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最終章 我が祖国よ永遠に……

第3話 帝国騎士隊の進軍ー2ー

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ゾーン国 首都アクアリディア 北西部

 ノーザンランド帝国戦闘部隊はゾーン国へ進軍する。戦争の始まりを恐れた民達は家の戸をしっかり閉め、誰一人歩く姿もなく、ひっそり静まりかえっていた。そのおかげか戦闘もなく首都アクアリディアへと難なく進むことが出来たのだ。

「さすがに南国だな、湿気が多い。雲も厚い…雨が降らないだけ良しとするか」
ハルクは北の地ノーザンランドの違いに驚いていた。

「しかし、静かすぎる」
ビルが前方に見えてきたアクアリディア神殿を見ながら呟くとクリストファーを静かに頷いた。


 前方部隊も都の不気味な雰囲気を感じていた。

「ヒィ~ッッ」
二度目の戦になる5番隊のピーターがブルブル身震いをする。

「先輩大丈夫ですか?」

「あっ、うん。なんだかいつもと違って何か変な気配がするんだ」

ピーターの後輩がニヤリと笑う。
「ビビってるですね。大丈夫ですよ、敵は俺達を恐れて逃げたんですよ」

「そこのガキ!緊張感を持て!ピーターの言う通りだ!」

 二人の横にハイベルク騎士団のロバートが立つと正面からゾーンの傭兵達の姿が見えてきた。

 5番隊隊長のラモント・ユーリアムも傭兵の存在を確認すると隊全体的にに合図を送る。
「剣を抜け!弓も準備しろ!」


「ピーター、結構な数だ」
「そうだね、ロバート…」
「ピーター、死ぬなよ」
「ロバートもね」
騎士学校時代の同級生である二人は目を合わせ頷く合うと鞘から剣を抜き構える。

 前方騎士隊達の戦闘準備の音が後方にも聞こえる。

「来たか…」
クリストファーは精霊のヴェスタに合図を送ると無言で前方に馬を走らせた。

「クリス!!!ハルクさん、陛下をよろしくお願いします。我々は後方の守りに入ります」
ビルも後方部隊に戦闘準備に入るように合図を送る。


 民家の影から無数の敵が戦闘部隊に向けて、弓矢の構えていた。一人の男が子供を引き摺りながら前に出た。
「助けてーーー!!」
男が痩せ細った子供の首に剣を当てている。

「おまえ達!!リヴァリオンの子供がどうなってもいいのか?殺すぞ!!」


前方にクリストファーと共に前に出たハルクが叫ぶ。
「うわぁ、予想通りの展開だ…リーラを連れてこなくて良かったわい」

クリストファーは子供を気にすることなく剣を上げ、叫ぶ。
「打て!!全隊、進めーッ!!」

オーッと騎士隊達は前に進む。

男は「クソッ、使えねぇ」と唾を吐き捨て、子供を向かってくる大軍の投げ捨てるが、横から飛び出してきた狼が子供も口で掴むと建物の上へと避難させる。

「ギャアー!!」
男は狼に気を捉われていると一瞬でクリストファーに切り捨てられ、大軍の波に飲まれていった。

 ヴェスタはその光景を見下ろし、ガルルと呻る。

 ヴェスタは「我は人殺しの手伝いはしない、水の精霊が力を使い危害を加える時だけ助けてやる」とクリストファーに伝えていた。

『愛し子の願いがなければこの場にもいたくないわ』

 戦闘部隊とゾーンの傭兵達が斬り合う姿をヴェスタは呆れながら見下ろしていた。
 ヴェスタは神殿を見ると、無数の水の精霊の力を感じる。

『アクアベル…
 自らの分身をこの地に置いて行ったか…
 早めにクリストファーの元に戻った方がいいわね』
ヴェスタは子供を口に咥えると第3救護部隊の陣へと急いだ。

 アクアリディアの街は一気に戦場へと化していた。ノーザンランド帝国戦闘部隊は怯むことなく、戦闘慣れもありゾーンの傭兵達を一気に切り捨てていた。

「陛下、先に行かないでください!!」
ハルクが叫ぶのも無視してクリストファーはドンドン前に進む。

「何の為の前方部隊なんだ、陛下を援護して
前に進めー!!」
ユーリアムが隊員に叫ぶと戦闘慣れしている騎士達はすぐに隊列を変え、皇帝を守るように進む。

 しかし、戦闘慣れしていない騎士達は既に遅れを生じさせていた。特に若い騎士隊は傭兵達にとって真っ先に殺傷標的になるのだ。

「ひぃーッ!!」
ガキン!
傭兵の剣をなんとか受け止めるピーター。しかし、横から次々に敵が現れる。

ガキンッ!
ガキンッ!
「ウッッ!ウッグッッ!」
ピーターの傭兵の剣をギリギリッと必死で受けるが、体格も大きな男の力に押されていく。

「ギャァッ!!」
余裕の素振りを見せていた後輩が傭兵に切り捨てられ倒れていく。

「クソッッ!死にたくないッ!!」
ピーターは剣を押し返し、剣を振り上げるが打ち返す瞬間、別の傭兵に足を斬られる。

「アッーーッッ!!!」
「死ねーーッ!」
足を斬られ倒れ込んだピーターに留めを刺そうとした瞬間、既の所でハイベルク騎士団にに助けられる。

グサッ!!

傭兵は静かに倒れていく。

「大丈夫ですか?」
「助かりました、ありがとう…ウッッ」
ピーターは斬られ足を抑えるとハイベルク騎士団の隊員は手持ちの袋から包帯を出す。

「簡単な止血しか出来ませんが堪えてください。必ず後方の6番隊に見てもらってください」
と素早く傷口に包帯を巻き上げた。

「すごいですね!」
テキパキとした応急処置にピーターは驚くと、騎士団の男は照れながら、
「いや、応急処置は出来るようにしろと上の方が仰ったのです」
ロバートの方を見たのだ。

ポツ
ポツ

空を見上げると雨が降り出した。

「敵を討ち取りましょう!では!」

「ありがとうございました!嫌な雨だな…」
ピーターが空を眺め、不安に覚えながら、侵攻する隊と神殿へ向かう。いつしか雨は止んでいた、そして不思議なことに敵の姿が消えていたのだ。

「なんだ…変な匂いがする」
ピーターはすぐに吸い込まないようにハンカチで口を押さえた。人を惑わす香の攻撃があるかもしれないと匂いを感じれば吸わないように訓練していたのだ。
「訓練と嗅いだ匂いじゃない…」

先程、手当を施してくれたハイベルク騎士団の騎士が目の前で倒れる。ピーターは駆け寄り男を揺する。
「おい!大丈夫か!寝るな!起きてよォーー!!」

ピーターの叫び声と共に仲間達が一人、一人と倒れて行った。
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