異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

文字の大きさ
上 下
139 / 185

104「いつものアレ」

しおりを挟む

「よし。早速渡そう。タロウ、こっちに来てくれ」

 食堂を出て父の居室に戻っています。

「おっす! お願っす!」

 タロウが手を挙げて立ち上がり、棺の縁に腰掛ける父に近づきました。

 父がタロウの顔面を鷲掴み。

「え? またいつものアレっすか?」
「……ふん!」
「ぐぅあぁぁぁぁ! ……あ、ぁぁぁ」

 ドサリと崩れ落ちるタロウ。
 なんだか見慣れた光景ですが、不憫ですね。

「この感じ、……オマエ、明き神の力を取り込んでんのか?」
「ぐぅぅぁぁ。アンセムさんガゼルさんより痛えっす……目玉飛び出るかと――」
「聞いてんだろうが! 明き神の力を取り込んでのかってよぉ!」

 タロウを含む、ここにいる全員がビクンと体を震わせました。もちろん僕も例外ではありません。ここまでの父の激昂は見たことがありません。

「はい! 取り込んでんのか良く分かんないっすけど! 力を貸してくれるってんで借りてるっす!」

 父のあまりの迫力のせいで、タロウが直立で何故か敬礼しながら答えました。

「……そうか。彼奴あいつから言い出したのか。分かった、大声出して悪かった、勘弁してくれ」
「Yes Sir! っす!」

 タロウに変なスイッチが入ってしまいました。
 大丈夫なんでしょうね。このキャラのままで旅を続けるの嫌なんですけど。

 父が黙ったまま、目をつぶって床に向かって何事かブツブツ言っています。
 
「……俺の声には反応なしか……。タロウ、呼び出せるか?」
「YES Sir! やってみるっす!」

 久しぶりにタロウが口を開いて白目になりました。


 床から真っ赤な液体のようなものが染み出してきました。
 もしかして明き神ご本人の登場でしょうか。

 真っ赤な液体がゆっくりと立ち登り、徐々に形を成していき、最終的に僕の胸くらい、少し小さめの人型を形成しました。

 目や口などの造形はありまけん。

「おぉ、これが明き神か……。どことなく神々しいな……」

 ロップス殿の言う通り、纏う気配が尋常ではありません。しかし、どこか落ち着くというか、安心感のある雰囲気ですね。

「よぉ。久しぶりだな、明き神よ」

 父がまさかのタメ口です。
 いや、六大礎結界を築く同志ということで特に問題ないんでしょうか。

「久しぶりっすねー。どこ行ってたんすか?」

 タロウはタロウで馴れ馴れしすぎないでしょうか。


――久しぶりだな。

『喋ったでござる!』

 精神感応のようなものでしょうね。僕らが使うものとは少し異なるようですが。

「オメエ弱ってるみたいだが、平気なんかよ? タロウに魔力を融通してるせいか?」

――まずはタロウに答えよう。

「俺からっすか。なんかすんません」

――我は何処にも行かない。この姿はうつ、我はこの世界の核。気になる事があったので意識をそちらに割いていた。

「あ、そうなんすか。だから反応なかったんすねー」

――次はブラムに答えよう。平気ではない。が、タロウに魔力を融通しているせいではない。

「そうか。タロウに魔力を融通してるせいじゃないのは理解した」

 タロウがホッと胸をなでおろしました。父に大声で怒鳴られたので気にしてたんですね。

「じゃぁなんのせいだ。そんでどう平気じゃないんだ? 相当ヤバいのか?」

――北の結界が弱い。僅かずつだが我の魔力が抜けている。

「それはやはりファネル様の……」

――ファネルの死期が近いせいだろう。頼む。一日でも早くタロウをファネルの元へ。


 時間がないのはもちろん分かっていましたが、ここまでどちらかと言えばのんびりと旅してきました。
 この世界は隅から隅まで旅してもせいぜい一年、当初は半年もあれば辿り着けるつもりでした。

 考えが甘かったです。
 悔やまれますね。


「ところで気になることってなんだったんすか?」

――昏き世界の者どもの事だ。

「何? また来てるのか?」
「父さんは知らなかったんですか?」
「バカ、俺が何ヶ月寝てたか忘れたのか」
「いや、何か魔術を使って寝ながらでも把握してるのかと……」

「そういう魔術が無いことは無い。だが魔力が足りなかった」

 それもそうですね。
 僕の魔力を無意識に奪うほどでしたからね。

 あ、今気がつきましたが、例え数ヶ月でここまで辿り着いていたとしても、父が起きるまで足止めだったんですね。

 さっきの『悔やまれますね発言』は無かったことにしましょうか。


「それでどんな奴が来てんだ。なんとかなってんのか? ギーみたいなんが来てたらヴァン達じゃどうしようもないだろ」

「ギーって誰っすか?」
「なんだ知らんのか? 七十年前に俺がぶっ殺した奴だ」

「え? それギーって名前なんすか?」
「僕も初耳ですよ」

「そうなのか?」

――巷の者は知らない筈だ。必要がない。

「『昏き世界から来た神』って長ったらしくて鬱陶しいと思ってたんすよ」
「僕もです」
「私もだ」
『それがしも』
『プックルモ』

 ここにいる巷の者すべてがストレスを感じていました。
 必要あったんじゃないでしょうか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】イマジン 準備号〜仲間が強すぎるので、俺は強くならなくて良いらしい〜

夜須 香夜(やす かや)
ファンタジー
――忘れないでください、星々の瞬きとその罪を 仲間たちが強いから、俺は強くならなくても良いし、強くなる気もない! 普通の男子高校生、田仲伊吹。 下校中の彼を襲ったのは不運な出来事!? 助けてくれたらしい少女ノジャと、強すぎる仲間たちと異世界で大冒険!最初から、強くてニューゲームしてる仲間たちの心配はしなくて良いみたい。 「どうやったら、元の世界に帰れるんだよ! 家に返してくれ!」   この作品は、「イマジン〜私たちが共存するための100の方法〜」の準備号です。本編とは違う所もあるので、本編を読む予定がある方は頭がごちゃごちゃする可能性があります。 「イマジン」本編から30人以上のキャラが登場!?キャラがわちゃわちゃしてる小説が好きな方向けです。短期連載。   ※イマジン本編の内容とは関係ありません。 ※本編とキャラの設定が違う場合があります。 ※本編開始までの肩慣らしです。 「イマジン」本編は、田舎者ファンタジーで、異種族恋愛モノです。たまにBL表現があります。 本編はバトル要素、グロ表現がありますが、準備号にグロ表現はありません。たぶん。 〜イマジン本編の予定のあらすじ〜 1 杏奈編 山の近くにある村に住む猫耳族の少女、杏奈。 弟の皐月、父の友人のチィランと暮らしていたが、とある出来事により、皐月と共に村を出ることになる。その時に出会った少年、アキラに着いてこられつつも、生活をするために旅をすることになる。 2 リチャイナ編 火星のとある国のとある村に住むリチャイナ。幼なじみと穏やかな日々を過ごしていたが、ある日、旅に出ていた父親から助けて欲しいという手紙が届き、父親の元へ行くことになる。幼なじみや、途中で出会った仲間たちと、旅をする中で、世界を救うために奮闘する。 3 カルメ編 とある世界のとある村に住むカルメは行方不明になった父親を探すために一人で旅に出る。その途中で出会ったみゆうと、リンと共に、頼れる仲間を集めて、世界を揺るがす敵と対峙することになる。 「イマジン」本編には、他にも主人公はいますが、主要の主人公はこの3人です。 ※キャッチコピーは友人に依頼して考えてもらいました。 カクヨム、小説家になろうでも連載中!

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...