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「はぁ…」


「ため息をつかれてどうされました?」


「いえ、なんでもないわ」


心配してくれてありがとう、と新しく私のメイドとなったサリーに声をかけた
サリーは私がロックフェラー領にやってきてすぐに我が家で雇った15歳の私と同じ亜麻色の髪をもつ女の子だった


ロックフェラー領に1カ月前に戻ってきた私は教育係の頃に過ごしていた生活とは真逆の、貴族令嬢として貞淑な、そして退屈な生活を送っていた


「ねえサリー。私宛に手紙がきてたりしないかしら?」

「お嬢様宛にですか?いえ、そういう話はお伺いしてませんが…」

「わかったわ」


はぁ…とまた大きなため息が溢れる


思い出すのは1カ月前にフィル様に挨拶もしないまま父に連れられて懐かしいこの土地に帰ってきた
ロックフェラー領に帰って来れたことは嬉しいが、アレから一度も王宮、フィル様からの手紙はやって来ない


(「私から送るのは失礼だし…やっぱり、あの噂は本当だったのかしら」)


サリーに心配をかけないように外を眺めながら物思いに耽る


連絡がない現状にヤキモキしていたところに王都からとある噂が流れ出した


『第3王子が、ブルック公爵令嬢と婚約をするのではないか』


最初に聞いた時は息が一瞬できなかった
フィル様との結婚を覚悟していた私にとっては青天の霹靂だったからだ
父と母にはフィル様に求婚されたことはまだ話していない
と、いうのも父が帰ってきて早々に釣書を沢山渡してきたので話すタイミングをなぜか逃してしまったのだ


「揶揄われただけだったのかしら」


ズーンっと気分が落ち込む
存外自分はフィル様からのプロポーズが嬉しかったようだった
だからこそあの噂が流れてきたときに崖に落とされるような感覚だった




ーー




「お父様…私は結婚はまだ」

「何を言っている!お前ももう25歳、伯爵令嬢として復帰したならそれ相応の男を見つけなくてわ!」


頑張るぞー!と何故が必死に意気込むお父様に呆れつつも手元にある釣書をぼんやりと眺める
25歳ではあるものの、王家が直々に冤罪を晴らしてくれ復帰した伯爵家と縁続になりたいと思う貴族は多いようだ
だが、どの青年もみな、10代後半。近くても3つも年下という年齢だ


「ブルック公爵令嬢は評判はあまり良くないがやはり公爵令嬢だからそれなりの人気はあったが…第3王子となれば他の貴族は諦めるしかない。未婚の女性は今少ないからお前も優良物件に躍り出たわけだな」


嬉しそうに話すお父様に苦笑する
25歳にもなって嫁いでいない娘を持つ親の心境は不安でいっぱいなのだろう


お父様は9年間というブランクを取り戻すために最近は領地を管理していた国から派遣されていた文官と打ち合わせをすることが多い
その分、王都に行くことも多々あり、お父様が仕入れてきた第3王子の婚約話は信憑性が高いものだった


なんでも、ブルック公爵令嬢が第3王子の住まう宮に多く出入りしている、と


グッと歯を食いしばり目を閉じた
思い出すのはフィル様と過ごした5年間の記憶



(「私、ちゃんとフィル様のことが好きだったのね」)


自覚すると妙に心が落ち着いていられた
私にプロポーズしてくれたフィル様のあの時の瞳は真剣だった


動こう。彼のためにも、



「待っているだけのシンデレラにはなりたくないわ」


「きゅ、急にどうした?」


「お父様。私、王都にいきます。」



ルフェリ侯爵夫人にお会いしてきます。とにこりと笑った
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