異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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112「ロップスの覚悟」

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「話は済んだのか?」
「済んだ。もうイギーと話す必要はない」

 イギーさんに背を向け、ロップス殿に歩み寄るアンテオ様。
 イギーさんは話が済んだとは思っていない様ですが。

「アンテオ、僕からも一つ言わせてくれ」
「聞こう」

 背を向けたままのアンテオ様が、首を僅かに捻りました。

「……また会えるか?」

 ふふ、と少し笑ったアンテオ様が答えます。

「無理だな。今生の別れと思え。最後に今一度お前の為に戦おう」


「……分かった。僕の左腕と共に逝け」

 イギーさんが翼を一打ち、空へと舞い上がり、北を目指し飛び去りました。

「さぁ、仕切り直しといこう。どちらかが死ぬまでやるぞ」

 飛び去ったイギーさんを目にする事なく、魔力を漲らせたアンテオ様が言います。

 この展開でロップス殿は戦えるでしょうか。
 しかし、それこそ戦う必要はあるのでしょうか。


 ロップス殿が音もなく刀を抜き放ちました。

「叔父上。私も覚悟を決めた。殺してでもイギーの魔術から解放してやろう」
「ふん、出来るならば頼む」

 対峙する二人の脇を、ロボが駆け抜けこちらへとやってきました。

『待たせたでござる!』
「ロボ、タロウへ慰撫を使って下さい」
『承知でござる!』

 ロボが慰撫を使いタロウを癒しました。
「肉球の形した雲みたいなんに叩きつけられるの……、癖になりそっす!」

 タロウが復活、そしてその発言は理解できます。アレは快感ですよね。



「待った!」

 ロップス殿が待ったをかけました。
 どうしたんでしょう。

「ロボ、すまんが私に守護を」
『え? いらないんじゃなかったでござらんか?』
「頼む。叔父上、良いな?」

 それに対してアンテオ様が首肯します。


 ロップス殿の体がロボの守護に包まれました。

「次はプックル! アレを頼む」

 アレ? 何でしたっけ?
 プックルも首を捻っています。

『きっと僕と戦った時に使ってたヤツの事だよ』

 あぁ、強クナル魔法、ですか。
 確かにウギーさんと戦った時に使っていましたね。


 プックルの雄々しい歌声が響きました。

「ぬぅぉぉおお! コレだ! 力が漲る!」

 プックルの赤い魔力がさらにロップス殿を覆いました。

 しかしどうしたんでしょうか。
 先程は一対一に拘っていたロップス殿ですが。

「叔父上は自分の意思でイギーの為に戦う。私も覚悟を決めた。仲間の力を借りてでも、全力で倒す!」
「良かろう。来い、ロップス」

 同時に走り出し、二人が中央でぶつかり合いました。
 ロップス殿の刀と、アンテオ様の魔力刀がかち合い、お互いに弾かれます。

「真! 烈風迅雷斬れっぷうじんらいざん!」

 踏み止まったロップス殿が迅雷斬を放ち、唸りを上げてアンテオ様に迫りますが、魔力刀で弾かれました。

「ぬぅりゃぁぁぁ!」

 しかし回転を上げ、連続して迅雷斬を放ちます。

 浅くではありますが、確かにアンテオ様の体を切り裂いています。
 先程の戦いでは傷を付けることさえ出来なかった迅雷斬で。

「どうだぁ! 迅雷斬でも効いているぞぉ!」

 強クナル魔法での能力の底上げが効いている様ですね。


 ロップス殿が突いた刀がアンテオ様の左前腕に突き刺さりましたが、これはどうやら罠だった様です。

「……ふん、調子に……乗るな!」

 刀が引き抜けないロップス殿を、アンテオ様が右手の魔力刀で斬りつけました。

 ロップス殿が刀を手放し吹き飛ばされ、地面を転がっていきますが、転がる勢いを利用し素早く立ち上がりました。

「危ない危ない。魔力一点集中とロボの守護、このどちらかが欠けていても今ので終わりだったわ」

 無傷の様ですが、魔力一点集中ですか。
 今までは十のうち九を集めていた筈です。

 それは捨て身の戦いですよ、ロップス殿。

『ヴァン殿、ここは許せ。生涯で何度もないであろう、勝たねばならぬ戦いだ』
『貴方はまだ十二歳です。ここで死ぬ事は許容できません』
『……そうだな。肝に銘じよう』


 ロップス殿が体に着いた砂埃をパンパンとはたき、アンテオ様に歩み寄ります。
 アンテオ様も同様に歩み寄り、ロップス殿の刀を腕から引き抜いて投げ渡しました。



「もう一度いくぞ、叔父上」
「早くしろ。狼殿はともかく、山羊殿の歌には時間制限があろう」

 ノーリスクであればずっと使えば良いですものね。さすがに鋭いですね。

「真! 烈火十山斬れっかじゅうさんざん!」

 絡め技なしの、いきなりの奥義。

「さっきよりは良い。だがまだ遅い」

 振り下ろした刀の腹を手で抑えられ、たいを入れ替えて躱されました。

「ぬぅぅっ! まだ当たらんか!」

 闇雲に刀を振って距離を取りました。

「……落ち着いて考えろ」



「ねぇヴァンさん」
「なんです?」

「ロップスさんの奥義って、どうやって速いのとパワーあるのと使い分けてんすか?」

 タロウの疑問も尤もですね。

「単純に小さく斬りつけるか、大きく斬りつけるかの違いが一点、ここからは僕の推測ですが、魔力操作による点、もあると思います」
「魔力操作すか? それってガゼルさん仕込みの?」

「いえ、元々無意識に行っていたんだと思います。ガゼル様の教えを受ける前から奥義を使っていましたからね」

 迅雷斬は速さに重きを置いた魔力操作、十山斬は威力に重きを置いた魔力操作、具体的には分かりませんが、恐らくそういった技術の集大成なんだろうと思われます。

 感覚的に理解しているでしょうから、きっとロップス殿も説明するのは難しいんじゃないでしょうか。


「なんとなく分かった気がする」
「……何がだ」

 切り結ぶ二人の動きが止まり、僅かに距離を置いて対峙しています。

「強く速い剣だ」
「ほう。やれるか? そろそろ時間切れが近い様だぞ?」

 アンテオ様の仰る通り、ロップス殿を覆っていた赤い魔力が立ち消えそうです。
 完全に消えれば、普段のロップス殿よりも弱体化してしまいます。

「やれる。なんとなくだが、理解はした。やれる筈だ」

 ロップス殿が刀で天を指し、逆の手の指で地を指しました。

「天も地も私を見よ! 私はたった今、今までの自分を超える!」

「……そうか。ならば見せよ。……行くぞ!」


 アンテオ様が上段から大振りに斬りつけた魔力刀を、峰に左手を添えた刀で受け、勢いに逆らわずに受け流したロップス殿。

「技の名は………………、今はまだ無い!」

 やや傾いた袈裟斬り、煌めいたロップス殿の刀がたたらを踏んだアンテオ様の左腕に吸い込まれ、左腕を斬り飛ばしながら、そのまま振り抜いて胸を切り裂きました。

「……良いぞ。上出来だ、甥っ子よ……」


「……結局、その『上から目線』を止めさせられなかったな」
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