上 下
94 / 240
第6章 亡国の王女の子達

第6話 亡国の王女の子達ー2ー(キャサリン目線)

しおりを挟む
 小さな頃を思い出すと胸が切なくなる。
 それは、彼のせいだ。
 私の幼なじみのオースティンのせいだ。
 
 私達は5歳の時に彼の屋敷の庭で出会った。母が侯爵邸で働く間、大人しく庭で遊ぶように言われ花壇のダンゴ虫を丸めて遊んでいるとそばに緑色の髪の男の子が私をじっと見ているのに気づいた。
 暇をつぶす相手を見つけれた私は一緒に遊ばないかと彼を誘うとすごく嬉しいそうな表情を浮かべうなずいてくれた。
 私は昔から外にいることが好きで近所の子達と遊んだり、父を真似て木刀を振り回すおてんば娘だった。
 周りの友達はみな私を男の子として扱うけど彼だけは違った。

「太陽の姫様、次はどこを探検しますか?」

「よし、次は馬を見に行こう」

あはははと2人で手を繋ぎながら広い侯爵邸を探検した。
 私は彼がすごく好きだった。彼だけが私を女の子として見てくれて、お姫様扱いしてくれるからだ。
 
 楽しい日々は続かず私が9歳の時、彼に別れも告げずコールディアを去る事になった。
 夜、荷物をまとめて父と母は馬車を走らせた。
 気づくと父は馬車から降りて母が1人で馬車を走らせ続けた。
 私はなんだか怖くて兄にしがみつきながら馬車が止まるのを待った。ようやく馬車は止まると荷物をごく僅かだけ持ち馬車を乗り換え新しい街へと行った。
 
 帝都グランディナだ。
 ここで家族3人の暮らしが始まる。兄はすぐに騎士学校に入学すると母との2人だけの生活が始まる。
 母が縫い物の仕事をして細々と2人で暮らしていた。
 2年が経ち、兄は偶然騎士学校で出会ったオースティンの兄の従者となる為にコールディアへ旅立った。
 兄がコールディアに旅立ったその年にノーザンランド全体に病が流行る。母がその病にかかってしまい、あっという間にこの世を去ってしまった。

 母は私に我が一族の秘密を最後に話をして…
 
 近所の方に手伝ってもらいながら母の葬儀と貯めていたお金でお墓も用意することできた。兄の迷惑になることはできないと思い、私は兄と同じ道に進むことを決意する。

 ザクッ、
 ザクッ。
 髪を切るたびになぜか彼のことが浮かんで来た。
 忘れるんだ。
 ザクッ、
 ザクッ。
 母にいつも綺麗に手入れしてもらった髪を短く切り、この目立つ髪を茶色に染め上げだ。

 無事、騎士学校の入学試験に合格でき騎士候補生となる。女であると舐められると思い学校では男として振る舞った。
 
 しかし、私は運命の悪戯いたずらを呪ってしまう。騎士学校でオースティンに再会したのだ。同じクラスにもなり、彼に私とバレないように何とかやり過ごす。
 私はあの時のお姫様なんかじゃない。
 髪も茶色に染めたんだから、きっと気付かない。私は、男になったんだから…

 1人でいるのがかえってクラスの中で目立ち、私は意地悪な貴族ウェイド・ザイデリカに目をつけられた。
 勉強嫌いな子供の頃の私は知らなかった。この男の父親が我が一族を死に追いやった張本人だったと。
 ウェイドのいじめは極端で水をかけたり勉強道具を隠すなど幼稚そのものだ。気にせず過ごしているとなくなったものは気づくと戻ってきたり、水をかけられた時、先生がすぐに駆けつけてくれたのだ。

 日々のいじめに鬱憤うっぷんが溜まっていた私は剣大会の時に自身の力を発揮し、いじめっ子をぼこぼこにして優勝した。
 これに根を持ったウェイド達がサウストップ山の登山の時に仕返しをしてきたのだ。頂上手前の小屋で私の荷物はすべてどこかに隠され、朝起きると1人も居なくなっていた。
 
 1人で途方にくれていると、オースティンの班がやって来た。
目を合わせないように下を向いていると彼は私に近づき、
「あいつらがまた、君に何かしたのか?」

「えっ?」

「荷物は?」

「なくなった」

「もしもの時と思って予備は持ってきたんだ。登れるか?」
私はできると頷く。

 彼はなぜか食べ物も水筒も余分に持っていて、荷物も背負わせてくれなかった。
「ありがとう」

「いいさ」

 私は無事下山すると怒りあまりウェイドに馬乗りになり殴る。弱いウェイドはただただ泣くだけだった。結局、先生達に私のことを知られたウェイド達は騎士学校を去ることになった。

 騎士一年目が終わると私は女性特有の症状に悩まされる。どうすればいいかわからず途方にくれ、気づくと医療院まで歩いていたようだ。入ろうかやめようか悩んでいると、ある女性に突然声を掛けられた。

医療院のアーマノ先生だ。
「医療院の前でウロチョロして何してるんだい?」

「男の振りをして騎士学校に通っているんですが、私の体が変なの…私が女だとバレてしまう」
私はわらにもすがる思いで先生に今の状況を伝えた。

「母親がいないのか…大変だったね」
 
 アーマノ先生は泣く私を優しく抱きしめてくれた。先生はすぐにマリアさんという女性騎士を呼んでくれた。マリアさんは女性としての対処方法を教えてくれ、先生も大切な任務日を優先できるように薬を処方してくれた。マリアさんは性別を偽っていたことも学校に掛けあってくれ、私は女の子として過ごすことが出来るようになったのだ。

 学校が始まるとクラスの仲間達は驚いたが皆、今まで通りに接してくれた。

もちろん、彼もそうだ。
「早く、髪の色も戻せ。おまえには似合わない」

「言われなくても戻すもんねぇー」

 私は知ってる。
 私が話かけるとあなたは嬉しそうにするって。
 今までいじめられていたのも影ながら助けてくれていたのも…
 オースティン……
 あなたなんでしょう…

 かつて私が抱いた思いが再び現れる。
 
 しかし、私に起こる悲劇により私はあなたとの決別を決意するしかなかった…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

【完結】夫は王太子妃の愛人

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。 しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。 これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。 案の定、初夜すら屋敷に戻らず、 3ヶ月以上も放置されーー。 そんな時に、驚きの手紙が届いた。 ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。 ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

処理中です...