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104「いつものアレ」
しおりを挟む「よし。早速渡そう。タロウ、こっちに来てくれ」
食堂を出て父の居室に戻っています。
「おっす! お願っす!」
タロウが手を挙げて立ち上がり、棺の縁に腰掛ける父に近づきました。
父がタロウの顔面を鷲掴み。
「え? またいつものアレっすか?」
「……ふん!」
「ぐぅあぁぁぁぁ! ……あ、ぁぁぁ」
ドサリと崩れ落ちるタロウ。
なんだか見慣れた光景ですが、不憫ですね。
「この感じ、……オマエ、明き神の力を取り込んでんのか?」
「ぐぅぅぁぁ。アンセムさんガゼルさんより痛えっす……目玉飛び出るかと――」
「聞いてんだろうが! 明き神の力を取り込んでのかってよぉ!」
タロウを含む、ここにいる全員がビクンと体を震わせました。もちろん僕も例外ではありません。ここまでの父の激昂は見たことがありません。
「はい! 取り込んでんのか良く分かんないっすけど! 力を貸してくれるってんで借りてるっす!」
父のあまりの迫力のせいで、タロウが直立で何故か敬礼しながら答えました。
「……そうか。彼奴から言い出したのか。分かった、大声出して悪かった、勘弁してくれ」
「Yes Sir! っす!」
タロウに変なスイッチが入ってしまいました。
大丈夫なんでしょうね。このキャラのままで旅を続けるの嫌なんですけど。
父が黙ったまま、目をつぶって床に向かって何事かブツブツ言っています。
「……俺の声には反応なしか……。タロウ、呼び出せるか?」
「YES Sir! やってみるっす!」
久しぶりにタロウが口を開いて白目になりました。
床から真っ赤な液体のようなものが染み出してきました。
もしかして明き神ご本人の登場でしょうか。
真っ赤な液体がゆっくりと立ち登り、徐々に形を成していき、最終的に僕の胸くらい、少し小さめの人型を形成しました。
目や口などの造形はありまけん。
「おぉ、これが明き神か……。どことなく神々しいな……」
ロップス殿の言う通り、纏う気配が尋常ではありません。しかし、どこか落ち着くというか、安心感のある雰囲気ですね。
「よぉ。久しぶりだな、明き神よ」
父がまさかのタメ口です。
いや、六大礎結界を築く同志ということで特に問題ないんでしょうか。
「久しぶりっすねー。どこ行ってたんすか?」
タロウはタロウで馴れ馴れしすぎないでしょうか。
――久しぶりだな。
『喋ったでござる!』
精神感応のようなものでしょうね。僕らが使うものとは少し異なるようですが。
「オメエ弱ってるみたいだが、平気なんかよ? タロウに魔力を融通してるせいか?」
――まずはタロウに答えよう。
「俺からっすか。なんかすんません」
――我は何処にも行かない。この姿は現し身、我はこの世界の核。気になる事があったので意識をそちらに割いていた。
「あ、そうなんすか。だから反応なかったんすねー」
――次はブラムに答えよう。平気ではない。が、タロウに魔力を融通しているせいではない。
「そうか。タロウに魔力を融通してるせいじゃないのは理解した」
タロウがホッと胸をなでおろしました。父に大声で怒鳴られたので気にしてたんですね。
「じゃぁなんのせいだ。そんでどう平気じゃないんだ? 相当ヤバいのか?」
――北の結界が弱い。僅かずつだが我の魔力が抜けている。
「それはやはりファネル様の……」
――ファネルの死期が近いせいだろう。頼む。一日でも早くタロウをファネルの元へ。
時間がないのはもちろん分かっていましたが、ここまでどちらかと言えばのんびりと旅してきました。
この世界は隅から隅まで旅してもせいぜい一年、当初は半年もあれば辿り着けるつもりでした。
考えが甘かったです。
悔やまれますね。
「ところで気になることってなんだったんすか?」
――昏き世界の者どもの事だ。
「何? また来てるのか?」
「父さんは知らなかったんですか?」
「バカ、俺が何ヶ月寝てたか忘れたのか」
「いや、何か魔術を使って寝ながらでも把握してるのかと……」
「そういう魔術が無いことは無い。だが魔力が足りなかった」
それもそうですね。
僕の魔力を無意識に奪うほどでしたからね。
あ、今気がつきましたが、例え数ヶ月でここまで辿り着いていたとしても、父が起きるまで足止めだったんですね。
さっきの『悔やまれますね発言』は無かったことにしましょうか。
「それでどんな奴が来てんだ。なんとかなってんのか? ギーみたいなんが来てたらヴァン達じゃどうしようもないだろ」
「ギーって誰っすか?」
「なんだ知らんのか? 七十年前に俺がぶっ殺した奴だ」
「え? それギーって名前なんすか?」
「僕も初耳ですよ」
「そうなのか?」
――巷の者は知らない筈だ。必要がない。
「『昏き世界から来た神』って長ったらしくて鬱陶しいと思ってたんすよ」
「僕もです」
「私もだ」
『それがしも』
『プックルモ』
ここにいる巷の者すべてがストレスを感じていました。
必要あったんじゃないでしょうか。
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