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しおりを挟む貴族令嬢はよく倒れる。
父の弟で画家として名を馳せていた叔父さんが年に一度帰ってきた時にそう話していたのを覚えている
豪邸の中で大事に大事に育てられた彼女たちは少しの衝撃で簡単に倒れる、と笑いながら話していた叔父さんの話をぼんやりと思い出しながら私の意識がスッと浮上した
「大丈夫ですか?」
「アルフレッド…様?」
一気にいろんな情報が頭の中を駆け巡った私は倒れていたみたいだった
目を開ければいつも寝ているベッドの上
横には心配そうな顔をしているアルフレッド様が椅子に座っていた
「急に倒れたからびっくりしました」
「申し訳ございません。いきなりのことで…」
呆然とする私に向かって、そうですね。と言う彼の顔を見つめる
その意図が通じたのか彼が口を開いた
~~
「つまり、私とマシューの婚姻届は正式なものではなかった。ということですか?」
「はい。マリユス公爵閣下が特別離縁承諾証を提出しようとした際に発覚したそうです。なんでも、住所と名字の綴りが間違っていたとか…」
え、と言葉が出た後に私はハッとする
マシューは顔が良いが頭はあまり良くなかった
勉強が嫌いだからよく文字を間違えていた記憶がある
まさかそれを婚姻届で発揮するとは…
「ですので、エミリエンヌとマシュー・シェロンの婚姻は最初から無かった。ということです。」
「そんな…」
唖然とする私の手を優しく握るアルフレッド様に視線を移す
柔らかい瞳で見てくる彼の表情をみて自然と涙が溢れてきた
「私の、15、年は…なんだったのでしょうか…」
年甲斐もなく泣きじゃくる私をそっと彼が抱きしめる
心身共に疲れ切っていた私はその抱擁に包まれて気がすむまで泣いてしまった
ーー
「お父様、お母様!」
「「エミリー!」」
衝撃の事実から早いもので2週間が経過した
その間、私はラバール侯爵家のお世話になっていた
アルフレッド様から私の両親を呼んでいる、と聞いていたために好意に甘えさせてもらった結果だ
この2週間はドタバタしながらもアルフレッド様のサポートもあって忙しい中でもゆっくりとすることができた
まず、私が騙されてシェロン男爵家に拘束されていた。ということになっていた為に、私自身が男爵家にどうするのか。ということ
爵位返上、没落。の末路を辿っているシェロン家に今更何も求める気がなかった私は特に何も要求しなかった。
今後一切、関わらない。それだけを条件に賠償金などの請求もしなかった
その手続きも全てアルフレッド様が書類から何まで処理してくれたおかげで、私は裁判所に行き必要書類にサインをしただけ
そして、きっかり2週間後
両親がラバール侯爵家へとやってきた
「まさかこんなことになってるとは…」
「私も驚いたわ。でも、これからは子爵家として頑張っていかないといけないわね」
お父様とお母様がそう話す
2人とも10年間、平民として生活はしていたが、元々は貴族だった為かマナーや教養はしっかりとしている
子爵に叙爵したので責任は大きくなるが、お父様は静かに闘志を燃やしていた
「あの時は何もできずまま没落してしまったが、もう同じ轍は踏まないようにしっかりと領地経営をしないといけないな」
「そうですわね。…エミリーも一緒に領地に帰りましょう?お父様とお母様のことを助けてくれたら嬉しいわ」
そう話しながら微笑むお母様をみる
我が家は私の下に弟がいるが、現在は隣国の豪商の元に婿入りしているので爵位を継ぐ、となると色々とややこしくなってしまう
なので、2人は私を後継者として考えているのだろう
女性は爵位を継承できない
結婚して男児を産み、その子が成人するまでの間、代理として爵位を預かることはできる
私は31歳
令嬢としては年増だが、年齢的にはまだ子を望める年齢ではある
きっと2人ともそこに賭けているのだろう
「……ええ。そうね。それが一番得策だわ」
無意識に出た声は肯定
「そう言ってくれて助かるよ。早速、荷物をまとめて領地に…」
私の言葉を聞いて明るい表情になった両親は、早速動き出そうとする
「お待ちください、レイリー子爵殿」
席を立とうとした両親に向かって、少し離れたところに待機していたアルフレッド様が声をかける
私はハッとして彼を見た
「せっかく、王都に来たのですからもう少しゆっくりされてみては?我が家に滞在してもらって構わないですよ」
アルフレッド様の笑顔は国宝級。とどこかの令嬢が言っていたのを思い出した
その笑顔を向けられた両親たちは「それなら…」とすぐに一週間の滞在を承諾した
その決定に私はホッとした
ここを直ぐに離れたくない気持ちが強くなっていたからだ
そんな私の心を見透かしているのか、アルフレッド様は私をみてニコリと笑った
ーー
「侯爵家は凄いわね!料理も、部屋のグレードも何もかも私たちとは違うわ…」
うっとりと内装を見ているお母様に苦笑しつつ、お母様とお父様にあてがわれた部屋へと案内する
かれこれ、2ヶ月近く滞在している私は侯爵家の内部を把握してしまったのだ
「それじゃあ、明日はオペラに連れて行ってくれるのね?」
「そうよ。だから早く寝てね?」
お酒が入ってふわふわとしている両親を部屋に押し込める
扉をしめてふっーと息を吐きながら私は自室へと足を向けた
「アルフレッド様?」
「お待ちしてましたよ。」
一杯いかがですか?と、いつかの夜のようにワイングラス2つとボトルを持った彼が私の部屋の前に立っていた
クスクスと笑いながら、どうぞ。と扉を開けて彼を部屋へと招き入れた
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