異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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95「精霊術」

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「ね? 言ったとおりでしょ?」

 タロウの胸の白く塗り潰された証、最も安堵の表情をしたのはタイタニア様でしたけどね。

「白っすかー。赤だったら緑と黄色とで信号かーい! って言おうと思ってたんすけどねー」

 タロウがぶつぶつ言っていますが、よく分からないので放置しましょう。


「セイ、レイン、ロボの精霊術の方はどうなの?」

 精霊術?
 聞き慣れない言葉ですね。

「はい! ロボの精霊力操作に淀みなし!」
「なので基本の三つの陣を教えましたわ!」

「そう、ありがとう。で、ロボ? 上手く使えた?」
「……それが。……覚えられんでござるよ」

 そうですか。
 この三日間のトレーニングではマスター出来ていませんでしたか。

「……基本の三つなのよね?」
「基本の三つですよ……」
「『守護しゅご』『慰撫いぶ』『細工さいく』の三つですわ」

「え? しゅごいぶさいく? それなんの悪口っすかー!」

 チラリとタロウの方を見て、それを無視するタイタニア様。

「確かに基本の三つ、おかしいわね……」

 タイタニア様とセイ、レインが苦虫を噛み潰したような顔ですね。

「何か問題が?」
「問題と言えば問題……でも試してみましょう」

 タイタニア様に促され、みんなで外に出ようとしましたが、挙手したタロウが声を上げました。

「すんません! お腹空いて死にそうなんす! あと眠くて倒れそうっす!」
「……あ、忘れてたわ。この三日、一睡もしてないし食事もさせてないわ」

 ……どんだけ夢中だったんですか……。
 青い若さがほんと眩しいですね……。

 簡単にですが、とにかく量は多めの食事を準備しました。
 タイタニア様はじめ、精霊は食事は不要との事で、精霊チーム三人はホールの端に集まって何事か相談されています。
 みんな小さいんで可愛らしいですね。

 ガツガツと食事していたタロウが、お腹が膨れたのか、バタンとテーブルに突っ伏してイビキをかき始めました。

「……三日間も不眠不休で無我夢中になれるものなのか……」
 ロップス殿が強い関心を示していますね。
 気持ちはわかりますが、こればっかりは縁ですからね。


「さぁ! みんな外に出るわよ!」
『タロウ、寝テル』
「放っておきなさい! もうタロウの用は済んだわ!」

 フワフワと浮かぶ精霊三人に続いて、ぞろぞろと並んで外に出ました。
 タロウはテーブルに突っ伏したままです。

「セイ、守護の陣を、少し大きめに描いて」
「はい!」

 元気良く返事したセイが、小さい体を大きく使って精霊力を籠めた指先で宙空に陣を描いていきます。

 大きな円の中にもう一回り小さな円、その中に収まる大きさの三角形、さらに三つ四つと線を描き込みました。

「霧散も発動もさせないで維持しなさい。ロボ、見ながらで良いから小さいのを描いてみて」

『がぅ……分かったでござる』

 ロボも精霊力を鼻先に集め、たどたどしいながらも精霊力陣を描いていきます。

『ど、どうでござろうか?』
「……一応、守護の陣の体裁は整ってるわね。そうね、ヴァンに向けて発動してみてちょうだい」

 え? 僕ですか?
 まぁ名前からして攻撃系のものではないでしょう。堂々と受け止めるとしましょう。
 尻込みするとカッコ悪いですからね。

「ロボ、良いですよ。いつでもどうぞ」
『ではいくでござる! 精霊の守護!』

 ロボが唱えるとともに、シュッと精霊力陣が縦に細まり消え、同時に僕の体を覆うとても薄い膜が現れました。

「これは……! ……結界、ですか?」
「正解。簡単に言えば『守護』は結界の力よ」

「では他の……ええと、なんだった?」
「確か『慰撫いぶ』と『細工さいく』でしたか」
「『慰撫』は癒しの力、『細工』は精霊力を加工する力よ」

『やっぱりタイタニア様の力は癒しの力でござるな』
「いえ、ワタシの精霊術は守護の力、『守護』も『慰撫』も『細工』も、誰かを護る力だわ』


 精霊術とは、魔法というよりも魔術の様に自由度の高いものの様ですね。

「とにかく出来たじゃない! やったわね!」

 タイタニア様が仰る通りいきなり成功しましたね。ウチのロボは出来る子なんです、よ……?

 ロボとセイとレインが顔を見合わせ苦笑いです。何か問題でもあるんでしょうか?

見ながら・・・・だと出来るんでござるよ』
「……どういうこと?」
『お手本を見ながらじゃないと陣が描けんでござる。覚えられんでござるよ』

 ああ、覚えられないって陣の形が覚えられないっていう意味でしたか。

『それがし、あんまり頭が良くないみたいでござる……』
「そう……。狼にしては相当賢いと思うけど……、ロボ、貴女いくつなの?」
『それがしは十歳でござる』

 腕を組んで何か考えるタイタニア様。ロボをジッと見つめています。

「確か、レイロウは十歳で成人だっけ?」
『そうでござる』
「その、少し気になったんだけど、その首輪……」
『これはヴァン殿がくれた婚約首輪でござる! それがしの宝物でござるよ!』

 バッ! とタイタニア様が鋭い視線をこちらに向けました。
 ちょっとビクっとしました。

「そう。ヴァン、貴方見る目があるわね。ロボの身内としても嬉しいわ」


 さらに腕を組んで何か悩んでおられますね。

「今夜からはロボ、貴女がワタシと寝なさい」

 ええ?
 タロウの次はロボですか!?
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