上 下
139 / 240
第8章 孤立した皇太后の故郷 ウィターニア編

第11話 エリザベスの長い1日

しおりを挟む
ウィターニア 領都ルーヤ

リーラ達と分かれたエリザベス達はウィターニア領都ルーヤに入る。北西部のウィターニア領は旧ウィターニア国があった場所だ。領地争いのために長年ノーザンランド帝国と争い、ウィターニア国は敗北し帝国の領地下に入ったのだ。現在は皇太后シャーロットの弟ショーンがウィターニアを治めている。長年皇太后ショーロットも捕虜としてウィターニアを出てから戻っておらず、戦争以外で皇族がウィターニアを訪れたのは今回で初めてなのだ。
 道にはエリザベスを一目見ようとたくさんの人達が道端に立っていた。
「皇女様ー!」
「殿下が助けに来て下さった!」
民から歓声が沸き起こっていた。

馬車の中のエリザベスは溜息をつくと、
「信じられないわ。全く緊張感がないわね」
呆れ顔になっていた。

「殿下、無下には出来ませんわ」
王女の従者がそういうと馬車のカーテンを開きエリザベスは仕方なしに民達に手を振り始めた。エリザベスの姿を見た民達は一気に歓声を上げた。

「すぐに叔父様に言って外出禁止令を敷かなくては」

「アマーノ先生がこの風景をみたら馬車の上に乗って杖を振り回して家に入れと怒鳴っていますよ」
同乗した医師達も笑いを堪えながら全くだと頷いた。

 こうして馬車は石造りのウィターニア城へと入って行った。最後まで帝国との戦いを続けた城は取り壊されることなくウィターニアのシンボルとして使用されている。
ウィターニアの騎士達がずらりと並ぶ中に馬車が進む。騎士が馬車の扉が開くとエリザベスの姿を見ようと叔父であるショーン・ウィターニア侯爵がいち早くやって来た。

「ベス!久しいねぇ。さぁ、疲れただろう。部屋は用意してあるからゆっくりお休み」

「休む??叔父様!挨拶はよろしくてよ!今すぐ対策会議を開くわ!重臣達を集めてちょうだい!」

「会議?」

「信じられないわ。叔父様、危機感がありませんの?疫病が流行るかもしれませんのよ?」

「うっ…」
痛い所を突かれ黙り込んだ侯爵に助けるように横に控えいた水色の髪の騎士が前にでるとエリザベスに礼を取る。

「殿下、お久しぶりでございます」

「ベンジャミンお兄様、久しぶりですわ」

「今すぐ対策会議の準備を。あと、現状報告を聞かせて下さい」

「かしこまりました。では、こちらに」

「えぇ。叔父様!ぼっとしてないで行きますわよ!」

「は、はい!」

エリザベスはショーンの腕を掴むと城の中へ入って行く。ある一室に案内されたエリザベス達は椅子に腰掛けるとすぐさまショーンを叱りつけた。

「早馬の伝令を聞きました?なぜ、民が外に出ているのです!」

「いやぁ、一応告知はしたんだよ。ベスが来てくれるから皆、安心してるだよ」

「信じられないわ…。叔父様、病は見えないのよ。一瞬で人の命を奪うことがあるのよ」

「わかってるよ」

「いえ、わかっていませんわ。今からこの場所を対策部としますわ。ベンジャミン兄様は直ちに騎士達に民の外出禁止令を敷いて下さい。もちろん領都にも入領は禁止です。他の町村も同様です」

「かしこまりました」
ベンジャミンは直ちに遂行すべく部屋から退出した。

「領内の医療担当者は?」

「私でございます」
貴族らしい男がオロオロしながら前に歩み寄った。

「状況を聞かせてちょうだい」

「は、はい。メルバンという北西部にある村
から腹痛の症状の者が多くいる為に薬の要請が領都に来ていました。その後改善されているかはまた報告が上がって来ていません。その後周辺の町村から腹痛を伴う症状があると報告が上がっています。我が領都のルーナではそのような症状は上がっておりません」

「そう…。時間の問題かもしれないわ」

「えっ??」

「このテーブルに領内の地図を用意し、腹痛発生箇所に印をしてください。今からルーヤの医療院へ向かい、現状把握と帝都から持参した薬剤を補充に向かうわ、案内してください」

「は、はい。わかりました」

「叔父様、領内で下水が行き届いていない町村はありますよね」

「あぁ」

「私が戻る間に調べておいて下さい」

「わ、わかった。ベス、今から出かけるのかい?」
ショーンが心配そうに尋ねると、
「当然ですわ」
戻るまでにしっかりと対策本部を機能させておくように重々、言い包めるとエリザベスは城を後にした。

 街の中心部にあるルーヤの医療院へ薬剤補充と現状確認に向かうと簡素な造りの建物の前に馬車は止められた。帝都の医療院と異なり小規模な建物に驚きながらエリザベスは老年の医療院長と挨拶を交わす。

「皇女様、このようなむさ苦しい場所に足を運んで頂き至極恐悦で御座います」

「いえ、先生、どうか頭を上げてくださいませ。アマーノから薬を預かってきました」

「アマーノ…懐かしいのぅ、元気に過ごしておりますか?」

「はい。毎日、弟子達を叱咤されていますわ」

「あははは、目に浮かびますわ。皇女様もアマーノに師事されたと聞きました。今回の疫病はどのようにお考えか?」

「腹痛…、恐らく菌による空気感染ではなく、何かしら菌が口から体内入ったのでと先生は考えていらっしゃいました。現在、帝国騎士隊の救護隊が調査の為に村に派遣され明日、明後日あたりには報告が来るかと思われます」

「これはまた、対応が早い。さすが陛下ですな。お若いのに20年前の教訓が生かされていますな」

「帝都から医師を何人か連れて参りました。医療院のお手伝いをさせて頂きますわ」

「有り難いですな」

「あと…」

「どうされました?」

「念の為に診療できる場所を拡張させた方がよいと考えています」

「確かに…もし、この疫病が拡散されればこの小規模の医療院では抱えきれないでしょうな」
と院長はうむと考え始めた。
「城に戻り仮の診療所を設置するように取り計らいますわ」

「その方が良いかもしれませんな。皇女様、誠にありがとうございます。では、仮施設が出ましたら医療院の人間を二手に分けるよう手配しましょう」

エリザベスは城に戻りショーンに仮施設を提案すると領都郊外に適した建物があり、街から離れた場所の方が良いと判断し早速、仮診療所の設置に急いだのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】夫は王太子妃の愛人

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。 しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。 これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。 案の定、初夜すら屋敷に戻らず、 3ヶ月以上も放置されーー。 そんな時に、驚きの手紙が届いた。 ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。 ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...