもの飲まされた恨み、晴らさんでおれるか!」
策なんかはありませんが頼もしいですね。
「実際のところ、僕らには進まないという選択肢はありません」
『ま、そうだね。ごめん、忘れてくれ』
「じゃ今夜もお願っす!」
精魔術結界の維持に必要な量を残して、僕の魔力をギリギリまでタロウに移します。
移さないとタロウの巨大な魔力が使えないというのもありますが、僕の余剰魔力を蓄えておけるしで、割りと良いことづくめです。
昨夜から行なっていますが、もっと早く始めていれば蓄えももっと多かったはずなんですけどね。
久しぶりに、僕としたことが、ですね。
「相変わらず明き神は反応なしですか?」
「さっぱりっすね」
「そうですか」
無事にタロウをファネル様の後釜へと据えられたとして、この地鳴りは止むのでしょうか。
しかしこれは悩んでも分かりませんから、きっちりとタロウを連れて行き、その後で父たち五英雄の方々と相談ですね。
五大礎結界での通話を期待して北を目指しているとも言える状況ですね。
「タロウ、明日にはファネル様の下、この旅の最後の目的地に着きます」
「……そっすね。ゴール地点なんすね」
一月の末にペリエ村を離れて、九月末まであと十日ほど――正確には十一日ですが――、この八ヶ月半、タロウと離れた事はほとんどありません。
そう考えると、僕の八十二年の人生で最も共に時間を過ごした他人かも知れませんね。
「長かった気もするし、あっという間だった気もするっすね」
「こんな事を言うと語弊があるかも知れませんが、こちらに連れてこられたのがタロウで良かったです」
「ほほぅ。やっぱ頼りになるから、っすね?」
顎に手をやり、キラリと目を光らせるタロウ。
「あ、いえ、頼りにならないとまでは言いませんがそうじゃなくて」
「ちゃうんかーぃ」
「毎日楽しいです」
「楽しい、っすか?」
「ええ。割りと大変な旅になりましたが、タロウはへこたれずに愚痴も言わない。なんだったら本来この世界に関係の無い筈のタロウが一番楽しそうですし」
「うーん。まぁ俺も楽しいのは否定しないっすけど、ちゃんと俺の目的はブレてないっすよ! 薔薇色のニート生活がもうそこまで来てるっす!」
「……そうですね。もう目の前です。もう一踏ん張りしましょう」
「おす! やったるっす!」
――この旅を経て、外に出て体を動かす事、働く事、そんな普通の事にタロウが興味を持って礎となるのを嫌がるかも知れない――
そんな様子は微塵もありませんでした。
さすがはタロウ、ブレてませんね。
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