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第三章 ベオルブイーターを倒せ!
第九百六十二話 開かずの悪魔
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私の名はフェルドラーヴァ。
皇帝、フェルドナーガの第三子にあたる。
上二子は既に亡く、下には弟が二人、妹が三人いた。
私は父の才覚を十全に引き継ぎ、世継ぎとして担ぎ上げられていた。
それに甘んじることなく精進し、父より新たなる星の力を授かる。
星の力は本来、フェル家とベル家によく馴染むが、子の力ほど私に馴染んだものは無かった。
父は満足し、この戦後に多くの領地を賜ることになっていた。
そんな父が……腑抜けてしまったのがこの戦いだ。
全軍の撤退を指示したが、私は納得がいかなかった。
手の届くところにアトアクルークの地がある。
かつてフェルドランス、ベルーファルクにょり築き上げられたという伝説の地。
このときには、ベオルブイーターが暴れまわることは無かったという。
そのベオルブイーターが沈むのを見て、これ以上の好機などあろうはずがない。
そして、私の眼前には宿敵、黒星のベルローゼがいた。
奴には一度苦汁を舐めさせられた記憶がある。
そんな奴があろうことか、深手を負い苦戦する相手。
あれはアクソニスとかいう、父上を訪問した女の仲間だった。
そして好機は訪れた。
アクソニスの仲間が、別の場所から異様な攻撃を受けたその瞬間を私は見逃さなかった。
赤星の力に邪眼を乗せ、対象を縛った上で星の力をぶつけると、ベルローゼは何故か自分へ向けられた攻撃とは思わず、全身で私の攻撃を受けた。
あのベルローゼを容易く仕留めた。これほどまでに自分の力の向上を喜んだことはない。
直ぐに奴の首級を挙げようと思ったが……私の全身の毛穴が開き、汗がにじみ出た。
恐ろしい形相をした男。いや、男なのかも分からない。
それは奇妙な剣を封じると、ベルローゼから離れた場所で何かを探っているようだった。
こちらの居場所は分かっていない。そう認識して先制を仕掛けた。
しかし、ベルローゼをも容易く倒してみせたこちらの攻撃を、まるで意に介さず撃ち落としていく。
赤星のことを知り尽くしている。そう感じた。
攻撃の手を緩めれば死ぬ。
そう感じながら、ずっと攻撃していたが……無駄だった。
父上の言った通り撤退すれば。
ベルローゼが単独を好むため、一人だと決めつけていた。
直ぐ近くに味方がいると、普段の私なら考えていたかもしれない。
積年の恨みが自分の眼を曇らせたか。
対峙する者は目が開いていない。
かき消さなかった一本の青い剣が勝手に動いている。
それは触手が生えており、徐々に肥大化しはじめ、私のいる場所を狙っている。
「殺れ、ティソーナ」
攻撃の手を止め、走って逃げた。
それは無駄に終わる。触手が伸び、足をからめて空中に吊るされた。
悪魔のようなそいつは、開かない目から血の涙を流して叫んでいた。
「俺の先生を……お前のせいで。お前のせいなんだ」
「ぐっ……その声。まさか、ルイン・ラインバウトだと、言うのか」
そいつの姿はあまりにも変わり果てていた。
背中に黒い翼が生え、両腕は燃える炎のように染まって見える。
青黒い髪は腰まで伸び、顔から生気が失われているようだ。
あの時、父上に進言した通りだった――。
「父上。あの男、生かしておくのは危険ではありませんか?」
「ラーヴァよ。あの男の力、欲しいとは思わぬか」
「それは……ですが、あまりにも異質過ぎるかと。あのような巨大モンスターを封じておけるものなど、神絡みの嫌な予感しかいたしません」
「いずれの神の寵愛とて、我の者としてしまえば我が寵愛を受けたことになろう」
「ですが……」
「よい。地上での戦いはさらに困難を極めよう。あの程度、扱えずに地上、地底双方を支配することなどできまい」
「……はっ」
……父上は聞き入れなかった。
私の悪い予感は的中していた。
こいつは……既に神の領域を越えている悪魔だ。
「死ね」
「おっと待ちなよ……君らしくもないね。少し頭を冷やしたらどう?」
間に割って入ってくるものがいた。
付近には誰の気配も感じていなかった。
突然現れたそいつは、光の輪を腕にはめている。
「タナトス。次はお前だ」
「落ち着きなって言ったでしょ。君、正気のままだよね。手が震えている。ほら、その涙、拭きなよ」
「お前に、何が分かる。たった今俺は大切な人を失ったんだ……俺の力で。俺のせいだ」
「死んでないでしょ。いや、このままだと死ぬだろうけど。君が力を逆に還元出来れば助けられる方法はある。急いだほうがいいよ」
「何? どういうことだ?」
「良いから。その男は縛り上げなよ。おっと、ラーンの捕縛網じゃなくね。それ、権利破棄すらもう出来ないよ。君が完全に使役状態にしてるから。戻す方法はあるかもしれないけどね」
「本当に助かるのか? どうすれば、どうしたらいい? こいつを縛る方法ってなんだ?」
「はいはい。結局私がやらないといけないのね。よいしょっと。爆発しない光の輪……機輪」
……なんだ? この人物は確か……父上に子飼いにされていた管理者、だったか。
なぜこいつがここにいる。
いや、もう一人いる! あれは間違いない「タ、タルタロス、ぐ、貴様……」
「ああダメダメ。動かないでね。死ぬよ本当に。ていうか彼に殺させないでよ。私ら今、大分よくない状況なんだからさ」
私は一体どうなるんだ。いや……実力の差がありすぎる。
私は……暴れるのは止そう。
命なくば、先に死んだ兄たちやジーヴァたちに顔向け出来ないのだから。
皇帝、フェルドナーガの第三子にあたる。
上二子は既に亡く、下には弟が二人、妹が三人いた。
私は父の才覚を十全に引き継ぎ、世継ぎとして担ぎ上げられていた。
それに甘んじることなく精進し、父より新たなる星の力を授かる。
星の力は本来、フェル家とベル家によく馴染むが、子の力ほど私に馴染んだものは無かった。
父は満足し、この戦後に多くの領地を賜ることになっていた。
そんな父が……腑抜けてしまったのがこの戦いだ。
全軍の撤退を指示したが、私は納得がいかなかった。
手の届くところにアトアクルークの地がある。
かつてフェルドランス、ベルーファルクにょり築き上げられたという伝説の地。
このときには、ベオルブイーターが暴れまわることは無かったという。
そのベオルブイーターが沈むのを見て、これ以上の好機などあろうはずがない。
そして、私の眼前には宿敵、黒星のベルローゼがいた。
奴には一度苦汁を舐めさせられた記憶がある。
そんな奴があろうことか、深手を負い苦戦する相手。
あれはアクソニスとかいう、父上を訪問した女の仲間だった。
そして好機は訪れた。
アクソニスの仲間が、別の場所から異様な攻撃を受けたその瞬間を私は見逃さなかった。
赤星の力に邪眼を乗せ、対象を縛った上で星の力をぶつけると、ベルローゼは何故か自分へ向けられた攻撃とは思わず、全身で私の攻撃を受けた。
あのベルローゼを容易く仕留めた。これほどまでに自分の力の向上を喜んだことはない。
直ぐに奴の首級を挙げようと思ったが……私の全身の毛穴が開き、汗がにじみ出た。
恐ろしい形相をした男。いや、男なのかも分からない。
それは奇妙な剣を封じると、ベルローゼから離れた場所で何かを探っているようだった。
こちらの居場所は分かっていない。そう認識して先制を仕掛けた。
しかし、ベルローゼをも容易く倒してみせたこちらの攻撃を、まるで意に介さず撃ち落としていく。
赤星のことを知り尽くしている。そう感じた。
攻撃の手を緩めれば死ぬ。
そう感じながら、ずっと攻撃していたが……無駄だった。
父上の言った通り撤退すれば。
ベルローゼが単独を好むため、一人だと決めつけていた。
直ぐ近くに味方がいると、普段の私なら考えていたかもしれない。
積年の恨みが自分の眼を曇らせたか。
対峙する者は目が開いていない。
かき消さなかった一本の青い剣が勝手に動いている。
それは触手が生えており、徐々に肥大化しはじめ、私のいる場所を狙っている。
「殺れ、ティソーナ」
攻撃の手を止め、走って逃げた。
それは無駄に終わる。触手が伸び、足をからめて空中に吊るされた。
悪魔のようなそいつは、開かない目から血の涙を流して叫んでいた。
「俺の先生を……お前のせいで。お前のせいなんだ」
「ぐっ……その声。まさか、ルイン・ラインバウトだと、言うのか」
そいつの姿はあまりにも変わり果てていた。
背中に黒い翼が生え、両腕は燃える炎のように染まって見える。
青黒い髪は腰まで伸び、顔から生気が失われているようだ。
あの時、父上に進言した通りだった――。
「父上。あの男、生かしておくのは危険ではありませんか?」
「ラーヴァよ。あの男の力、欲しいとは思わぬか」
「それは……ですが、あまりにも異質過ぎるかと。あのような巨大モンスターを封じておけるものなど、神絡みの嫌な予感しかいたしません」
「いずれの神の寵愛とて、我の者としてしまえば我が寵愛を受けたことになろう」
「ですが……」
「よい。地上での戦いはさらに困難を極めよう。あの程度、扱えずに地上、地底双方を支配することなどできまい」
「……はっ」
……父上は聞き入れなかった。
私の悪い予感は的中していた。
こいつは……既に神の領域を越えている悪魔だ。
「死ね」
「おっと待ちなよ……君らしくもないね。少し頭を冷やしたらどう?」
間に割って入ってくるものがいた。
付近には誰の気配も感じていなかった。
突然現れたそいつは、光の輪を腕にはめている。
「タナトス。次はお前だ」
「落ち着きなって言ったでしょ。君、正気のままだよね。手が震えている。ほら、その涙、拭きなよ」
「お前に、何が分かる。たった今俺は大切な人を失ったんだ……俺の力で。俺のせいだ」
「死んでないでしょ。いや、このままだと死ぬだろうけど。君が力を逆に還元出来れば助けられる方法はある。急いだほうがいいよ」
「何? どういうことだ?」
「良いから。その男は縛り上げなよ。おっと、ラーンの捕縛網じゃなくね。それ、権利破棄すらもう出来ないよ。君が完全に使役状態にしてるから。戻す方法はあるかもしれないけどね」
「本当に助かるのか? どうすれば、どうしたらいい? こいつを縛る方法ってなんだ?」
「はいはい。結局私がやらないといけないのね。よいしょっと。爆発しない光の輪……機輪」
……なんだ? この人物は確か……父上に子飼いにされていた管理者、だったか。
なぜこいつがここにいる。
いや、もう一人いる! あれは間違いない「タ、タルタロス、ぐ、貴様……」
「ああダメダメ。動かないでね。死ぬよ本当に。ていうか彼に殺させないでよ。私ら今、大分よくない状況なんだからさ」
私は一体どうなるんだ。いや……実力の差がありすぎる。
私は……暴れるのは止そう。
命なくば、先に死んだ兄たちやジーヴァたちに顔向け出来ないのだから。
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