8 / 48
8
しおりを挟む(「ほんっっっとに遠いわ」)
王子宮から王太子宮までは早歩きで歩いても軽く15分ほど経過してしまうほど遠い道のりだった
国家の政治が執り行われる中央宮と呼ばれる建物がさらにその道を複雑にしていた
(「や、やっと着いたわ…疲れた…」)
スピードを緩めることなく歩き続けて15分
辿り着いたのはフィルナンド殿下が住む王子宮よりも豪奢な作りがされた王太子宮の入り口だ
「お待ちしておりました。王太子殿下は不在のため、妃殿下がお待ちしております」
「かしこまりました。では妃殿下の元までよろしくお願いいたします」
王太子宮の騎士に連れられてたどり着いた先にはサロンで優雅にアフタヌーンティーを嗜んでいる王太子妃、ローズマリー様とその向かいには2年前に第二王子と結婚されたカロリーナ・バルセロ公爵夫人が待っていた
「ローズマリー妃殿下、バルセロ公爵夫人におかれましてはご機嫌麗しく存じます」
「久しぶりねシャーロット。そんなにおそまらないで!私たちの仲でしょう?」
「そうよ!シャーロットに会えるなんてお義姉様のところにきて正解だったわ」
大輪の花が似合う2人に苦笑しつつも「ありがとうございます」と返事をした
ローズマリー様は私と同い年の所謂クラスメイトという間柄だった
もちろん学生時代は大きな絡みはなかったものの、ロールプレイなどの際には意気投合し話をするぐらいには親しい間柄だった
そんな彼女も結婚5年目を迎えてそのお腹はふっくらと膨らんでいた
「シャーロットはもしかしてフィルナンドのお使い?」
「はい。この書類を王太子殿下に届けに参りました」
私はローズマリー様に近づき、手元にあった書類を渡した
書類を受け取った彼女は中身をチラリと確認してそばに仕えていた侍女にその書類を渡した
「リチャードの侍従に渡しておいて」
そう告げてローズマリー様が私に視線を移した
「せっかくだし一緒にお茶はいかが?」
「嬉しいお誘いではありますが…私には勿体ないです」
「もう!シャーロットは本当に謙虚すぎるわ!」
それまでことの成り行きを見守っていたカロリーナ様が声を上げた
「カロリーナ様…私の作法ではお目汚しになってしまいますから」
「…私と一緒に礼儀作法を習ったのだから問題はないはずよ」
ねえ、シャーロット?とニヤリと笑う彼女に、しまったと眉間に皺が寄った
5年前、第3王子の教育係として出仕することになった私はその当時、第二王子との婚約が整ったカロリーナ様と共に王妃様からついでだから、と王族特有の礼儀作法を習った
そのおかげか、伯爵令嬢時代よりも姿勢や仕草に磨きがかかったのは言うまでもない。ありがたいことではあったが
「シャーロット分の椅子を用意して」
「……失礼いたします」
私は観念して大人しく用意された椅子に腰を下ろした
してやったりとニコニコ笑うカロリーナ様はご機嫌だった
ーー
(「やっと抜け出せたわ…」)
あれから1時間
春の祝賀会にフィルナンド殿下と出席することを知っていた2人から怒涛の質問責めをされた
もちろん私の意思ではないことと、特に大きな意味はないことを伝えたが2人はどこか納得していないような表情を浮かべていた
(「殿下にエスコートしてもらうのは前からよくあったことなのに」)
王子宮に向かってとぼとぼと歩く私は心の中でそう呟いた
公式の場ではエスコートされたことはないが、非公式の場では婚約者のいないフィルナンド殿下のパートナーとして何度か夜会には出席したことがあったからだ
(「そのときは既製品のドレスだったのに…どうして今回はオーダーメイドなのかしら?」)
春の祝賀会は公式の場であるが、フィルナンド殿下のお飾り程度だと思っている私はわざわざオーダーメイドで作る必要はないのでは?と疑問を抱いていた
(「でも、オーダーメイドで作れることなんて中々ないし、今回はお世話になっちゃいましょう」)
幸運だったわ、と独り言を言いながら機嫌よく歩く私の目の前に1人の男性が立ちはだかった
「機嫌が良さそだが、何かいいことでもあったのかい?」
「……これはこれはブルック公爵閣下。ご機嫌麗しく存じます」
顔には作った笑顔を作りながら心の中でチッと舌打ちをした
0
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
【完結】逃げ出した先は異世界!二度目の人生は平凡で愛ある人生を望んでいるのに、平凡では終われない
絆結
恋愛
10歳の時に両親と妹を一度に事故で亡くし、親戚中での押し付け合いの末、叔母夫婦に引き取られた主人公。
暴力、暴言、実子との差別は当たり前。従姉妹からの執拗な嫌がらせの末暴行されそうになり逃げだした先は異世界。
─転写─
それは元の世界の自分の存在を全て消し去り、新たな別の世界の人物として魂を写すこと。
その人の持つ資産の全てを貰い受ける代わりに、別世界に創られた"器"にその魂を転写する。
前の人生の記憶は持ったまま、全く別の身体で生まれ変わる。
資産の多さに応じて、身体的特徴や年齢、性別、転写後の生活基盤を得ることができる。
転写された先は、地球上ではないどこか。
もしかしたら、私たちの知る宇宙の内でもないかもしれない。
ゲームや本の中の世界なのか、はたまた死後の夢なのか、全く分からないけれど、私たちの知るどんな世界に似ているかと言えば、西洋風のお伽話や乙女ゲームの感覚に近いらしい。
国を治める王族が居て、それを守る騎士が居る。
そんな国が幾つもある世界――。
そんな世界で私が望んだものは、冒険でもなく、成り上がり人生でもなく、シンデレラストーリーでもなく『平凡で愛ある人生』。
たった一人でいいから自分を愛してくれる人がいる、そんな人生を今度こそ!
なのに"生きていくため"に身についた力が新たな世界での"平凡"の邪魔をする――。
ずーっと人の顔色を窺って生きてきた。
家族を亡くしてからずーっと。
ずーっと、考えて、顔色を窺ってきた。
でも応えてもらえなかった─。
そしてある時ふと気が付いた。
人の顔を見れば、おおよその考えていそうなことが判る─。
特に、疾しいことを考えている時は、幾ら取り繕っていても判る。
"人を見る目"──。
この目のおかげで信頼できる人に出逢えた。
けれどこの目のせいで──。
この作品は 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】
remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
本宮 のい。新社会人1年目。
永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。
なんだけど。
青井 奏。
高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、
和泉 碧。
初恋の相手らしき人も現れた。
幸せの青い鳥は一体どこに。
【完結】 ありがとうございました‼︎
女嫌いな伯爵令息と下着屋の甘やかな初恋
春浦ディスコ
恋愛
オートクチュールの女性下着専門店で働くサラ・ベルクナーは、日々仕事に精を出していた。
ある日、お得意先のサントロ伯爵家のご令嬢に下着を届けると、弟であるフィリップ・サントロに出会う。聞いていた通りの金髪碧眼の麗しい容姿。女嫌いという話通りに、そっけない態度を取られるが……。
最低な出会いから必死に挽回しようとするフィリップと若い時から働き詰めのサラが少しずつ距離を縮める純愛物語。
フィリップに誘われて、庶民のサラは上流階級の世界に足を踏み入れるーーーー。
ごめん、好きなんだ
木嶋うめ香
恋愛
貧乏男爵の娘キティは、家への融資を条件に父と同じ様な年の魔法使いへと嫁いだ。
私が犠牲になれば弟と妹は幸せになれるし、お母様のお薬も手に入るのよ。
辛い結婚生活を覚悟して嫁いだキティは予想外の厚待遇に驚くのだった。
あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。
※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。
元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。
破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。
だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。
初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――?
「私は彼女の代わりなの――? それとも――」
昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。
※全13話(1話を2〜4分割して投稿)
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる