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22「Square《四角》」

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 火曜日の朝。
 いつもの朝のルーティンを済ませ、丸二日摂取できなかったカオルさんの笑顔『にへら』を全身に染み渡らせているところだ。

 厨房に立ちすくんで目を瞑り、指先や爪先まで丁寧に染み渡らせていると、バックヤードに着替えに入ったカオルさんから声が届いた。

「店長! ケータイなんて持ってたんですか!?」

 私のぱかぱか開くケータイを手にカオルさんが飛び出した。
 そんなに驚く事じゃないと思うんだが――

「それくらい持ってますよ。だって現代人なんですから」
「そう言われればそうですね。なんでかそういうの持ってない気がしてました」

 てへ、とテロップが着きそうな顔でコツンと自分の頭に拳を当てたカオルさん。
 あざと可愛いい――ってやつか。あざとい万歳だ。可愛い過ぎて一瞬呼吸が止まっちまったよ。

「さっき喜多に連絡したんですよ。ちょっと用があって」
「あ、もしかして野々花の件ですか?」

「え? ええ、まぁそうです。スケジュールの件で」
「ホントお手間かけてすみません。二人ともお忙しいのに――」

 これには食い気味に否定する。

「全然! 僕も喜多も楽しんでますから!」

 そしてにっこり私なりの笑顔。
 するとカオルさんも『にへら』。

「ふふ、だったら良いんですけど。ありがとうございます店長」
「いえいえ、どういたしまして」

 な……なかなか良かったんじゃないか? 私の今の笑顔。

「じゃあ店長」
「なんです?」

「電話番号、教えてください」


 ――デンワバンゴウ?

 ん? と瞼の裏を見るように一瞬見上げ、あぁ、電話番号かと思い至った。

「だ、だったらそれ、いじってくれて良いんでカオルさんの番号入れてください」

 当然カオルさんの携帯番号は知っている。履歴書にあるから。けれどカオルさんが手に持つ、私のケータイを指差して言う。

「あ~~店長さては、使いこなせてませんね?」
「ち、違いますよ。手がほら、こ、粉だらけだからですよ」

「じゃあまぁ、そういう事にしときましょう」

 そう言ったカオルさんは私のケータイを操作し、そして私のケータイを見ながら自分のスマホも取り出して何ごとか触った。

 私のケータイに入ってる連絡先は喜多とロケットベーカリーだけ。まさか三つ目がカオルさんになるとは……。

「野々花の予定とか、メールしたりしても良いですか?」

 ……そうか、そうだよな。野々花さんの体験パン屋の為だよな。

「ええ、もちろん」

 それでも一歩前進、だと思って良いだろ――

「あたしのどうでも良い話とかそんなのも、用がなくても送って……良いですか?」

 照れた笑いのカオルさん。
 ……二歩、いや、これは三〇〇歩前進……

「も、もももちろん! も何か送ります! メール、まだ使ったことないですけど!」



 仕事終わり、二階の部屋に戻ってケータイを見ると、背面の小さなモニターが青く点滅していた。

 喜多から着信か? と思ったが違った。

『今日もお疲れ様でした⬜︎! 明日もよろしくお願いします⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎』

 めちゃくちゃ癒されたが……なんだこの意味深な四角は……
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