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しおりを挟むアマリリス視点
「アイリス。貴方の姉は貴方を呪っていたのですよ」
エクルストン大公殿下がアイリス妃殿下に告げる
細い体つきをした妃殿下は今にも折れてしまいそうなぐらい震えて青ざめている
(「慕っていた姉から呪われていただなんて、考えただけでゾッとするわよね」)
古今東西、姉妹仲が必ずしも良いとは限らない。
私も義理にはなるが妹とは中々折り合いがついていない
きっと王太子の婚約者になったことも屋敷で知れば荒れるだろう
義妹は私に対する強い対抗意識があるのだ
「呪い、とはどういうことだシオンよ」
陛下のやけに芝居がかった声で考え事からハッと意識を浮上させる
今は屋敷にいる義妹のことを考えている場合ではなかったと自分自身を叱咤する
私の今夜の使命は王太子の婚約者になることと、もう一つ
アイリス・エクルストン大公妃殿下を守ること
その一つを国王夫妻と大公殿下から頼まれていた
事の発端は1ヶ月前
私はいつものように王妃教育を受けるべく王城に向かっていた
指定された部屋に向かうために歩いていると前方からやってきたのはもう1人の王太子婚約者候補のローズマリーだった
「ごきげんよう」
「……ごきげんよう」
貴族令嬢としては当たり前の挨拶を行う
私と関わりたくないとばかりに早足で去っていく彼女の後ろ姿を見ながら、今日も朝、屋敷で駄々をこねていた義妹を思い出した
長い廊下を歩きながらローズマリーのことを思い出す
ローズマリーとは同時期に生まれ、爵位こそ違うが同じ貴族令嬢として、そして、未来の王太子妃候補として育て上げられてきた
なので、王太子の同い年である私たちは必然的に出会う場面も多くお互いの名前や顔を意識することは小さい頃から親達に教え込まれてきた
(「たしか、昔はあんな華やかな感じじゃなかったはずよ」)
私が覚えているローズマリー・ブリテンは髪こそブリテン家当主と同じブロンズピンクであるものの、その顔はとてもじゃないが褒められたような顔ではなかった
初めてローズマリーと会った帰りに実母が楽勝ね、と呟いた程だったからはっきりと覚えている
それが8歳を迎えた頃に急に垢抜けて今の華やかさを身につけてからは性格までもがどんどんと好戦的になっている印象だった
考え事をしているといつのまにか指定された部屋の前までやってき
今日はいつもと違う部屋を指定され、少し緊張している
コンコンと部屋をノックすれば中からプルメリア様と陛下の声が聞こえた
「ご機嫌麗しゅうございます。両陛下におかれましては…」
「ああ、そんな堅苦しい挨拶は大丈夫だ。今日は話したいことがある」
そこに座ってくれ、と促され室内のソファに腰掛けた
「アスターの婚約者には君で内定だ。それにあたって一つ頼み事と今の王族の秘密を伝えよう」
陛下からそう言われて私は背筋を伸ばす
さらっと婚約者に内定してしまったが、それよりも王族の秘密とやらに興味が注がれてしまった
入ってきてくれ、と陛下がドアに向かって言うとドアが静かに開きエクルストン大公殿下が入室してきた
大公の突然のお出ましに目を丸くさせてしまったが陛下と大公は気にせず話を始め出した
ーー
「つまり、ローズマリーは妹である大公妃殿下から呪いを媒介として生命力などを奪っている。そして大公殿下はそう言った呪いの効果や人のオーラがみえる、と」
「そうだ。呪いは禁止されている行為だ。ブリテン家の中だけならまだしも、大公妃となったアイリスに対して呪いを行なっているとなるとそれは王族殺人容疑になる。」
裁判後に死刑確定だな。と躊躇なく言う大公殿下の恐ろしさに冷や汗をかく
冷徹な大公とはよく言われているが、どうやら妃殿下のことに関してはかなり神経質なように見受けられた
「1ヶ月後の夜会で婚約者内定とティアラの贈呈を行う。きっと彼女は何かしらのアクションを行ってくるはずだ。
私も目を光らせておくが、彼女のことだ、私の近くにいない時を狙うのはわからきってる。」
「そこで、私の出番なのですね」
「話が早くて助かる。ロータス嬢は護身術も習得していると聞いてる。彼女が仕掛けてきたら、アイリスを守って欲しい」
普段は無表情な大公だがアイリス妃殿下の話をする際に視線が柔らかくなるその姿を見て「恋は盲目」と言う言葉が頭に浮かんだ
(「私も、アスターとそんな関係になれるかしら」)
今頃王太子教育でドタバタしているだろう婚約者になる男に思いを馳せる
「かしこまりました。お任せください」
「…ロータス嬢はローズマリー嬢と旧知の仲だと聞いたが、彼女がなぜ呪いに手を出したか想像がつくか?」
シオン様から真剣な眼差しで聞かれる
「……大体は予想がつきます。ですが、根拠はないのでお話はできかねます」
私の言葉に少しがっかりとしたようなシオン様に申し訳なさを感じつつ、厄介なことに首を突っ込んでしまったものだと思った
ーーー
それが1ヶ月前
そして1ヶ月後の今日
陛下たちの目論見通り、ローズマリーは行動を起こした
ヒステリックに叫ぶローズマリーをみて「可哀想な人」とどこか他人事に感じてしまっている私を他所に隣で妃殿下はどんどんと青ざめていく
「妃殿下。あとは大公殿下に任せて私たちは退室しましょう」
背中をさすりながら妃殿下に退室を促す
いくら護身術を習得しているとはいえ流石に倒れた人間を運ぶほどの力は持ち合わせてない
倒れる前に避難を、そう思って声をかけた
「いえ……わたしは、私はきっと姉と向き合わなければならないのかもしれません」
先程までプルプルと震えていた妃殿下は両手を握り締めながらどこか覚悟を決めた顔で前を見据えた
その横顔がどこか、自信があふれていた頃のローズマリーと重なった
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