異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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98「起きたブラム」

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『よう、タイタニア。相変わらずちっせぇか?』

 久しぶりに聞くイビキ以外の声、父ですね。
 声は元気そうです。

『牛の乳を飲むとデカくなるらしいぜ。地球ってとこの情報だ』
「うるさいわね! ワタシはこのサイズが気に入ってるから良いの!」

 仲良しですね。
 きっと七十年前の戦いの時もこうやって旅してたんでしょうね。

『ま、そんな事はどうだって良いんだ。愛するウチの息子、知んねえか?』
「……知ってるわ」
『おう、そうか。今どこらへんだ?』

「ここですよ。父さん、ご無沙汰しています」
『よぉヴァン。元気そうで何よりだ。順調か?』

 声だけとは言え久しぶりの再会なんですけど、「よぉヴァン」なんて本当に父さんらしいですね。
 あれでけっこう照れ屋さんなんですよね。

「順調の内だと思います。年内もあと二ヶ月半ありますから」
『……おい。今なんつった?』
「え? 順調の内だとおも――」
『違う! その後!』
「年内もあと二ヶ月半――」
『おい! 今何月だ!?』

 何かまずい事でも口走ったでしょうか。

「八月の中旬に入った所です」
『八月の中旬だと!? 一月ひとつきほど余裕を見ろってアンセムに伝えたはずだぜ?』

 アンセム様に話を伺ったのは二月の頭です。

 この世界は一年が十月とつき、まだ八月が半分以上ありますから、八、九、十月で二ヶ月半です。
 一月ひとつき余裕を見て年内いっぱいの到着を目指してるんですが……。

「ええ。ですから年内いっぱいの到着を目指しています」
『……アンセムにいつ話を聞いた?』
「二月の頭です」
『……あ、そうか、マズったな。証はいくつ揃ってる?』
「三つです。あと父さんの分だけですね」

 何か問題がある様です。案外おっちょこちょいな所がありますからね、父さんって。

『……ギリギリ間に合うか。すまんがあと一ヶ月半しかないと思ってくれ』
「一ヶ月も短く!? 何があったんです?」

『……心配しなくても俺の、いや俺らのミスだ。できるだけ急いでこっち来てくれ。その時に説明する』

 ブツンと音を立てて結界通話の終了を知らせます。

「どういう事?」
「分かりません。とにかく急がなければならないという事しか」

 思ったよりファネル様の寿命が少ないんでしょうか。そうすると更に短くなる可能性もあるかもしれません。
 急いで出発しましょう。

「……行くのね?」
「はい。これから直ぐにでも」

 タイタニア様から小さなメモの束を渡されました。

「ここに応用の精霊力陣を描いておいたわ」

 ……ロボに覚えられるでしょうか。

「ロボの体と精霊力の親和性が完璧に整えば、人の姿を取っていられる時間も増えるわ。そうなればきっと覚えられると思う。だからタイミングを見てヴァンが教えてあげて」

『それがし、人族の姿でいられるようになるでござるか?』
「なるわ。その為にとっとと結婚させたんだもの。トキメキなさい。トキメク事が近道よ」
『分かったでござる! ご先祖さま、ありがとうでござるよ!』

 タイタニア様がロボの鼻先まで羽ばたいて、その額に口づけしました。

「愛してるわよ、ロボ。気をつけてね」
『ご先祖さま……!』

 良い関係ですね。
 肉親をすでに失ったロボにとって唯一の血縁です。婿としても今後も良好な関係が築ける様に心配りしたいですね。


「ではタイタニア様。セイとレインも。お世話になりました。行ってまいります」
「ええ。世界をお願いね。ブラムとファネルによろしく」
「用が済んだらまたおいで!」
「今度は驚かさないからね!」


 タイタニア様のお屋敷を離れました。

 最後にタイタニア様とタロウが見つめ合い、しばらく「二人だけの時間」といった空気をかもしていました。

 三日間だけの仮初めの恋人でしたが、やはり通じるものがあるんでしょうね。

「タロウ、敢えて聞きますが、このままファネル様の後釜として礎になると、タイタニア様に会える事もまず無くなるでしょう。大丈夫ですか?」

「……そうなんすよねー。でも、なんでっすかね。生贄になりたくないっつう気持ちは湧かないんす。やっぱバラ色のニート生活の方に気持ちが向いてるんすかね」

「そうですか。それならそれで良いんですが」


 タロウはああ言いますけどね、僕は違うと思うんです。
 僕も結婚したんで良く分かります。

 きっと守るものが増えたという事でしょう。

 この世界に縁もゆかりもないタロウ、ダラダラと引きこもって生活したいだけで命懸けの旅に出るなんて無いですよ、きっと。

「あ~早くバラ色のニート生活したいっすねー! 毎日ゴロゴロして、食っちゃ寝したいっすねー!」

 ……タロウも照れ屋さんですね。

「ところでヴァンさん、生け贄の衣食住はこの世界が保証するっつう話、覚えてます?」

 タロウがこちらに来た日に確かに伝えましたね。

「覚えていますよ。それがどうかしましたか?」
「女の子も紹介してくれるんすかね?」

 ……そう来ましたか。
 さすがはタロウ、切り替えが早いです。僕の思考のさらに一歩も二歩も先を行っていますね。

「大丈夫でしょう。確かファネル様はファネルの街の紹介で二度ほど女性を娶られたはずです」
「マジっすか! やるっすねーファネルさん。俄然やる気が出てきたっす!」

 ……まぁ、やる気はないよりある方が良いですよね。

「なぁタロウ。その際には私にも紹介してくれるか?」
「良いっすよ! 二人で幸せ掴みましょーや!」

 ガッシと握手するタロウとロップス殿。

 今度は「彼女いない同盟」ですか。
 まぁ、モチベーションって大事ですよね……。
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