異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

文字の大きさ
上 下
90 / 185

68「混在」

しおりを挟む

『ヴァン殿!! タロウ殿が!! 溶岩に呑み込まれたでござる!!』


「ウギーさん、緊急事態です! すみませんがお先です!」

 幸い僕らの方が斜面の上です。

「足留めは私が。上は任せたぞ!」
「無理はしないで下さいよ!」

 身体強化最大のままで駆け上がります。

「ちょ、ちょっと待ってよ! ヴァン!」
「通さぬ!」

 後方でロップス殿の刀とウギーさんの爪が上げる音が聞こえます。
 ロップス殿、死んではいけませんよ。

 一気に頂上へと跳び込みました。

「ロボ、タロウは無事ですか!?」
『ヴァン殿! それが……、溶岩に引きずり込まれて……』

 ……それって既に絶望的なんでは……

『タロウ、誰カニ、呼バレテル、ッテ』

 誰かに?

「プックルはその声を?」
『聞イテナイ。聞コエナカッタ』
「その後すぐに引きずり込まれたんですか?」
『マグマノ柱、上ガッテ、チョットシテカラ』

 なんでしょうか。
 声は分かりませんが、少しでも時間があればタロウなら体に魔力を纏わせられるはず。
 まだ可能性はゼロではありませんね。

「僕が潜ります」
『潜るって溶岩にでござるか!?』
「それしかありません。二人はロップス殿と協力してウギーさんをお願いします」
『任セロ』
『……承知でござる!』

 火口から溶岩を覗き込みます。
 はっきり言って、潜りたくありませんね。
 魔力が切れた瞬間に間違いなく死にます。

 ここが男の見せどころ、しょうがないですね。
 身体強化に回していた魔力を操作し、体の外側に、全力で密度を高くした薄皮一枚分の障壁を纏わせます。

 せぇの――

『すまん、やられた』
 ロップス殿からの精神感応。

「お待たせ! ぼくが来たよ!」


 うるさいのが登ってきましたね。

「今忙しいんです! 今度にして下さい!」
「……何やってんの? 溶岩に飛び込むつもり?」
「見れば分かるでしょう!」

 僕は今まさに溶岩に飛び込む為に中腰になったところでした。

「プックル! ロップス殿をお願いします!」
『任セロ』

 急斜面を物ともせず、プックルが駆け下って行きます。

「山羊さんもかっこい! 欲っしい~」











 ここ、なんなんすか?
 俺、確かマグマに飲み込まれて……

 ああ、死んだんすか。

 死んだらこんなんなってるんすね。

 俺の周りは真っ白で、白いとこと自分の体の境界が曖昧で、なんか変な感じっすね。
 体も動かへんし……、って動くんすね。

 フワフワ浮かんでる感じやから、泳ぐ感じで動けん事ないっす。ちょっとオモロいっすね。

「あぁ~あ、ヴァンさん達の世界、守れんかったすね……」

 泣いてなんかないっすよ。
 ここでフワフワしてるのも、ファネルさんちでゴロゴロしてるのもそんな変わんないっしょ。


 でももうちょっとヴァンさん達と旅してたかったっすね。

――タロオ――

 うるさいっすね、だから泣いてなんか、って、え?

――タロオ、聞け――

 そうやん! この声やん!

 うわっ! ズゴゴゴって、ちょ、ちょっと待ってそんないきなり下からマグマ! ちょ――

 はー、びっくったっす。
 俺のちょっと下で止まってくれたっす。

 真っ白な世界の下半分、奥行きがよく分からんけど、見渡す限り真っ赤なマグマ。
 あら、もしかしてここ、地獄っすか?

――タロオよ、聞け――

「聞く! 聞くから出てくるっす!」

 あ、マグマの海からマグマがちょっと浮かんで来たっす。
 ちょっとっても、そこそこ、人一人分くらいっす。おお、人型になったすよ。マグマ人間。

――タロオ、我はこの世界の者が、明き神と呼ぶ者――

「明き神さま……、そうすか。じゃやっぱ死んだんすね、俺」

――タロオ、お前は死んでいない。話がしたかったので、此方に連れてきた。驚かせてすまなかった――

「そうなんすか! ヴァンさん達心配してるやろうから早よ話済ませて! 戻らんと!」

――慌てるな。戻ればほんの僅かしか時は経っていない――

「あ、そうなん。ほな安心やね。で、話ってなんすか?」

――一つはタロオが知りたがっていた、タロオの魔力感知についてだ――

「それそれ! どうなんすか?」

――結論から言えば、無理だ。タロオの世界における魔力が我にも分からない。できないだろう――

「どないせいっちゅうの!! ずっこけたわ!」

――二つめは、我はこの世界であり、この世界は我だ。我は七十年前、1/4となった。1/4だけでも守ってくれた五人には感謝している――

「あ、もう一つ目終わってんのね」

――しかし、タロオも知るように、五人の内の一人の寿命が近い。我の地表に住む、この世界の者どもは知る由もないが、1/4の地表の裏側、我の内側は昏き世界に剥き出しだ。

――剥き出しの裏側の結界が弱まっている。昏き世界の者どもの侵入を許したのも、そのせいだ。

――タロオが結界の礎としてこの世界に呼ばれた事は知っている。力を貸したい――

「なんで知ってるんすか?」

――この世界は我だ。この世界において、我の知らぬ事はない――

「そうなんすか。一つ言って良いすか?」

――良い――

「俺、タロオじゃなくてタロウっすから!」

――…………すまん――

「よっし! 力貸してくれるんなら借りるっす! 具体的にどんなメリットがあるんすか?」

――ただ一点――

「一点だけっすか」

――制限はあるが、我の魔力を使い放題だ。ヴァンに借りる必要なし――

「オッケー! 借りるっす!」

――リスクも一点。我の力に耐えられなければ、自我が崩壊するかも知れん――

「ちょ、それリスク大っきくないっすか?」

――我の魔力に耐えられそうな器を持つのは、この世界に二人だけだ。真祖の吸血鬼ブラムか、タロウだけ、しかしブラムは竜の因子を持たぬ。

――やはりタロウ、お前だけだ――

「……オッケーっす。そう言われると断れんす。契約成立っす」








 ドォォォォォォォン!

 なんです!?
 いきなり溶岩が噴き上がりました。

「ヴァン、あれなんだい?」
「知りません! ロボ、こちらへ! 少し下がります!」
『承知でござる!』

 ロボと共に頂上から少し離れます。
 ついでと言ってはなんですが、遠目にロップス殿の様子を、大丈夫そうですね。プックルが背に乗せて移動を始めました。

「ヴァン! 少し休戦としよう! 明き神はともかく、溶岩とは喧嘩したくないんだ」
 頂上から、少し遅れてウギーさんがやってきました。

「良いでしょう」

 指先に魔力を籠めて差し出します。

「これは少ない魔力でもできる魔術です。知っていますか?」
「あぁ、良いだろう」

 ウギーさんも指先に魔力を籠めてこちらに差し出します。

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます! 指切った!」


 これでしばらくはウギーさんの方は大丈夫です。
 万が一約束を破れば、体の長い謎の魚にはらわたを食い破られる呪いが発動します。もちろんこちらもですが。

 とにかくタロウです。
 ウギーさんと違って、溶岩と喧嘩してでもタロウを取り返さねばなりません。

「ロボ、僕は頂上に戻ります。プックル達と合流して下さい」
『しかし……』
「聞き分けなさい。今は足手まといです」
『……分かったでござる』

 最初に噴き上がった溶岩が、ダパァンと音を立ててマグマ溜まりに落ちてきました。


「『ぎゃぉぉぉぉぉあぁあぁぁぁ!』」

 頂上上空、全身に紅蓮の炎を纏わせたタロウが叫んでいます。
 とりあえず無事なようで安心しましたが、何があればあんな事になるんでしょう。

 もう頭が痛いですよ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

処理中です...