異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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102「気にするな、続けろ」

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「まぁ、過ぎた事はもう良いだろ。謝ったし、なんとか間に合うし」

 もう良いだろって……。
 けっこう大きな問題だと思うのは僕だけでしょうか。

「原因は知らんが、ここのところ明き神の魔力が弱っててな。その分、結界の維持に掛かる魔力量が増えた。俺らには大した差じゃないんだが、恐らくファネルには厳しい。死期が早まるだろう」

 明き神の魔力が弱ってる?
 それも大きな問題なんじゃ……。

「それって大丈夫なんすか?」
「今んところ平気だな。俺らの結界が奴の仕事の何割かを負担してるからな」

 あ、そうなんですか?
 五大礎結界と明き神が協力してこの世界を維持していたんですか。

「世間では五大礎結界って呼ばれちゃいるが、実際は『六大礎結界』だな。俺らがいるこの地面の裏で明き神がその一角を担ってるって訳さ」

「でもアレっすね。『六大礎結界ろくだいそけっかい』ってなんとなく……」
「そう、語感が悪い・・・・・。だからこれからも五大礎結界ごだいそけっかいと呼んでくれ」

 そう大差無いように思いますが、語感が悪いだけで明き神は除け者のけものにされてたんですね。
 ちょっと不憫です。


「今月はあと六日だ。できれば九月中にはファネルんとこに着いて欲しいんだが……」

 そう言って僕らを見渡す父。
 ロボとロップス殿が眠そうで、プックルは立ったままでイビキをかいています。

「今日はもう遅い。続きは明日にしよう」
 
 父の言葉に従って今夜は就寝です。
 十分に広いので父の居室で雑魚寝ですね。



「息子よ。ロボと個室でなくて良いのか?」
「…………」

「俺も早く孫が見たいんだが……」
「…………」

 無視です。
 おやすみなさい。





 おはようございます。
 ヴァンです。

 何があったか分かりかねますが、隣でスヤスヤと眠るロボが人族の姿になっています。
 さすがのヴァン先生もちょっと驚きました。

 見た目は人族で言うと十五、六歳くらいでしょうか。
 少し口を開けて、完全に無防備な寝姿で僕に抱きついて眠っています。

 柔らかな白い髪にそっと触れ、優しく撫でました。
 まだ目は覚ましていませんが、ふんわりと微笑んで気持ち良さそうです。
 
 …………可愛いですね。


『……わふ? あれ、ヴァン殿? それがし人族の姿になってるでござるか?』
「しー。まだみんな寝てますからね。精神感応は僕だけに飛ばして下さいね」

 僕は小声で話しましたが、僕も精神感応の方が良いでしょうか。

 少し頭を上げてみんなの様子を伺います。

 ……あ。

 ロボの背中越し、目が合ってしまいました。
 棺の縁に座る父と。

 ……気まずいですね。


 キ・ニ・ス・ル・ナ、ツ・ヅ・ケ・ロ。

 声を出さずに口の動きだけで僕に伝える父。

「気にしますよ。何言ってるんですか」
「いや、邪魔しちゃわりいと思ってな」

『お義父さま、起きてたでござるか』
「ああ。おはよう」
『おはようでござる!』

 僕らももう寝られそうにありません。起きましょうか。

「思ったよりも早く孫が見られそうだな」
「…………」

 無視です。

「みんなが起きるまでに朝食の準備をしましょう。ロボ、一緒に行きますか?」
『もちろんでござる!』

「父さんはどうしますか?」
「邪魔しちゃ悪い。ここにいるさ」

 あ、いや、そういう意味じゃなかったんですが。

「召し上がりますか?」
「ん? ああ、たまには食うか」


 いつもプックルに運んで貰っている荷物を背負って、ロボと二人で二階の厨房まで移動します。
 さりげなくロボが僕の手を握ったので、力を込め過ぎないように握り返しました。

 なんだか新鮮ですね。

『寝てる間に人族の姿になってたんでござるな。気づかなかったでござるよ』
「僕も気付きませんでした。目が覚めたら人になってたんで驚きましたよ」

 どうして人の姿に変わったんでしょうか。
 タイタニア様は『トキメク事が近道』と仰っていましたが、父への挨拶が済んで肩の荷が下りたから、とかでしょうかね。


 ロボは料理初体験ですから、簡単な切り物やスープの火の番を任せてみました。

『人族の指というのは、誠に便利なものでござるな』

「ところでロボ。人の姿でも精神感応の方が話しやすいですか?」
『そう言われればそうでござる。癖がついてるでござるよ』

 パクパクと口を開け閉めし、んー、とか、あー、と発声練習をするロボ。

「んー。こうでござるかな? 変じゃないでござるか?」
「あ、上手に喋れてますよ。とっても可愛いらしい声ですね」
「ま! ヴァン殿ったら! それがし照れてしまうでござるよ!」


 その後も他愛ない会話を交わしながら、二人で仲良く楽しく料理を仕上げました。

 そろそろ小麦粉のストックが頼りないですね。
 ミウ村かイロファスの町で手に入ると良いんですけど。


「そろそろみんなを起こして食事にしましょうか。ロボ、食堂に来るように声を掛けて来て貰えますか?」
「承知でござる!」

 厨房から食堂へ出たロボが声を上げました。

「わぁ! みんなそこに居たでござるか!」

 食堂に出てみると全員揃っていました。
 心なしかタロウとロップス殿の頬が赤いですね。

「みんなして盗み聞きとは、お行儀が悪いですよ」
「許せ。父の務めとして聞かずにはおれんかったんだ」
「別に良いですけどね。聞かれて困る話はしてませんから」

 してませんよね?
 タロウとロップス殿の頬が赤いのが気になりますが……、恐らく大丈夫でしょう。

「さあ食おう! 息子とその嫁の手料理だ! こんな幸せな事があるだろうか! いや、ない!」

 ……父のテンションが高すぎて若干引いてしまいますね。

「厨房にブドウ酒がまだあっただろう。開けてくれ」

 あ、この前ここに来た時に盗んだやつですね。

 荷物の中から半分になったブドウ酒を取り出して差し出しました。

「すみません。減ってしまいました」
「まぁ、今飲む分があれば良いさ。そろそろイロファスから追加が届く頃だ」

 父はほとんど食事をしないので近隣の村や町からブドウ酒だけ届けてもらっています。

 エビアン村からはもう届きませんが……。

 食事中にする話題じゃありませんので、その辺りは食後に伝えるようにしましょうか。
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