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5 娘と息子と私

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「わざわざ迎えに来てくれるなんて良い子過ぎてママ泣いちゃう~~~~~!!!!!」
「ママ落ち着いて、そこの見知らぬお姉さんが見てるよ」


 おっと、いけない堪能しすぎた。
 ルディに抱きついて撫でくり回すのはやめずにソルシエルを見てみると、案の定口を開けてポカンとしていた。


「そ、その子今……ドラゴンを一撃で……? 王国の上位魔術師でさえ討ち取るには3人は要るというのに……」
「すっごいでしょ~~~~~!?!? この子ウチの娘なの~~~~!!!!」
「む、娘ぇ!? とても経産婦には見えませんが……」


 ああ、また言われた……。
 私の見た目は結構幼めな方なので、子供がいると言っても中々信じてもらえないことが多い。
 歳を取れば少しは老けるものかと思ってたけど、全くそんなことはなかった。今でも解せない。


「お姉さんこんばんは、私は正真正銘ママの娘ですよ。ルディっていいます、よろしく」
「こ、こんばんは、ソルシエルといいます……凄いですね、そんなに小さいのにドラゴンを倒しちゃうなんて」
「そうでしょ? おまけに今世紀最高の極上美少女なんだから自分で自分が恐ろしいです」
「えっ?」


 出た、ルディの自画自賛が。
 私に似たのかもしれないが、隙あらば己を褒め散らかすのがこの子の特徴だ。まぁ事実しか述べてないから問題は無いんだけど。


「ところでママ、ソルシエルさんはどうしたの? お客さん?」
「いや、なんか怪我したみたいだから引っ張ってきたの。ひとまず連れて帰ろうと思って」
「そ、そうでした! 私今、厄介なやつらに追われてて……!」
「厄介なやつら?」
「詳しくは家に帰ってから聞こう、その方が落ち着けるよ」

 
 ルディは冷静に私を引き剥がして、ソルシエルさんのもとへ近寄って手を伸ばした。



「さぁお手をどうぞ、こんな小童の手では頼りないかもしれませんが」
「い、いえそんな……ありがとうございます」
「ふふ、繋いだからには傷一つ負わせませんのでどうぞ安心していてください」
「やだ、この小童イケメン…」



 まーたキザなこと言ってる…。
 ここは誰に似たのか全く心当たりがない。おそらく雑誌とかその類で見たのだろうが、プレイガール過ぎるとお母さん心配になるから少し抑えてほしい。


「では行きましょうか、ここから少し歩けば私たちの家に着きますので」
「こ、こんなところに家があるんですか? この辺りはモンスターも強いと聞きますけど……」
「まぁ取るに足りませんよ」
「……えっと、この子何歳ですか?」
「まだ10歳なのその子」
「うっそぉ……」


 変に気取っているから、余計年齢が分かりづらいかもしれないなぁ。
 なんやかんやありながら、私たちはソルシエルを引き連れて我が家に帰るのだった。







「着きましたよ」
「……『カフェ・エスペランザ』……?」


 私の家に立て掛けられている看板に書いてあるその名を、ソルシエルが不思議そうに読み上げた。
 このカフェは、息子の要望で私の家を少し改造して出来たものだ。


「こんな森の奥にカフェって……それにエスペランザって……」
「さぁ入りますよ、一名様ご来てーん」
「わ、わわっ」

 
 ルディが急かすようにソルシエルの背中を押して、カフェの中へと押し込んだ。


「ヘルくん、ただいまー」
「やっと帰ってきた、随分おそ……ひゃぁっ!?」
「たっだいまぁぁぁぁぁヘルトォォォォォォォォォォ!!!! 寂しくなかったぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 家に帰るなり息子の『ヘルト』がお出迎えしてくれたので、脇目も振らずに抱きついて、ルディと同じように撫でくり回した。


「お、お母さん、毎度言ってるけどさっきまでドリ姉が居てくれたから……」
「あっ、ドリムもう帰っちゃったの? 私が帰るまで居てくれればよかったのに……」


 私は週に一度か二度、今日のように人間街に行ってモンスターを狩っている。
 その間この子たちが寂しくないように、ドリムに世話を頼んでいるのだ。


「……というかルディ、今お客さんって……」
「そうだよー、私お風呂入ってくるから相手したげてー」
「は、初めまして、ソルシエルと言います……」


 ソルシエルがぺこりと頭を下げると、ヘルトはぱぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!! と音がしそうなほどの10分咲の笑顔を咲かせた。
 毎度思うけど、この子のこの顔は世界一可愛いと思う。


「よ、よ、ようこそいらっしゃいましたぁ!! ようこそ『エスペランザ』へ! うわぁ久しぶりのお客さんだぁ!! さ、さ、どうぞこちらへ座って!!」
「え、ちょ、うわ」
「あ、今コーヒー用意しますね! 張り切っちゃうなぁ! えーと豆取ってこないと豆ェ!!」


 歓喜するヘルトに押されるまま、ソルシエルはカウンターの席に座らせられた。
 あそこまではしゃいでいるヘルトは中々見れない。眼福すぎる。ソルシエルを連れてきて本当に良かった。


「ごめんね、ウチの息子が」
「い、いえ、喜んでくれたようで……それにいいですね、内装の雰囲気」
「でっそ~~~~~!?!? ウチの息子天才の極みでしょ~~~!?!?」
「あはは…」


 顔を近づけると、やや引き気味に苦笑された。
 いけない、興奮しすぎた。よくドリムにも『抑えなさいボケカスコラ』と窘められるから気をつけないと。でもあいつの場合は言い過ぎだと思う。


「でも、カフェの名前はちょっとあれですね、不吉ですね……」
「不吉?」
「い、いえ! 偶然なら本当申し訳ないんですけど、昔の魔王軍四天王と同じ名前だったので……」
「ああ、多分それ私だよ」




「………えっ?」




 ピシリ、とソルシエルの顔が固まった。
 そういえばまだ名乗って無かったっけ、名乗る途中であのドラゴンが出てきたんだった。


「私はエスペランザっていうの、多分貴女が想像してるその四天王と同一人物」
「……………ジョーク、ですよね? エスペランザっていえば、手のひらを煽ぐだけで5万の人間を吹き飛ばし、無詠唱であらゆる魔法を際限なくぶっ放して、仕上げにはデコピンで最大階位魔法を消滅させる怪物中の怪物ですよ?」


 懐かしいなぁ、確かそんなこともあった気がする。
 若かったとはいえ、やり過ぎた感はあるけども。


「その異次元で無茶苦茶な強さから、国王直属の近衛隊から『小学生の落書き』と呼ばれたあのエスペランザですよ?」
「待ってそれ初耳」
 

 そんな不名誉なあだ名付けられてたのか……。なんで誰も《鮮血の女帝ブラッディ・エンプレス》って呼んでくれないんだろう。


「……あの、もう一度聞きますね」
「うん」
「ジョーク、ですよね?」
「違いまーす」
「……私、どうなるんですか……?」
「どうなると思う?」
「…………………」
「……もしもーし」

 
 目の前で手を振って見ても、反応が無い。これは……。


「………気絶、してる…」


 面白がって脅かし過ぎた。反省。
 コーヒーを張り切って用意してるヘルトには悪いけど、寝室に連れて行くしかないか……。
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