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第8章 孤立した皇太后の故郷 ウィターニア編

第4話 ルマンドとの休日

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週末の朝、約束通りにリーラを迎えに来たルマンドはダリルと挨拶を交わした。
「ダリル隊長、お嬢さんをお借りします。帰りは遅くならないよいにしますのでご安心を…」

「フォールド領主代理、お久しぶりです。くれぐれもご自身の品格を落とさないような行動をお願いします」
ダリルは二人で出掛けるなんて許したくなかったがフォールド公爵の息子だと思うと無下にも出来ず渋々承諾したのだ。必死に耐えているダリルの気持ちを察し肩に止まっていたぺぺがルマンドに話かけてきた。

「おまえがルマンドピヨ?ダリル、ここは僕に任せろピヨ、子分を呼んでくるピヨ」
とぺぺは空高く飛び立ち街の方へ向かって行った。

「可愛いねぇ、リーラ、鳥を飼ってるんだ。すごく上手に喋るね」

「あ、うん」
鳥でもあり精霊でもある事実をルマンドに説明すると執拗に質問されたり長くなるからルマンドには言わない方が無難だ。

「じゃあ、行こうか?」
とルマンドは優しくリーラの手を握り歩き出した。ルマンドの手の温もりを感じリーラは少し恥ずかしくなり顔を赤くする。

「でも、残念だな…せっかくのデートなんだから可愛いドレス姿を見たかったな」
今日のリーラの装いはボタンシャツにズボン、腰にはエクストリアを帯剣している。対してルマンドは形式張ってはいないが背広に首元はタイはしていない装いだ。

「ド、ドレス??着ない、着ない!一応休みでも副隊長以上は帯剣して出動要請があれば行かないといけないし…」

「そっか…夕食はレストランを予約してるんだけど…ドレスは後で購入するか…」
と一人でぶつぶつと話している。

「ねぇ!収穫祭行こうよ!」

「久しぶりだね、行こう」
と握った手を強めに握りしめるとルマンドはリーラににこりと笑いかけた。

 二人は街へと繰り出した。ピエール広場に行くと秋の収穫祭を楽しむ人々とたくさんの露店のお店から活気のある声が聞こえてくる。
「思い出すよ、みんなで来たことを」

「二年前かな?肉串食べたよね?毎年楽しみなんだ!食べよ!」

「あぁ、食べよう!」
とリーラの昔から変わらない笑顔にルマンドは癒されるようだった。二人は露店で熱々の肉串を頬張り、焼き菓子を買ったり収穫祭を楽しみながら歩いた。ルマンドは花屋で小ぶりの花を手に取ると店主に短めに切って貰い、リーラの耳元に添えた。

「小ぶりの花なら目立たないだろう」

「えっ…あっ、うん…」

リーラは耳元をルマンドに触れられドキドキと胸が高鳴りを覚える。友人だけど一応女なんだからやたらと触れてくるのはやめてほしいと伝えようとすると手を取られ、
「行きたい所があるんだ」
と告げられた。

 ルマンドはリーラをセントレア通りにある高価な貴金属類を扱う店に連れて来た。初めてきた高貴な店にリーラは少し戸惑う。

「さぁ、一緒に見よう」

「うわぁ…う、うん。」

リーラは婚約者のメレディス嬢に贈るプレゼントを探して欲しいのだろうと察するがセンスのないのに良いアドバイスができるだろうか心配になる。

「どれがいい?」

「うーむ…」

リーラはルマンドの髪と瞳をじっと見る。
灰色の石のペンダントなんてダサいな…
銀色の石に近いのはこの透明にキラキラ光る石なんかどうだろう…

「このきらきらした石のペンダントは?」
と指差すとルマンドは嬉しそうな表情で店主を呼ぶとすぐに包むように言った。

「即決だね…」
自分のアドバイスが良かったか不安になりリーラは背中から冷や汗が出ているように感じた。

「メレディス嬢が喜んでくれたらいいね」

「メレディス…?なぜ彼女の名を…」

「うーむ、一年前かな?皇女殿下に紹介頂いたんだ」
そうかと言うとルマンドの顔が険しい表情になる。

「可愛い婚約者だよね、この幸せ者~」
とリーラがルマンドを突くとルマンドはリーラを引き寄せて壁に押しつけるとリーラが逃げださないように両手を壁につけ顔を近づける。

「リーラ、聞いて。メレディスは親が決めた婚約者だ。私は彼女に対して感情はない。私が…、私が想い続けるのは君だけだ」
とルマンドはリーラにさらに顔を近づけ唇をつけようとする。

「「ちょっと待ったー!!」」
と二人の男がリーラとルマンドを引き離す。

「クッ、邪魔が入った」

「間にあった~」
とルディが汗を拭いながらリーラを引き寄せ、ルマンドを引っ張ったのはロックだった。

「ロックじゃん!久しぶり!」
とロックの突然の登場に久しぶりの再開に歓喜しリーラはロックに抱きつこうとするとルマンドは二人をすかさず引き離しリーラを引き寄せる。

「同期が揃うの久しぶりだね!あれっ?サザリー?久しぶりじゃない!」

「あぁ、久しぶりだね」

ロックとサザリーの姿を見たルマンドはさらに不機嫌な顔になり二人を睨みつける。

「ル、ルマンド様、お許しくださいませ。我らは貴方の従者です。片時も離れることが出来ません」

「ル、ルマンド!久しぶり~!僕も副隊長の従者だから片時も離れられないんだよ…」
とルディが目を泳がせながら話すとリーラはそうだったっけ?と首を傾げる。

 リーラはみんなの肩をバシバシたたきながら、
「いいんじゃない?同期同士みんなでご飯行こうよ!」
と一人盛り上がる。

「でた…またみんなでご飯行こうだよ…」
とルディがポツリ。

「この能天気なところ、相変わらずだなぁ…」
とロックも呟いた。

「あれっ?ラディとロバートもいない?おーい!ラディ!ロバート!」
通りに面した場所にラディリアスとロバートが誰かを探しているのかキョロキョロしているところを見つけ、リーラの大きな声て二人を呼ぶ。

「ルディ!良かったな、リーラ見つかったんだな………あ~っルマンド、また会ったね…」
とまさかルマンドがいるとは知らずにロバートの目を泳ぐ。

「リーラ様、見つかって良かったです!あれ?ルマンド、ロック、サザリー久しぶりだね」
とまさかルマンド達と再会すると思わなかったラディリアスはびっくりした顔をする。

「おーっ!これだけ人数揃ったらみんなでご飯しかないでしょ!」

「本当ですね!行きましょう!」
とリーラとラディリアスは二人で盛り上がる。
「クソッ、俺は巻きこまれたくない…」
とロバートは頭を抱えるがガシッと逃げ出さないようにリーラに服を掴まれる。

 こうして久しぶりに再会した仲間たちを皆で食事を取ることにした。リーラとルディ以外は貴族達だ、なかなか名のある高貴な店の個室で食事を取る事になった。
 久しぶりに再会を果たしたリーラ達はこれまで近況を互いに語り合った。特にリーラは自身の活躍を皆に話すとルマンド達は凄いと驚いた。しかし、ロバートはリーラの発言の度に爆弾を落とさないか冷や冷やしながら聞いていたのだ。

「ちょっと席を外しまぁす」
とトイレに行く為にリーラは立ち上がった。
用を済ませて部屋に戻ろうとするとルマンドが部屋の外で待っていた。

「リーラ、外で少し話さないか?」

「いいよ」
二人は店の外に出ると壁を背にして話を始める。セントレア通りにはたくさんの人が急ぎ足で歩いていた。

「結構寒いね、もうすぐ雪が降るかな」
ぶるっとリーラは震える、陽が沈むと気温が下がり寒くなってきた。ルマンドはジャケット脱ぎ、リーラに掛けてやる。

「あっ、ありがとう。でもルマンドが寒いでしょ。私、結構頑丈だから大丈夫だよ」

「大丈夫だよ。ちょうど店の中が暑く感じていたから」

「ありがと」
ルマンドのジャケットから感じる温もりがリーラの心をほっと暖かくしてくれた。

「久しぶりに会えたのに邪魔ばかり入ったから二人でゆっくり話せなかったからね」

「そうだね、でも私は久しぶりにみんなとわいわい出来て楽しかったなぁ。昔を思い出しちゃた」

「本当だね、昔は楽しかったなぁ。そうだ、リーラは来年の夏、デビュタントでしょう。夏の宴に出席するの?」

「私?する訳ないじゃん、貴族じゃないし。来年の夏は祖母が事業を立ち上げるから休みを取って手伝わないといけないんだ」

「そっか…デビュタントに出席するなら、私がエスコートしたかったんだ」

「ありがとう、ルマンド。気を遣ってくれて」

「君をエスコートして両親に紹介したかったんだ」

「両親?ルマンドのお父さんなら仕事でよく話すよ!」

「えっ?!父上は何も話してくれてないよ、酷いなぁ」

「財務大臣って忙しいからね」

「そうだね。リーラ、聞いてほしいだ。婚約の話だ」

「えっ…、私が聞く必要あるの…」

「聞いてほしいだ、私は君のことをずっと……」
「副隊長!」
とルマンドの告白を遮り盛大に邪魔をする者が現れた。

「あれっ?どうしたの?ダンさん?」

「副隊長探したよ~、6番隊に召集命令が出た。他の隊員もいるか?」

「いるよ!ごめんね、ルマンド。またね」

リーラは借りていたジャケットを返すとルディとラディリアスに呼び、三人は迎えにきたダンと足早に店を後にした。


「私の恋路もなかなかうまく進まないものだな…」
リーラの温もりが残ったジャケットを羽織り、ルマンドはリーラの姿が見えなくなるまでじっと彼女を見送ったのだ。
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