異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

文字の大きさ
上 下
40 / 185

31「プックルの魔法と過去」

しおりを挟む

 おはようございます。
 ヴァンです。
 夜明けが近づいています。

 昨日はマロウ撃退記念祭りで完全に一日潰れました。
 楽しかったので不満はありませんが。

 みんなが起きる前にと思い、ソーっと物音を立てずに旅の支度を進めています。

 そんなにたくさんは持てませんからね、厳選して持って行こうと思うんです。
 次に向かうヴィッテルは四日程なので大した事ありませんが、ヴィッテルから先、ガゼル領に入ると町や村は疎らになります。
 山岳地帯に突入するので当然ですね。

 ヴィッテルで購入可能な物は持たずに出る方が良いでしょう。
 ロープや毛布などの生活必需品は既に持ち歩いているので、やはり戦闘向けの武器や道具、それに調味料を充実させましょう。

 父が置いて行った道具箱から、投擲ナイフセットや簡易結界石など、役に立ちそうで、尚且つ嵩張らないものを選び出しました。

 あとは調味料です。
 少しでも楽しく料理したいですからね。塩以外にも、ビネガーやお酒などの液体は嵩張りますが、少量ずつ持って行きましょう。

 こんなものでしょうか。一通り揃いましたね。
 
『……ヴァン殿? 何してるでござるか?』

 ロボがベッドから降りて近づいて来ました。

「起こしてしまいましたか。少し旅の支度をしていました」
『そうでござるか。それがしも手伝うでござる』
「もうおわった所ですよ。ありがとう」

 あ、そうだ。さっき見つけたものをロボに渡しておきましょう。

「ロボ、これを」

 小指の先ほどの透明な石が中央についた、革のベルトをロボに見せます。

『なんでござるか?』
「〈ブラムの石〉という名前の、父の作ったものなんですが、この石に魔力を籠めておけば、見失ってもどこに行ったか分かる様にする道具です。これを巻いておけば、はぐれた時にも、貴女に何かあっても、すぐに見つけられます」

 石に指を触れ、僕の魔力を籠めます。
 透明な石が、僕の魔力に反応して白へと色を変えていきました。
 ベルトをロボの首に巻きつけしっかりと留めました。

「どうです? きつかったり痛かったりしませんか?」
『特に違和感はござらん』

 そう言うと、トコトコと姿見の所まで歩き、鏡に全身を写して鏡の前で食い入る様に見つめるロボ。

『なんと素敵な! これが噂の婚約首輪でござるな! 嬉しいでござる!』

 ……違うんですが……
 ま、まぁ良いでしょう。
 気に入ってくれた様ですし、水を差さなくても良いでしょう。


「ヴァンさん、ロボ、おはよー」
『ヴァン、ロボ、オハヨ』

 二人も起きてきましたね。

「あ! ロボ、良いのつけてるっす!」
『ふふん、良いでござろ?』
「婚約首輪っすかー。素敵じゃないっすか」
『そうでござろ! タロウ殿はお目が高いでござる!』

 本当に喜んで頂けて良かったです。

 それにしてもタロウ、貴方、覗いてたんじゃないですか?




 朝食も済みました。
 では、ようやく出発です。

「ヴィッテルまでは街道に沿って行きますので、ロップス殿が言っていた通りに、東へ三日、そこから北へ一日の行程で進みます」
「今回は森を抜けたりないんすね」
「予定通りに進めばありませんね。おそらく魔獣に出会う事もないでしょう」

 約束の十日まであと五日。あまり早く着いてもしょうがないので、普通に歩いて行きます。
 タロウもプックルから降りて歩きです。
 乗りっぱなしだと身体が鈍りますしね。

「ロボ、疲れたら抱っこするので言って下さいね」
『平気でござるよ!』
「ヴァンさんってば、ロボの毛をモフモフしたいだけなんでしょー」

 失敬な! でも否定はしません。
 正直気持ち良いですからね、ロボの毛を撫でるのは。


 しばらく街道に沿って歩きます。
 タロウは時々思い出した様にマナツメを集めに街道を外れて、走って戻ってきます。
 少し高い所のはプックルが手伝っている様ですね。

「そういえば、魔獣も魔法使えるの居るって言ってたっすよね?」
「ええ、マトンの森を抜ける時に言いましたね」
「プックルも魔法使えるんすか?」

 そういえば聞いていませんね。

『使エル』

 マロウの長が使った、魔力を籠めた遠吠え、あれも魔法の内ですが、ああいう系統ですかね。

「見せて欲しいっす!」
『見たいでござる!』

 プックルが首を揺すって、やれやれ、という仕草です。

『見セル』
「お願っす!」

 大きく息を吸ったプックルが口を開きます。

『♪メェェエェェェェエエェェェ♪』

 プックルがメロディアスな鳴き声で、歌うように鳴きました。

 あ、これはダメなやつですね。安易に魔法を使わせたのは失敗でした。

「なんすか!? それ、魔法なん……す…………か……」

 あちゃー。
 タロウが眠りに落ちました。もちろんロボもです。

 タロウはプックルにもたれる形でスヤスヤと、ロボはそのまま地に伏してスヤスヤです。

「プックル、先になんの魔法か聞けば良かったですね」
『二人トモ、耐性、無サスギタ』

 タロウをプックルの背に腹這いに寝かせ、ロボを抱き抱えます。

 念願のモフモフだぜ! とか思ってないですからね。念のため。

 それにしても、プックルの魔法は魔力の使い方が面白いです。
 マロウの長の様に、鳴き声という「音」に魔力を籠めるのではなく、鳴き声で作った「音の波」に魔力を乗せている様ですね。

「眠らせる以外にも色んな使い方のありそうな魔法ですね」
『プックル、色々、デキル』

 パンチョ兄ちゃんはどこでプックルと知り合ったんでしょうね。

「プックルはどこの生まれなんですか?」
『プックル、昔ノコト、知ラナイ、ファネルノトコ、居タ。パンチョノトコ、来タ』

 そうなんですね。ファネル様からパンチョ兄ちゃんに譲られた形なんですか。

 じゃあ、プックルの過去はもう誰も分からないかも知れません。
 ファネル様はお気楽極楽なので……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

処理中です...