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その4

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階段から転落したマーガレットは幸いにも片足の捻挫だけで済んだ


捻挫と心身的疲労を理由にマーガレットはあの日から今日まで休みをもらっている
一歩も自室から出ることなく過ごしている
事の元凶であるナラードとミアからの音沙汰はない

「お嬢様。ロゼリーヌ侯爵令嬢様がご面会を希望されていますが」
「…通して頂戴」
「良いのですか?」
「ええ。彼女はあの2人と違って切り捨てられない事情があるの」
「かしこまりました。お連れいたします」

ロゼリーヌに会うためドレスに着替えて身支度を整える
ずっと人前では隠してきた前髪はこの前バッサリと切り落とした
もう隠す必要が無くなったからだ

「失礼しますわ…」
「ご機嫌ようロゼリーヌ様。そちらにおすわりになって」
「マーガレット様!?」

入室してきたロゼリーヌは気まずさから椅子に座るまでずっと俯いていたが椅子に座りマーガレットの顔を見て驚愕した

「そのお顔にその瞳…!!」
「ふふ。あんなにお話ししてましたのに私の顔をみるのは初めてでしょう?」

どうかしら?とクスクスと笑いながら首を傾げるマーガレットにロゼリーヌは見惚れていた
神が造ったとしか思えないその美貌から目が離せなかったのだ

「先日のことでしたらロゼリーヌ様が気に病むことはありませんわ。実害を与えてきたのは殿下ですもの」
「っ、それでもその場にいたのは事実ですわ」

マーガレットに話しかけれてハッとしたロゼリーヌは恥ずかしさから視線を逸らしてしまった
今まで自分が馬鹿にしてきた女は自分より何十倍、いや何百倍も美しく洗礼された姿だったという衝撃にロゼリーヌは穴に入りたいほどの羞恥に襲われていた
なぜ、あんなことで嫉妬してマーガレットを馬鹿にしていたのだろう。何度悔やんでも悔やみきれなかった

恥ずかしがるロゼリーヌを尻目にマーガレットは本題を切り出した





何度も伝えているが、ロゼリーヌは侯爵令嬢である
たとえ父親が人妻に横恋慕してる様なクズ野郎でも侯爵という立場は高位貴族なのだ
彼女自身も頭は弱いがその所作は高位貴族たるべく美しいものだ
そして平民とは違い勉学の基礎は少なからずあるはずなのだ 

「ロゼリーヌ様は建国神話をご存じで?」
「え、ええ。そんなの小さい子供だって知ってますわ」

でも所詮は神話でしょう?と答えるロゼリーヌに対してマーガレットはクスリと笑った

「そうですわ。王族だろうが貴族だろうが、平民ですら知ってるお話しですわ」
「私は建国神話は所詮神話だと思いますの。だって竜や白虎なんていないじゃない」

やっと緊張がほぐれたロゼリーヌはいつもの調子を取り戻しつらつらと喋る
彼女のいうことは今現在のアルティマ王国では常識的考えだ
神話はあくまでも神話。人ならざるものなんて存在しない。

「……竜や白虎は強い力を持っていたと言われますわ。人に擬態するなど簡単なことでしょう」
「そうだとしても500年以上前の話でしてよ?」

ロゼリーヌは今やマーガレットを馬鹿にすることはないが、マーガレットが言っていることは理解できなかった
まるで竜や白虎が生きてるかの様に話すマーガレットに違和感を感じていたのだ

「神話を信じるのも信じないのも貴方次第ですわ。……ロゼリーヌ様これを見ていただけるかしら?」
「なにかしら?………こ、これは!」

マーガレットがロゼリーヌに見せたのは最近発明された写真なるものだった
王族でも簡単に手に入らない写真をなぜ公爵令嬢であるマーガレットが持っているのかは不明だ


「よく見て頂戴。これ貴方のお父様とミア様ね。知り合い、にしては随分と親しそうな距離感ですこと」
「なんでお父様とミア様が?!」

マーガレットが見せてきた写真にはポトス侯爵とミアがあろうことから接吻をしている写真だった
父親のそんな姿にロゼリーヌは思考が止まった

「最近ミア様のドレスが妙に豪華だと思い調べてみましたの。…どうやら出資者はあなたのお父様でしたのね」
「……ミア様が着られていたあのドレス。私がつい最近捨てたドレスですわ」
「まあ!!侯爵様ったら娘のお下がりをミア様に差し上げていたのね!」
「以前ミア様が着ていらっしゃったドレスも私が捨てたドレスと似ていましたの。でも似たようなドレスなんてこの世にはごまんとありますでしょう?ただ似ているだけと思っておりましたが…」
「この写真を見て確信したと?」
「ええ。……恥ずかし限りですわ」

顔を真っ赤にし膝の上でギュッと強く手を握るロゼリーヌは父親の行いを恥じた
今まで大事に育ててきてくれた父だ
いくら浮気をしていようが貴族の甲斐性だと思って黙っていたがまさか自分と同い年の女にまで手を出していたとは思いもしなかっただろう

「随分と羽振りが良くなったと思っていたので調べてみましたら、面白いことがあれよあれよと出てきまして私もびっくりしてますの」
「その、、、いえ、なんでもないわ」

コロコロと無邪気に楽しそうに笑うマーガレットをみてロゼリーヌは恐怖に襲われた
目の前にいる女は今まで自分が蔑んできた彼女なのだろうか?
そもそもただの令嬢がなぜこんなことまで調べられるのか。
何か自分が知らないところで恐ろしいことが始まっているのではないかとロゼリーヌは不安になった








「はぁ。よく笑いましたわ。それでロゼリーヌ様にはお願いがありますの。」
「なんですの…?」
「近々この国は変わります。その際きっとあなたのお父様は失脚します。」
「どうしてそんなことを?!」
「これは決定事項です。…ですがあなたに関しては事情が違いますわ」

そう前置きをしてマーガレットはロゼリーヌに対して一つの提案を行った

「ハウンゼン伯爵家の長男はご存知かしら?」
「もちろん。今はイーゴ帝国に留学されているお方でしょ」
「ええ。そのお方が貴方と婚約したいとおっしゃっています」
「婚約?!」

突然の婚約話にあたふたするロゼリーヌは生娘そのものだ
彼女は侯爵令嬢だか未だに婚約者はいない
ポトス侯爵がいつかは第一王子の婚約者であるマーガレットを亡き者にした後その後釜に納めようと画作しているために彼女は18という歳ながら婚約者はいなかった

「私、ソロモン様とはお会いしたことありませんのよ?!」
「貴女はね。ソロモン様は貴女をみた時から貴女に恋焦がれていたそうよ」

ソロモン・ハウンゼン伯爵令息はハウンゼン伯爵家の長男にしてソフィー様の兄だ
今はイーゴ帝国に留学をしているため学園にはいないが長期休みなどには帰ってきている姿をよく見かける


「先月、ポトス侯爵家で夜会を行いましたでしょう?あの際に貴女を見初めてそうですわ」
「あのとき…!!私ったらお友達とお話を楽しんでおりましたから全然気づきませんでしたわ」
「ソロモン様もお話ができなかったと悔やんでおられるましたわ」

マーガレットはテーブルの上に一つのブローチを取り出した
そのブローチは細やかな細工がなされており一目みただけで高価なものだとわかる品であった
そのブローチの中央にはルビーが埋め込まれていた。まるで目の前にいるマーガレットの紅い目と同じ色にロゼリーヌは一瞬たじろいだ

「今の話を聞いてソロモン様と婚約しても良いというのならこのブローチを来月、王城である夜会につけてきてくださいませ。」

良いお返事をお待ちしておりますわ。とマーガレットはにこやかに微笑んだ


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