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8 星になったおっさん

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 きっかけは思い出せない。
 気まぐれだったのか理由があったのかは分からないが、5歳ぐらいの時から私は娘と息子2人を鍛え始めた。

 私の教えに素直に従ってメキメキと強くなって行く2人を見るのは楽しかったし、何より2人も自分から私に教えを請うてくるほど楽しんでいたから、ついつい育成に気合が入りすぎた。


「……そして現在に至る、って感じかな」
「いや『現在に至る』じゃないでしょ! あの子10歳なんでしょ!? どんな鍛え方したんですか!?」
「適度な運動と美味しいご飯だよ」
「それで四天王超えられたら私たち人間の立つ瀬が無いんですけどぉ!?」


 ソルシエルは、私の言葉一つ一つを聞くたびにやたらと興奮しながら騒ぎまくっている。
 まぁ私自身も、いくらあの子たちが勇者の証を持っているとはいえ、この短期間で超えられるのはちょっとプライドが傷ついたけど…。


「でもまぁ、総合力では私の方がまだ上だよ。ルディは物理、ヘルトは魔法。2人のそれぞれの得意分野が私以上ってだけ」
「それでも凄すぎますけどね……エスペランザの強さは王宮ではもはや伝説ですからね。父さ…ザオバラーさんなんか直接戦りあったのが今でもトラウマになってるほどですから」


 え? ザオバラーって今ヘルトに付いて目の前を歩いてるこのおじさんだよね? 私こんな人と戦ったかな……。もしかしたら適当に吹き飛ばした軍勢の中に居たかもしれない。全盛期の私はもっと強かったし、今より簡単にあしらえる相手だっただろうし、忘れちゃったよ。
 ……というか。


「今『父さん』って言わなかった…?」
「あ、気づかれた…はい、ザオバラーは私の義理の父なんです。なんでも赤ん坊の頃に捨てられていたところを拾われたみたいで…」


 なるほど、ヘルトやルディと似たような境遇なんだなこの子は。そう思うとなんだか愛着が湧いてくる気もする。


「ていうかそうなら、あんた今義理の父に殺されかけてるんじゃ……」
「日常茶飯事ですよ。毎回王が私を殺そうとしてくるんですけど、何時間か経ったら王の頭が冷えて許してくれるんです、あはは」
「あははじゃねぇわボケ」


 つまりこいつ、何回も似たようなイタズラを王様にしてるのか……。もうマジで見捨てたろかな。


「着きましたよ、ここです」


 と、そんな話をしている間に目的の場所へ着いた。
 そこは、私が半径50mに渡って障害物を取り除いて作った広場。私が小さい頃から魔法の訓練とかで利用している場所だ。


「森の奥にこんな広い場所が……」
「じゃあ早速始めましょうか、ルールはどうします?」


 ヘルトとザオバラーさんはそれぞれ少し距離を開けて、向かい合うような形になった。


「では、今立ってる場所から一歩でも動いたら負け、ということにしよう」
「動いたら負けですね、分かりました」
「強力な魔法を撃ってケガでもさせてはいかんからな、これを使っておこう」


 ザオバラーさんはそう言うと、懐から何やらキューブ状の小さな物体を取り出して、地面に落とした。
 すると、広場を覆い尽くすほどの、魔力で作られたドームが展開された。


「何あれ?」
「《トレーニングフィールド》ですよ。あの中での戦闘による痛みは全て無効化されるんです」


 つまりガチの戦闘訓練で使う魔法アイテム、みたいな感じかな。あんなのあるんだ。2人の特訓する時に使えるし、今度売られてたら買ってこよ。


「ではやりましょうか、そちらからどうぞ」
「ならば遠慮なく行かせて貰う」


 そう言うとザオバラーさんは空間から杖を取り出し、それをヘルトに向けて突き出した。


「ゆくぞ、『アタラクシア』」
『了解だマスター』


 えっ!? 今あの人の杖喋らなかった!? なんで!?


「ああ、知らないんですか? 『精霊杖』ですよ。杖の中に精霊が宿ってるんです」
「うそ!! 何それ欲しい! どこに売ってるの!?」
「第三席次以上の王宮魔術師に陛下から直々に賜るものなので…」
「なんだ……」


 ガッカリだ。ああいうの大好きな人間だから正直めちゃくちゃ羨ましい。
 というか声にこそ出してないが、多分ヘルトもめちゃくちゃ羨ましがっているだろう。だって今、すごく目がキラキラしてる。
 ヘルトの杖は普通のだからなぁ。売ってたなら買ってあげたいんだけど。


「すまないがこちらも時間が惜しい、一撃で終わらせるぞ、喰らえッ!!」
『《カタストロフ・レイ》』


 ザオバラーさんの杖が魔法の名を発すると、杖に神々しい光が収束し、一気に解き放たれた。


「と、父さん大人気ない! あんな子供に第九階位を使うなんて……!」


 カタストロフ・レイは第一~九階位まで存在する魔法の中で、第九階位に位置する魔法だ。つまり最高クラスの魔法。覚えるには、天賦の才を持つ魔術師が数十年の時間をかけなければならないと聞く。おまけに莫大な魔力を必要とし、どんな偉大な魔術師でも撃つのは1日一発が限度とか。


「《カタストロフ・レイ》」


 まぁウチの息子も使えるんですけど。
 ヘルトの放ったカタストロフ・レイは、ザオバラーさんの放ったそれよりも遥かに強力で、あっという間にザオバラーさんのものを飲み込んでしまった。


「なァッ!? ――ヌォォオオオオオオッッッッッ!?!?!? なァ、んだ、この威力はぁぁぁぁぁぁァァッッッ!?」


 ザオバラーさんはそれを両手を使って受け止め、何とか凌ごうとする。
 その威力は周囲に凄まじい爆風を巻き起こすほどのもので、耐えるのは時間の問題だと思われる。


「クソッ、こんなところで……終わるとは……ッ!?」
「ザオさん!!」


 もうダメか、と思われたその時。
 ザオバラーさんの後方に控えていた魔術師数人がザオバラーさんの背中を支え、勢いを止めようとする。


「お、お前たちッ!?」
「俺たちで止めてやりましょう……! あんな子供にやられたんじゃあ情けないっすからね!」
「共に戦いましょうッ!! 『不動』のザオバラーが倒れちゃいけません!!」
『我も耐えてみせる。共に勝つぞ!! マスターッ!!』
「お、お前たち……!!」


 なんか熱い戦いに見せかけてるけど、普通にルール違反である。


「あっはっはっはァァァ!!! いいぞ、もっと僕を楽しませろぉぉぉ!!!」
「な、なんかヘルトくんキャラ変わってないですか…?」
「こういう状況好きだからあの子」


 一方、ヘルトはすごく楽しそうだ。
 こういう状況になると口調が変わるのは、昔の私も同じだった。血こそ引いてないけど、やっぱり親子って似るもんだと思う。
 ていうかこれじゃ、どっちが悪役なのかわからないけど。


「「「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」


 漢共の気合の入ったシャウトが木々を揺さぶり、空を震わす。
 そしてついに、ヘルトの放った魔法を空中へ弾き飛ばし、耐えきったのだった。


「や、やった………」
「俺たち……耐えきったんだ…!」
「はは……やった、やったぞ……」


 なんか強大な化け物と一戦交えて勝利した、みたいな雰囲気になってるけど、普通に反則負けである。
 

「さぁ、反撃開始と……」
「《カタストロフ・レイ》」
「「「「「えっ?」」」」」


 意気込んだ直後、ヘルトの杖から再び、無慈悲にも大威力の魔法が放たれる。
 さっきの一撃でかなり消耗した魔術師たちに、それを防げるはずもなく……。


「「「「「うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」」」


 凄まじい土煙と爆発音を巻き起こしながら吹っ飛んで行ってしまった。


「…いや~ありゃ無理っすね~」
「勝てない勝てない、第一席次と同じくらい強いんじゃないっすか?」
「まだ子供なのにすごいっすね~」
「お前ら何を呑気にッッ!? おのれぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 空にぶっ飛んでいきつつそんな会話をながら、魔術師たちは全員、キラーンという音とともに夜空の星になった。


「……………………」
「ウチの息子、すごいでしょ?」


 私の質問に答える事なく、そこから10分ほど、ソルシエルは口をあんぐり開けてポカーンとしていた。
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