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しおりを挟む「ロベリア。入るわよ」
「リリスお義姉様?どうしてこちらに…」
「貴女に話したいことがあってきたの」
別邸は本邸の裏にひっそりと建てられた2階建てのこじんまりとした建物だ
エルムが来る前は物置として使われていたがエルムが来た頃、新しく改装されエルムのための屋敷となっている
エルムとロベリアが結婚したら彼らはここに住む予定だと聞いた
正式に侯爵を継ぐ際に本邸に移るらしい
その別邸の扉をノックし、返事を待たずに勢いよく開ける
中には火の入っていない暖炉前でロベリアがチェアに座りながら刺繍をしているところだった
部屋をぐるりと見渡してエルムの姿がないことを確認する
「エルムは?」
「エルム様ならお義母様に呼ばれて本邸の方に…」
「そう。それならちょうどよかった。貴女に話したいことがあって」
私に話ですか?とキョトンとしながら首を傾げるロベリアの顔は男性が庇護欲をそそるであろうほど可愛らしく整っている
「四阿でエルムとキスをしていたわね?」
「えっ…あ、見ていらしたのですね…」
恥ずかしいですわ。と頬を赤らめて恥ずかしがる彼女の態度に何故か苛立ちを感じた
イライラする心を沈めながら言葉を選び、話しかける
「いくら婚約者で4ヶ月後に結婚するとはいえ、婚前交渉はよくないわ。エルムが誘ってきたのかもしれないけど、そこは淑女として断るべき部分よ」
「えーっと、違うんです。その、私も合意の上だったので…」
「合意の上?!尚更タチが悪いわ!淑女たるもの、貞操を守ることは大事なことよ!いくら婚約者相手だろうと、そこはしっかりと区別しなければいけないところよ」
「…ごめんなさい」
私の剣幕にしょんぼりと肩を落とすロベリアの姿を見て少し心がスッとする
(「違うわ!私は攻めたいわけじゃなくて」)
しゃんぼりと肩を落とす彼女にスッとする心と、罵倒しにきたわけではないと注意する理性の間で気持ちが揺れ動く
「……過ぎてしまったことは仕方ないわ。でも、それが当たり前だと思うのは違うわ。私の成婚式まで謹慎しなさい」
「え!謹慎ですか…?」
「成婚式の前に義妹が婚前交渉をするような人だと周りにバレたら迷惑なのよ」
私より頭半分低い彼女は目をうるうるさせながら私に謹慎を撤回して欲しいと訴えかけてきた
だが、私はそれを否と答え彼女を突っぱねた
「リアを謹慎させるなんて、いつから君はそんなに偉くなったんだいアマリリス」
声のした方を振り向いたら扉の前にエルムが立っていた
どこか呆れたような顔をしている彼の不躾な視線に私の眉間に皺が寄る
「偉くなったですって?義姉として義妹の悪い行いを指摘してそれ相応の罰を与えただけよ」
「リアの言う通り僕とリアが男女の仲になったのは合意の上だし、閣下も許可している」
エルムは養い親かつ、侯爵としての上司である母のことを閣下と呼ぶ
こちらに向かってこつりこつりと歩いてくるエルムを私は睨みつける
「1ヶ月後に王太子妃になる時ならいざしれず、君はまだ侯爵令嬢だ。そんな君が閣下の指示を覆せるとでも?」
「私はあくまでも、婚前交渉をした、ということを指摘しているだけよ。次期小侯爵夫人、ゆくゆくは侯爵夫人ともなろう令嬢が身持が軽いなんて知られたら我が家の恥よ」
いつのまにかエルムの後ろに隠れ、しがみついているロベリアに視線を向ける
私からの視線を受けたロベリアはびくりと動いた後エルムの背中に完全に隠れた
「僕とリアは婚約者だ。結婚も目前に控えているし、多少順番が前後するぐらい問題はないだろう」
「大有りよ。王太子妃の義妹は婚前交渉をした。だなんて知られたら私が笑いものよ」
今後の生活に差し支えるわ。と言葉を投げつける
エルムは私から視線を外さずにはぁ、と大きなため息をついた
「あぁ。そうか君は王太子妃候補として育ってきたんだもんな」
「?それは今は関係ないわよ」
「アマリリス。王族に嫁ぐ君はたしかに身持は硬くないといけないはずだ。でも、最近の貴族たちはそこまで婚前交渉に対して厳しくないんだよ」
「??何を言って…」
「恋愛結婚も貴族の中では増えてきている。キスの一つや二つ誰だってするものだし、なんなら婚約者同士で男女の仲になっているカップルなんて大勢いるんだよ」
「なっ…!風紀が乱れてるじゃない!」
「時代の流れだよ。婚約者同士で思いあっているのに結婚まで素肌に触れられないなんてそんな一昔前のことは誰も守ってない」
王族に嫁ぐ君は、例外だけどね。とくすりと笑いながらエルムはどこか私を見下したように笑う
王太子の婚約者に決まってから社交の場での流れや自治問題には特にアンテナを立てて情報を集めてきたつもりだ
そう、つもりだったのだ
「アマリリス。もう少し柔軟に物事を考えてみたらどうだい?君はたしかに優秀だ。でも、自分の物差しで相手を測るのは良くないところだと思うよ」
「私の物差しですって?私は貴族令嬢としての当たり前を言ってるだけよ」
「君の貴族令嬢の当たり前は王妃教育ありきの当たり前だ、みんなそんな教育は受けてないんだよ。もっと周りを見てみたらどうだい」
そうしたら少しは友達もできるんじゃないかな?と呟くエルムの言葉にカッと怒りが沸点までのぼりつめた
「余計なお世話よ!!」
ドレスの裾を翻して別邸のドアを勢いよく開け、外に飛び出す
私をわざと煽るような言い方をしたエルムの顔が嫌と言うほど脳裏にこびりつき私は苛立ちが治らなかった
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