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49「Young brother《弟》」

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「ほれ見ろ。俺からの着信とメールいっぱいだろ?」
「悪かった。出来るだけ持ち歩くようにする」
「出来るだけかよ」

 ロケットベーカリーの裏口、つまり我が家の玄関側に回るのは少し面倒だ。商店街の裏道に出るのにほんのちょっぴり遠回りだから。

 だから店の入り口から入って厨房を通り抜け、バックヤードでガラケーを回収したところ。

 十ほどの着信と、『いまどこだ?』って内容のメールがいくつもあった。確かに私が悪かった。すまん。

 裏から出て、外階段を登ってようやく我が家だ。
 ふぅ。なんか昨夜から色々あって疲れた。とにかく頭が疲れた。

「お疲れゲンちゃん」

 うちの冷蔵庫からビールを二本持ってきて喜多も座る。またコンビニで六缶買おうとしたのをめさせたんだったな。なんせまだ冷蔵庫に残ってるから。

「いや、喜多の方が疲れただろう。悪いな、手間かけさせる」
「へっ、ホントだぜ」

 劣才れっさいさんが死んだのにも驚きだが、私が既に殺し屋になってた事にはより驚いた。
 けれど、まぁ、そうなっちまったからにはそれもしょうがない。
 ならば私はパンを焼くだけだ。私にはもうそれしか能がない。

「それで? っての説明してくれるんだろう?」
「そう、それだぜ」

 喜多はそう言って、ビールを開けずに卓袱台に置いた。酔うとマズいと考えたからだろう。

 しかし私は開ける。
 喜多ほど弱くはないし、なんだか飲まずにはいられない気分なんだ。パシッと開けて喉を鳴らせば喜多がむくれた。

「ひでーなゲンちゃん」
「酷くない。続けてくれ」

 ちぇっ、とひとつ舌打ちを挟んで喜多が話し始めた。

「繋がった、ってのの最初のピースは隣県のヤクザ。さらに美横みよこに似た男だ」

 まぁそれはそうなんだろう。どう繋がるかは私には分からないが。

「まずゲンちゃんが会った美横みよこに似た男、あれは弟の美横 熊二ゆうじ。兄貴以上のクソヤローだ」

 喜多の話じゃ双子って訳じゃあないらしいが、しかしやっぱり血縁だったらしい。

「美横 熊一ゆういちが生きてるんじゃないか、って問い合わせがあったって言ったよな?」
「あぁ、覚えてる」

「それが美横の弟、熊二ゆうじだったんだ」

 ――ちらちらとちゃぶ台の上の缶ビールに視線をやる喜多の説明はそこから少しとっちらかった。

 簡単にまとめると、熊一のフリした熊二にヤクザは脅されてたんだと。
 どう嗅ぎつけたのか、熊二は兄貴の仲間がヤクザに殺された事と、当時兄貴たちが請け負ってた仕事をネタに強請ゆすり、を殺させようとしていたらしい。

「それが今夜予定していた殺しの相手、ってことか」
「そうなる。危うくロクでもない殺しをゲンちゃんにさせるとこだったぜ」

 ふーぅ、と額の汗を拭うフリをした喜多がビールに手を伸ばしてひと口飲みやがった。まぁ良い、ひと口だけだぞ。

「その女がやったっていう結婚詐欺がはっきりしなかった、ってのがもう一つのピース」

「なんだ、それもでっち上げか」
「水商売の女でよ。調べた限りじゃ確かにそれっぽい事はあったんだがな」

 もの欲しそうにチラリとビールに目をやったものの、なんとか堪えて喜多が続ける。

「んで最後のピースはアイツだ」
「どいつだ?」

 勿体つけるな。私にはひとっつも見当がついていないんだ。

「カラオケデブだ」
「カラオケ……デブ……? って、梅雨頃の?」

「そうだ。ゲンちゃんの最後の殺しのアイツだ」

 んん? アイツが? 絡むのか?

「熊二の探してた知り合い、どうやらそれがカラオケデブらしい」
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