異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

文字の大きさ
上 下
93 / 185

70「ヴァンの煙」

しおりを挟む

『早くしろ! 弱体化がいつ始まるか分からんぞ!』


 急がなければなりません。

 ロップス殿とプックルが捻り出してくれたこの時間を無駄には出来ません。

「ウギーさん、申し訳ありませんが力を貸して頂きたい」
「良いよ。乗りかかった船だ」

 助かります。
 とにかくタロウの意識を取り戻させたいですが、先ほどのウギーさんの一撃でも戻りませんでした。
 衝撃では難しいでしょうか。

 
「ぬぅりゃぁぁ! 烈空蒼波斬れっくうそうはざん! 烈光迅雷突れっこうじんらいとつ! ……はぁ、はぁ、どうだぁぁ!」

 ロップス殿の奥義がガンガン当たりますが、タロウが怯む様子がありません。
 障壁を纏っている訳でもないのに異常です。
 どうやら受けたダメージを溢れる魔力で直ぐに回復しているようですね。

 ロップス殿の動きが目に見えて鈍くなりました。弱体化が始まってしまった様ですね。

 時間がありません。
 やはりこれしか思い付きませんね。
 正直言ってやりたくありませんが。

「ウギーさん、タロウの意識を刈り取るのは難しいように思います」
「そうだな、ぼくもそう思うよ」
「ですので、タロウの魔力を刈り取ろうと思います」
「魔力を?」

 できると思うんです。

「僕らは日常的に魔力の貸し借りを行なっています。問題なのは、合意の下でしか行った事がないという事です」
「なるほど。強引に奪う必要があるんだな」
「ええ。そこでウギーさんにはタロウの魔力を引き出す役をやって頂きたいんです」
「分かった。次にトカゲ人間が離れたら突っ込むよ」

 問題はそれだけではないんですが、どうせやるしかありませんからね。

「問題はそれだけじゃないと思うんだけど、ヴァン、期待してるよ」

 ウギーさんにはバレていますね。でもコレしか思い付きません。


「ぐわぁぁ!」

 炎弾の直撃を受けたロップス殿が、斜面の下方へ向けて吹き飛ばされました。

「離れた! 突っ込むぞ!」

 ウギーさんがタロウ目掛けて突撃、タロウの側頭部に強烈な蹴り、真横に吹き飛ばされたタロウが地を転がって行きます。

 タロウが両手で地面を押すように突き、跳びあがりました。
 そこをウギーさんの魔力弾が連続してタロウに直撃します。

「どうだ人族の男! 参ったか! って、全然参ってないね。困っちゃうなー」

 ピンピンしていますね、タロウ。

「りゃぁぁぁぁ!」
 ウギーさんが魔力を溜め、全身から黒く輝く魔力を迸らせました。

「『ギャァォアァァァァァ!』」
 タロウからも迸る炎を象ったような魔力が立ち上ります。

 僕も急いで準備です。
 タロウの後方へ回り、息を殺します。
 残る魔力は一割程度、これを全て体に纏わせるタイプの障壁に回します。タロウの総魔力の底が見えないので、できるだけ空っぽにしなければなりません。

「喰らえ人間!」
 ウギーさんが放ったのは魔法元素なしの魔力弾、単純な衝撃だけですが、とんでもなく強大な一発です。

「『ギャァォアア!』」
 タロウの両腕から放たれる魔力砲も同様に魔法元素なし、二人の中央で衝突しました。

「なんって歯応えのある人族! 気に入ったぞ! 全力で行くよ! りゃぁぁぁ!」

 ウギーさんの体から立ち昇る魔力が勢いを増します。衝突した魔力が押し合い、ややウギーさんが押しています。

「『ギャァォアアァアァア!』」

 タロウの纏う魔力も勢いを増します。

 今が狙い目ですね。


 タロウの背へと跳びしがみつきます。
 タロウの両腕を巻き込みながらしがみついたので、同時にタロウの魔力砲が消えました。

「うぉっとぉ!」
 ウギーさんの魔力弾が僕らの頭上をれ、上空へと消え去りました。


 タロウの纏う魔力に身を焼かれますが、障壁を頼りに無視、強引にタロウの魔力を僕へ移します。
 上手くいきそうです。少しずつタロウの魔力が――

「あぁぁぁぁぁ!」
 僕に流れ込むタロウの魔力が、一気に勢いよく流れ――

「がぁぁぁぁ!」
 既に僕の許容量を超えています。
 それでも魔力を移すのを止めません。


 タロウから噴き上がる魔力に依然衰えはありません。
 元々無理のあった策です。
 分かりきった事です。
 タロウの魔力量は恐らく、少なくてもファネル様と同程度、僕の数倍です。

 ぐぅぅぅ、でもちょっと想定以上です。
 それでももう声は上げません。


 ドォン!

 と音を立てて右脚が膝のところで破裂しました。
 めちゃくちゃ痛いです。
 ちょっとさすがに声を上げそうでした。

 既にタロウにしがみつく両腕と胸、頭にしか障壁は張っていません。

 タロウから奪った魔力を使い、右膝から回復の煙が濛々と立ち上ります。

 振り解こうとするタロウが体を振るのに合わせて振り回されますが、絶対に離しません。
 右膝から下がありませんが、腕さえ離さなければ良い。
 このまま、回復の煙で・・・・・魔力を消費させます。

 どれほど時間が掛かろうが、絶対に離しません。

「『ギャォァァァァァ!』」
 タロウが周囲に魔力を放出し、少し離れた所で様子を見守っていたウギーさんとロップス殿が吹き飛ばされます。
 生憎と近過ぎて僕には当たっていませ――


 ドォン!

 左膝もやられました。
 ……ちょっと、いや、かなり無理の方が大きいでしょうか?


 両膝から煙が立ち上りますが、依然タロウの魔力に衰えは見えません。


 うぅ、ちょっと怖い想像をしてしまいました。
 頭と胸、それ以外はいくら無くなっても魔力さえあれば回復の煙のお陰で再生可能ですが、明らかに煙で消費する魔力よりも流入量が多いです。

 いきなり全身が爆発なんてしないでくださいよ。
 お願いですからって下さいよ、僕の体。


「『ギャォァァ!』」
 タロウが飛び上がり、地面に僕を打ちつけます。
 そんな事で離しませんよ。
 めちゃくちゃ痛いですけどね。

「『グルゥァァァ』」
 立ち上がったタロウに引きずられる様にしがみつきます。

 周囲は僕の煙で霞みがかった様になってきました。長い人生でこんな事は初めてです。
 長生きするものですね。



 ぉぅええ。

 ……口から魔力が溢れそうでした。
 もう、目から鼻から、穴という穴から魔力が漏れそうです。


 ドバァァン!

 あぁ、お腹で爆発しました。
 勢いを増して濛々と立ち上る僕の煙。

 もう周囲は完全に真っ白です。

 意識を持っていかれそうです。

「『グゥルァァァ……ハナ……セ』」

 ……なんです?
 タロウが何か言いましたか?

「『ハナ……ギァァ……セ……』」


「『モォ、ヤ、メテクレァァ、ッス……』」


「モォ、ヤ、メ………………めてくれぇぇっす!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...