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しおりを挟む「はじめまして。アイリス妃殿下。お噂以上に素敵なお方でとても驚きましたわ」
「…はじめまして。ロータス侯爵夫人。中々社交の場にでてこれず、お恥ずかしい限りですわ」
シオン様にエスコートされて入った夜会会場で真っ先に声をかけてきたのは先程、陛下から聞いたアマリリス・ロータス侯爵令嬢の両親にあたるロータス侯爵夫妻だった
ロータス侯爵の紹介の後、夫人が真っ先に私に声をかけてきたことで少なからず私は居心地の悪さを感じた
「今日はとても良き日ですわ。まさか実の娘が王太子殿下の婚約者になれるとは思っておりませんでしたから」
「そ、そうですか…」
扇を仰ぎながら笑顔を浮かべるロータス侯爵夫人の思惑はきっと私の姉を貶しているのだろう
現に口元は笑っているが目元はにこりともしていない
「ロータス侯爵夫人。妻は社交の場は慣れていないのであまり苛めないで頂きたい」
「まあまあ。殿下は随分と過保護なのですね」
「ええ。妻の一挙一動が気になるもので」
「ふふっ 情熱的ね」
それでは後ほどまたゆっくりお話し致しましょう。と言葉を残してロータス侯爵夫妻は私たちの目の前から去っていった
左手にシャンパンを持ち、会場をぐるりと見渡す
「誰が探しているのか?」
「姉を。婚約者に選ばれなかったなら会場にいるのではないかと思ったのですが…」
何百人といる会場から姉を見つけ出すのは難しいと判断しシオン様に視線を向ける
「ブリテン嬢ならきっと後から入ってくるはずだ。なにせ一応は婚約者候補だったし、王妃教育も齧っていたわけだから、王家が責任を持って嫁ぎ先を見つけてくれるはずだからね」
「それならよかったですわ。昔から姉は王太子妃になるために勉学や作法を習っていましたから…私も時たま姉にマナーを教えてもらっていたんです」
10年ほど前の記憶を脳裏に浮かべながら懐かしい記憶に浸る
あの頃は姉だけが、私のもとにやってきて沢山の話を聞かせてくれていた
「それで、君は礼儀作法が綺麗なのか」
「見様見真似でしたが、身につけておいてよかったです」
会場内をゆっくりとシオン様と歩く
大公妃としてはじめての社交の場であったために沢山の貴族達からの挨拶を受けたが、その度にシオン様がフォローしてすれて大きな問題がなく挨拶を終えることができた
会場の熱気に包まれて頭がクラクラし始めた頃、隣にいたシオン様がさりげなくテラスにエスコートしてくれたおかげで少しホッと一息つくことができた
「涼しいですね」
「ここは案外穴場でね。人はあまり来ないからゆっくりすると良い」
連れてこられたテラスは室内からだと死角になっている場所にあり少し姿勢を崩しても咎める人がいない場所となっていた
「…すっかり忘れていました。貴族同士の腹の探り合いを」
「気にすることはない。彼らはただ面白いことに興味があるだけだ」
「ですが…!!」
夜風のおかげでクールダウンした頭は先程の挨拶の中で受けた言葉を何回も反復させていた
『妹が大公に嫁いだから、パワーバランスを考えてアマリリス・ロータスが選ばれたのではないか』
挨拶にやってきたほとんどの貴族が遠回しに言ってきた言葉が頭から離れなかった
確かに冷静になって考えてみれば、大公に嫁いだ妹がいるのに、姉までもが王太子妃になるのは明らかにブリテン家を優遇していると捉えられてもおかしくないからだ
「私はシオン様と結婚したことは後悔していません。むしろ結婚できて良かったと思います。…でも、それならずっと頑張ってきた姉の想いはどうなるのでしょうか」
「元はと言えば、ブリテン嬢が私に嫁ぐはずだったんだ。それを拒否したのは彼女とその両親だ。君に罪はない。」
真っ直ぐといつものように手を握りながら見つめてくるシオン様の瞳からつい目を逸らしてしまう
「私は悪い子です。姉にあんなによくしてもらったのに、姉のためにシオン様と別れるなんてこれっぽっちも思っていないんです」
「それでいい。それがいいんだ。君は十分、ブリテン嬢のために尽くしてきたんだ。」
「シオン様…」
気づけば頬に涙が流れていた
静かに泣く私をそっとシオン様が抱きしめて背中をトントンと叩いてくれた
数分後、会場の中から王族が入場するファンファーレが流れてきた
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