上 下
13 / 18

13

しおりを挟む


「はじめまして。アイリス妃殿下。お噂以上に素敵なお方でとても驚きましたわ」

「…はじめまして。ロータス侯爵夫人。中々社交の場にでてこれず、お恥ずかしい限りですわ」


シオン様にエスコートされて入った夜会会場で真っ先に声をかけてきたのは先程、陛下から聞いたアマリリス・ロータス侯爵令嬢の両親にあたるロータス侯爵夫妻だった

ロータス侯爵の紹介の後、夫人が真っ先に私に声をかけてきたことで少なからず私は居心地の悪さを感じた


「今日はとても良き日ですわ。まさか実の娘が王太子殿下の婚約者になれるとは思っておりませんでしたから」

「そ、そうですか…」


扇を仰ぎながら笑顔を浮かべるロータス侯爵夫人の思惑はきっと私の姉を貶しているのだろう
現に口元は笑っているが目元はにこりともしていない

「ロータス侯爵夫人。妻は社交の場は慣れていないのであまり苛めないで頂きたい」

「まあまあ。殿下は随分と過保護なのですね」

「ええ。妻の一挙一動が気になるもので」

「ふふっ 情熱的ね」


それでは後ほどまたゆっくりお話し致しましょう。と言葉を残してロータス侯爵夫妻は私たちの目の前から去っていった


左手にシャンパンを持ち、会場をぐるりと見渡す


「誰が探しているのか?」

「姉を。婚約者に選ばれなかったなら会場にいるのではないかと思ったのですが…」


何百人といる会場から姉を見つけ出すのは難しいと判断しシオン様に視線を向ける

「ブリテン嬢ならきっと後から入ってくるはずだ。なにせは婚約者候補だったし、王妃教育も齧っていたわけだから、王家が責任を持って嫁ぎ先を見つけてくれるはずだからね」


「それならよかったですわ。昔から姉は王太子妃になるために勉学や作法を習っていましたから…私も時たま姉にマナーを教えてもらっていたんです」


10年ほど前の記憶を脳裏に浮かべながら懐かしい記憶に浸る
あの頃は姉だけが、私のもとにやってきて沢山の話を聞かせてくれていた


「それで、君は礼儀作法が綺麗なのか」


「見様見真似でしたが、身につけておいてよかったです」


会場内をゆっくりとシオン様と歩く


大公妃としてはじめての社交の場であったために沢山の貴族達からの挨拶を受けたが、その度にシオン様がフォローしてすれて大きな問題がなく挨拶を終えることができた



会場の熱気に包まれて頭がクラクラし始めた頃、隣にいたシオン様がさりげなくテラスにエスコートしてくれたおかげで少しホッと一息つくことができた


「涼しいですね」

「ここは案外穴場でね。人はあまり来ないからゆっくりすると良い」

連れてこられたテラスは室内からだと死角になっている場所にあり少し姿勢を崩しても咎める人がいない場所となっていた


「…すっかり忘れていました。貴族同士の腹の探り合いを」

「気にすることはない。彼らはただ面白いことに興味があるだけだ」

「ですが…!!」


夜風のおかげでクールダウンした頭は先程の挨拶の中で受けた言葉を何回も反復させていた


アイリスが大公に嫁いだから、パワーバランスを考えてアマリリス・ロータスが選ばれたのではないか』


挨拶にやってきたほとんどの貴族が遠回しに言ってきた言葉が頭から離れなかった


確かに冷静になって考えてみれば、大公に嫁いだ妹がいるのに、姉までもが王太子妃になるのは明らかにブリテン家を優遇していると捉えられてもおかしくないからだ


「私はシオン様と結婚したことは後悔していません。むしろ結婚できて良かったと思います。…でも、それならずっと頑張ってきた姉の想いはどうなるのでしょうか」

「元はと言えば、ブリテン嬢がだったんだ。それを拒否したのは彼女とその両親だ。君に罪はない。」


真っ直ぐといつものように手を握りながら見つめてくるシオン様の瞳からつい目を逸らしてしまう


「私は悪い子です。姉にあんなによくしてもらったのに、姉のためにシオン様と別れるなんてこれっぽっちも思っていないんです」

「それでいい。それがいいんだ。君は十分、ブリテン嬢のために尽くしてきたんだ。」


「シオン様…」




気づけば頬に涙が流れていた

静かに泣く私をそっとシオン様が抱きしめて背中をトントンと叩いてくれた




数分後、会場の中から王族が入場するファンファーレが流れてきた


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「お迎えに上がりました、お嬢様」

まほりろ
恋愛
私の名前はアリッサ・エーベルト、由緒ある侯爵家の長女で、第一王子の婚約者だ。 ……と言えば聞こえがいいが、家では継母と腹違いの妹にいじめられ、父にはいないものとして扱われ、婚約者には腹違いの妹と浮気された。 挙げ句の果てに妹を虐めていた濡れ衣を着せられ、婚約を破棄され、身分を剥奪され、塔に幽閉され、現在軟禁(なんきん)生活の真っ最中。 私はきっと明日処刑される……。 死を覚悟した私の脳裏に浮かんだのは、幼い頃私に仕えていた執事見習いの男の子の顔だった。 ※「幼馴染が王子様になって迎えに来てくれた」を推敲していたら、全く別の話になってしまいました。 勿体ないので、キャラクターの名前を変えて別作品として投稿します。 本作だけでもお楽しみいただけます。 ※他サイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

無能だと捨てられた王子を押し付けられた結果、溺愛されてます

佐崎咲
恋愛
「殿下にはもっとふさわしい人がいると思うんです。私は殿下の婚約者を辞退させていただきますわ」 いきなりそんなことを言い出したのは、私の姉ジュリエンヌ。 第二王子ウォルス殿下と私の婚約話が持ち上がったとき、お姉様は王家に嫁ぐのに相応しいのは自分だと父にねだりその座を勝ち取ったのに。 ウォルス殿下は穏やかで王位継承権を争うことを望んでいないと知り、他国の王太子に鞍替えしたのだ。 だが当人であるウォルス殿下は、淡々と受け入れてしまう。 それどころか、お姉様の代わりに婚約者となった私には、これまでとは打って変わって毎日花束を届けてくれ、ドレスをプレゼントしてくれる。   私は姉のやらかしにひたすら申し訳ないと思うばかりなのに、何やら殿下は生き生きとして見えて―― ========= お姉様のスピンオフ始めました。 「体よく国を追い出された悪女はなぜか隣国を立て直すことになった」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/465693299/193448482   ※無断転載・複写はお断りいたします。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
───私は美しい姉と間違って求婚されて花嫁となりました。 美しく華やかな姉の影となり、誰からも愛されずに生きて来た伯爵令嬢のルチア。 そんなルチアの元に、社交界でも話題の次期公爵、ユリウスから求婚の手紙が届く。 それは、これまで用意された縁談が全て流れてしまっていた“ルチア”に届いた初めての求婚の手紙だった! 更に相手は超大物! この機会を逃してなるものかと父親は結婚を即快諾し、あれよあれよとルチアは彼の元に嫁ぐ事に。 しかし…… 「……君は誰だ?」 嫁ぎ先で初めて顔を合わせたユリウスに開口一番にそう言われてしまったルチア。 旦那様となったユリウスが結婚相手に望んでいたのは、 実はルチアではなく美しくも華やかな姉……リデルだった───

処理中です...