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(「ほんっっっとに遠いわ」)


王子宮から王太子宮までは早歩きで歩いても軽く15分ほど経過してしまうほど遠い道のりだった


国家の政治が執り行われる中央宮と呼ばれる建物がさらにその道を複雑にしていた


(「や、やっと着いたわ…疲れた…」)


スピードを緩めることなく歩き続けて15分
辿り着いたのはフィルナンド殿下が住む王子宮よりも豪奢な作りがされた王太子宮の入り口だ


「お待ちしておりました。王太子殿下は不在のため、妃殿下がお待ちしております」


「かしこまりました。では妃殿下の元までよろしくお願いいたします」


王太子宮の騎士に連れられてたどり着いた先にはサロンで優雅にアフタヌーンティーを嗜んでいる王太子妃、ローズマリー様とその向かいには2年前に第二王子と結婚されたカロリーナ・バルセロ公爵夫人が待っていた


「ローズマリー妃殿下、バルセロ公爵夫人におかれましてはご機嫌麗しく存じます」


「久しぶりねシャーロット。そんなにおそまらないで!私たちの仲でしょう?」


「そうよ!シャーロットに会えるなんてお義姉様のところにきて正解だったわ」


大輪の花が似合う2人に苦笑しつつも「ありがとうございます」と返事をした


ローズマリー様は私と同い年の所謂クラスメイトという間柄だった
もちろん学生時代は大きな絡みはなかったものの、ロールプレイなどの際には意気投合し話をするぐらいには親しい間柄だった


そんな彼女も結婚5年目を迎えてそのお腹はふっくらと膨らんでいた


「シャーロットはもしかしてフィルナンドのお使い?」

「はい。この書類を王太子殿下に届けに参りました」


私はローズマリー様に近づき、手元にあった書類を渡した
書類を受け取った彼女は中身をチラリと確認してそばに仕えていた侍女にその書類を渡した


「リチャードの侍従に渡しておいて」


そう告げてローズマリー様が私に視線を移した


「せっかくだし一緒にお茶はいかが?」


「嬉しいお誘いではありますが…私には勿体ないです」

「もう!シャーロットは本当に謙虚すぎるわ!」


それまでことの成り行きを見守っていたカロリーナ様が声を上げた


「カロリーナ様…私の作法ではお目汚しになってしまいますから」


「…私と一緒に礼儀作法を習ったのだから問題はないはずよ」


ねえ、シャーロット?とニヤリと笑う彼女に、しまったと眉間に皺が寄った


5年前、第3王子の教育係として出仕することになった私はその当時、第二王子との婚約が整ったカロリーナ様と共に王妃様からついでだから、と王族特有の礼儀作法を習った


そのおかげか、伯爵令嬢時代よりも姿勢や仕草に磨きがかかったのは言うまでもない。ありがたいことではあったが


「シャーロット分の椅子を用意して」


「……失礼いたします」


私は観念して大人しく用意された椅子に腰を下ろした
してやったりとニコニコ笑うカロリーナ様はご機嫌だった





ーー




(「やっと抜け出せたわ…」)



あれから1時間


春の祝賀会にフィルナンド殿下と出席することを知っていた2人から怒涛の質問責めをされた


もちろん私の意思ではないことと、特に大きな意味はないことを伝えたが2人はどこか納得していないような表情を浮かべていた



(「殿下にエスコートしてもらうのは前からよくあったことなのに」)


王子宮に向かってとぼとぼと歩く私は心の中でそう呟いた
公式の場ではエスコートされたことはないが、非公式の場では婚約者のいないフィルナンド殿下のパートナーとして何度か夜会には出席したことがあったからだ


(「そのときは既製品のドレスだったのに…どうして今回はオーダーメイドなのかしら?」)


春の祝賀会は公式の場であるが、フィルナンド殿下のお飾り程度だと思っている私はわざわざオーダーメイドで作る必要はないのでは?と疑問を抱いていた


(「でも、オーダーメイドで作れることなんて中々ないし、今回はお世話になっちゃいましょう」)


幸運だったわ、と独り言を言いながら機嫌よく歩く私の目の前に1人の男性が立ちはだかった


「機嫌が良さそだが、何かいいことでもあったのかい?」


「……これはこれはブルック公爵閣下。ご機嫌麗しく存じます」


顔には作った笑顔を作りながら心の中でチッと舌打ちをした
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