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105.5「ブラム:ファネルという男」
しおりを挟む七十年前、俺らはすでに五英雄と呼ばれていた。
あの頃は世界も広かったからな、悪さする強力な魔獣も多くて退治しまくったんだ。
つっても五人で連んでた訳じゃあない。
それぞれがそれぞれの生活圏で英雄と呼ばれてたから、誰が最初か知らんが俺らの事を五英雄と呼び始めたんだ。
はっきり言って俺はどうでも良かったがな。
俺はカノンが褒めてくれる事だけしてた。
魔獣が暴れてると聞けば退治し、困ってる奴がいれば誰彼構わず助け、カノンが畑を耕すならば一緒に耕した。
良い女だった。
美しく気高い凛とした心の持ち主で、いつも笑顔を絶やさない太陽のような女だった。
そんなカノンはもう……うぅ……。
「……父さん」
おぉ、すまん脱線したな。
そうやって過ごしてたら、知らん間に英雄と呼ばれる様になってた。
俺が生まれて七百年とちょっと、カノンと結婚してすぐの頃だ。
当時、ここから見て西の大国から討伐隊が出された。
討伐目標は、俺。
英雄と呼ばれてはいたが、カノンに出会ってからの行いのお陰であって、それ以前は好き放題に暴れまくってたからな。
過去の遺恨ってやつだわな。
んでも、まぁ、何百人いたってたかが人族の軍隊、もちろん返り討ちにしてやったが、討伐隊を率いてた隊長の剣が冴えてた。
殺さない様に戦ってたせいで俺もかなりダメージを受けちまったんだ。
そこに遅れて現れたのが、その西の大国で勇者認定を受けた男、当時十二、三歳のファネルだ。
半日戦っても決着はつかなかったが、結局こんなやり取りで決着さ。
『ブラム! 貴様が本気を出してない理由はなんだ!?』
『殺すと女房が怒るんでな』
『……女房? 結婚してるのか?』
『ああ。人族の娘だ。アイツが悲しむ事を俺はしない。だから俺はもう暴れないと誓おう』
『その言葉を信じられると思うか?』
『このまま何も言わずに帰ってくれるなら、……そうだな、今度女房を紹介してやろう』
その後のファネルの行動は迅速だった。
『討伐隊の皆さん! 解散! 撤収!』
そして本国に帰り、俺を討伐する必要なしと重鎮たちを説得、数ヶ月後ペリエ村にやってきてこう言った。
『ブラム、奥さん紹介してくれ』
生意気なガキだと思ったがな、憎めんやつだった。七百歳も歳下だが何故だか気が合ったし、よちよち歩きのヴァンの世話も進んでしてくれたんだぜ。
その後もファネルはちょくちょくペリエ村にやってきた。
特に用がある訳でもなく、ヴァンを構いながらのんびり過ごしては、そしてまた旅に出る生活だ。
勇者ともなるとあちこちで用があったんだろう。
アンセムたちと俺の顔を繋いだのもファネルだ。
奴らの所にもそれぞれ行ってたらしい。
クソ生意気で、人族の中じゃ群を抜いて強く、おかしなカリスマのある子供だった。
ま、俺らの中じゃ一番弱かったがな。
そんなアイツがもうすぐ死ぬか。
あぁ、そうだな。
寂しくないっつったら嘘になるな。
しかし何にせよ俺らは自分とこから動けねぇ。
オマエらに世界を託すしかねぇんだ。
カノンが愛し、ファネルが守り続けたこの世界を救ってやってくれ。
頼む。
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