異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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101「ブラムのミス」

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「それにしても、オマエを見ると悲しくなる。なぜ俺にそっくりなんだ。カノンの面影、全然ないじゃないか」
「そんなこと知りませんよ。僕のせいじゃないと思います」

 少しだけ父の方が歳上に見えるくらいで、顔の造りはほぼ全く同じです。
 僕の髪質は母に似てストレートのサラサラですが、父の髪は少し癖のあるボサボサ。

 そこだけですね、僕が母に似たところって。

「あぁ、カノンに逢いたい」
「そんな事言ったって、死んでしまったんだからしょうがないでしょう」
「なんって冷たい息子だ!」

「ヴァンさん、確かに冷たいんじゃないっすか?」

 タロウの言い分も分かりますけどね。

「このやり取り、僕に会うたび毎度毎度の事ですから。話半分に聞いて下さい」

 結界の礎になってからというもの、母が亡くなる以前から口を開く度に「カノンに逢いたい」ですから。

「故人を偲ぶのも良いですが、前を向いて進むのが生き残った者の務めでしょう」
「……分かってる。カノンが愛したこの世界を守るのが俺の務めだ」

 分かってくれれば良いんです。
 少し表情がキリッとした気がしますね。


「よし、とにかくやる事やるか。まずは紹介してくれ。タロウは顔も人となりも知っているが、他は初対面だ」
「人となりも知ってんすか? あんなちょっとしかココに居なかったのに?」

 強制転移で初めてココに来た時の事ですね。
 タロウから聞いた限りではあっという間に僕の所に飛ばされたそうですから。

「強制転移を使う前からタロウの事は覗いてたからな」

 あぁ、そう言えばアンセム様がそんなような事を言ってましたね。

「毎日こ~んなちっせいパン二つしか食わんから心配だったんだがな。あの頃より肌ツヤも良いし、元気そうで何よりだぜ」
「ヴァンさんのご飯ですっかり健康っす! よろしくお願っす!」

 最初の頃の不健康そうな顔色は影を潜めて、もうすっかり健康的な顔色です。
 まぁ、あんなに食べてて不健康だったら別の原因を心配してしまいますよ。
 お腹の中に虫とか。


「私はアンセムの末子、ロップス。よろしくお願いします」

 キビキビした礼儀正しい動き、ロップス殿はやる時はキチンとしていて感心してしまいます。

「やっぱアンセムの子か。サイズは違うが竜化した時のアンセムに雰囲気が似てるぜ。親父、若い嫁もらったらしいが、その子供か?」
「はい。人族の母との子です」
「人族か……。魔力量的には苦労するだろうが、オマエなら相当に剣も使うだろう。すまんがヴァン達を助けてやってくれ」

 おお。ウチの父がおよそ父らしくない、真っ当な発言をしています。


『は、はは、は……初めましつぇ!』

 精神感応で噛むってなかなか難しいですよ、きっと。

「こちらは妻のロボです」
不束ふつつかな嫁でござるが、よろしくお願いするでござるよ、お義父さま!』

「……ほぉ。妻っつったか?」
「ええ。結婚したのはついこの間ですが」

 父がロボの周りをゆっくりと周り、値踏みするかの様にジロジロとロボを見ています。

「ちょっと父さ――」
「良いじゃないか!」

 父が突然大声を上げました。
 びっくりしました。

「美しいレイロウのお嬢さん、ヴァンの父ブラムだ。息子をよろしく頼む」
『お義父さま! こちらこそよろしくでござる!』
「あの唐変木のヴァンがこんな素敵な嫁を連れてくるとは……。きっとカノンもあの世で喜んでる……」

 多少芝居がかっていますが涙ぐんでいますね。

 それにしても唐変木って……。
 ずいぶん前にロボにも言われましたね。僕って唐変木なんでしょうか……。

「カノンにも紹介したのか?」
「あ、いえ。この旅が終わったら一緒に墓参りに行くつもりです」
「なら良い。が、カノンが楽しみにしてた孫は難しいか」

 どうなんでしょう。
 タイタニア様は姿を変えて子を成したと仰っておられましたが。

『それがし人族の姿になれるでござるから、ヴァン殿の子も産めるってご先祖さまが言ってたでござるよ』
「ご先祖さま?」
「ロボはタイタニア様の子孫に当たるんです」

 ご存命なのに先祖とか子孫とか違和感がありますけど、やたら長生きなんでそういう事もありますよね。

「ほぉ、あのアバズ――、あの恋多き女のな。なるほど、なら産めるかも知れんな」

 あまり不適切な発言は気を付けて下さいね。


「そして最後はマサンヨウか……。すげえ不思議なパーティだな。ん? オマエ会ったことあるか?」
『有ル。プックル、パンチョト、ココ来タ事、有ル』

 この前ここに来た時にそう言ってましたね。

「ファネルの弟子のパンチョな! アイツが連れてたマサンヨウか!」
『ブラム、久シブリ』
「おう、久しぶりだな。そう言やマサンヨウって今は珍しいもんな。そんな何匹もいねーよな」

「昔はいっぱいいたんすか?」
「いたな。今のファネル領より北の高地にいっぱいいた。『神の影』に取り憑かれたのは殺しちまったが、ファネルの足がもうちょい速かったらもっと生き残ったと思うがな、こればっかりはしょうがねーな」


 これで僕らの紹介は済みました。

「ところで、残りが一月半ひとつきはんしかないという事でしたが」
「おう、すまんな。俺とアンセムの伝言ミスだ」

 伝言ミスですか?

「タロウに使った強制転移の魔術に丸一月ひとつき近く掛かったんだ」
「それは、まぁ、大掛かりな魔術でしょうから」
「だからアンセムにヴァンへの伝言を託したのは強制転移を使う前、一月いちがつの頭だ。『ファネルの寿命がもってあと一年』ってな」

 え? 一月いちがつの頭ですか?
 アンセム様に話を聞いたの、二月にがつの頭ですけど……。
 

「アンセムにな、ヴァンに会ったら・・・・伝えてくれ、って前置きしちまったんだよ」

 二月の頭から一年じゃなくて、一月の頭から一年だったという事ですか……。

 少しの沈黙のあと、タロウが叫びました。

「ア……、アホすぎー!」

 いやもう、タロウの言う通りアホすぎです。
 こんな大事なこと、まさかそんな理由で……
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