上 下
205 / 240
第12章 残酷な定められた天命

第8話 最後の誓い (リーラ目線)

しおりを挟む
(残酷な場面があります。苦手な方はお控え下さい)


「イヤァーーーーッ」
かつて身体が感じた消滅の痛みを思い出し、恐怖で夢から覚める。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」

窓の外を見るとまだ暗い。

『大丈夫か?』
「大丈夫ピヨ?」
「ガルルル」

叫び声で精霊達を起こしてしまったようだ。

「大丈夫、怖い夢を見てしまったみたい。気晴らしに外の空気を吸ってくる。エクストリア、一緒に来て」

『あぁ』

 私はエクストリアを鞘に納めると愛馬に乗り、皇宮を飛び出した。まだ、陽が登る前、街には人はおらず、帝都を一気に走り抜ける。

パカッ
パカッ
パカッ




 私はリーリラ姫の記憶も思い返す。リヴァリオン国に危機が訪れ、山を越えた他国にラクラインが伝承した力が知られてしまったのだ。神は国を守る為にラクラインの魂をリーリラ姫に継承させた。
 しかし、戦いを好まない彼女には大きな力は負担となり馴染ませることが出来なかったようだ。神はリーリラ姫の力を発揮させる為に試練を与えた。クリストファーの祖先である狼族の血筋を持つ男を国に送り、姉であるリンダ姫を襲わせ、戦う力を覚醒させようとしたのだ。 
 しかし、リーリラ姫はラクライン王とは違い、平和を愛する人だった。人を殺めず、他国から国を救う為に精霊王との契約の破棄、国を守り続けてきた神の守護力を破壊し、力を隠蔽したのだ。
 彼女は戦う道ではなく、愛する人と静かに生きる道を選択したのだ。彼女の選択は間違ってないし、私は羨ましく感じる。
 私もリーリラ姫のようにリヴァリオン国 などほっておいてクリストファーと生きる道を選んでもいいだろうか……

 いや、無理だろう…
 リーリラ姫も結局は敵から持ち込まれた疫病から自身の子と民を守る為に神力を使っているのだ…



パカッ 
パカッ
パカッ

私はクリストファーの言葉を思い出す。

『大丈夫。リーラは人を惹き寄せ力がある。きっと上手くいく』

 あの時、人を惹き寄せる力と聞き、どうして胸が痛んだのか…

ーー惹き寄せる力…
  それは精霊王から継承された
  光の力のせい…
  私は生まれた時から魂に亀裂があり、
  光の力は勝手に漏れていた
  私の傍にいた人々は
  私に対して好意的、つまり…
  ただ、力に癒され、
  魅了されていただけで
  私の人徳でないことに気づいたのだ


 南の方角の景色が見える草原まで走り、馬を木に括り付け、サウストップ山を見つめる。山の向こうから無数の水の精霊達、そして古の精霊アクアベル、ラクラインの弟リディアムを感じる…

 私の魂が完全に復活し、かつての契約者達ラクライン、リーリラ姫の記憶を共有したことで私は神から課せられた使命を悟った。この時代まで生き残り、人々を苦しめている、リディアムを倒し、神が愛した地をリヴァリオンを取り戻すことが使命だろう。

ーー神力を使うことなく使命を果たす?
  無理よね……
  きっと…
 
 ポタッ
 ポタッ
 瞳から一筋の涙が流れる。

ーーなぜ、なぜ、私なの?
  王女ではなく、
  神から使命を与えられることなく、
  戦いなど知らず
  普通に生きたかった

  普通に恋をして、
  普通に家族を作って
  普通に幸せになりたかった…
 


『リーラ、囲まれたぞ』 
エクストリアが念話を送る。

「あぁ、わかっている」

 涙を拭い、鞘に触れながら構えている男達を気配を感じる。 

 馬鹿な人達…
 今の私には誰も勝てない…
 万能の力を得た私には…

 振り返り、剣を抜き男達を見る。

「気づかれた」
「所詮女だ!殺せ!」
「死ねーー!」

「愚かな…地よ力を貸せ」

 男達の足元の穴を開けると、男達は足を取られ躓き転ぶ。
「うわっ!」

「うおーっ!」
一人の男は体勢を整えて襲いかかる。

「風よ腕ごと斬り落とせ」

シュン!!
と風が起こり剣持つ腕ごと切り落とす。
「ギャアー!!」

周りの男達が顔色を変え、後退りして逃げようとする。

「逃がさない」
風を起こし身体を浮かせ飛び上がると男を頭上からバッサリと斬る。

「あと4人…」
逃げれないと思った男の1人は剣を振り上げ、向かってきた。

「うおーっ!」

グサッ

「遅いよ、おじさん」
剣は既に男を貫いていた。剣を抜くと血を払う。

「やっぱり黒獅子だ…」
「帝国の剣に勝てるわけない」
「無理だ…」
男達が後退り始める。

「火よ」
男達が逃げれないように火で囲む。

「ギャアー!火が!」
「逃げれない!化け物だ!」

グサッ!
腰を抜かしガクガクと震える男を刺す。

「騎士のくせに情けない」
残る二人の男を睨みつけてやる。

「申し訳ありません!!私達はコールディア様の命を受けたのです。命だけは!命だけは許してくださいませー」
必死になって頭を地につける男に苛立ちを覚える。

「自分から喧嘩売ってきたんでしょ、責任持たないと」

「ヒィーっ!!」
一歩前に進むと男は後ろに後退りすると炎の中で燃え尽きてゆく。

「ヒィーー!た、た、助けてください」
最後に残った男は涙を流しながら必死に懇願している。

「お前の主に伝えなさい。私にはやらければならないことがあるの、あなた達には殺されるわけにはいかない」

「水よ、火を消せ」
唱えると炎は消えていく。

「うわぁーー!」
男は火が消えると一目散に逃げて行く。

『リーラ、力を使いこなせるのか…』
エクストリアは驚いているようだ。

「えぇ、魂が修復されて、ラクラインやリーリラの記憶からだいたいはわかったから」

『記憶…もしかして契約についても知っているのか…』

「生命の契約?」

『知っているのか…覚悟はできてるのか』

「覚悟も何も私はその為にからこの世に送り出れたのだから…」


『神……………私はあなたのもの、あなたのための剣、あなたの願いを叶えるために我が力のすべてをあなたに捧げる』

「………エクストリアよ。おまえはただの剣だ。アクアベルを必ずや葬れ」

『あなたの願うままに……』



 覚悟を決めた神の子と古の精霊の最後の誓いとなったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

【完結】夫は王太子妃の愛人

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。 しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。 これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。 案の定、初夜すら屋敷に戻らず、 3ヶ月以上も放置されーー。 そんな時に、驚きの手紙が届いた。 ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。 ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...