上 下
1,074 / 1,085
第三章 ベオルブイーターを倒せ!

第九百六十二話 開かずの悪魔

しおりを挟む
 私の名はフェルドラーヴァ。
 皇帝、フェルドナーガの第三子にあたる。
 上二子は既に亡く、下には弟が二人、妹が三人いた。
 私は父の才覚を十全に引き継ぎ、世継ぎとして担ぎ上げられていた。
 それに甘んじることなく精進し、父より新たなる星の力を授かる。
 星の力は本来、フェル家とベル家によく馴染むが、子の力ほど私に馴染んだものは無かった。
 父は満足し、この戦後に多くの領地を賜ることになっていた。
 そんな父が……腑抜けてしまったのがこの戦いだ。
 全軍の撤退を指示したが、私は納得がいかなかった。
 手の届くところにアトアクルークの地がある。
 かつてフェルドランス、ベルーファルクにょり築き上げられたという伝説の地。
 このときには、ベオルブイーターが暴れまわることは無かったという。
 そのベオルブイーターが沈むのを見て、これ以上の好機などあろうはずがない。
 そして、私の眼前には宿敵、黒星のベルローゼがいた。
 奴には一度苦汁を舐めさせられた記憶がある。
 そんな奴があろうことか、深手を負い苦戦する相手。
 あれはアクソニスとかいう、父上を訪問した女の仲間だった。
 そして好機は訪れた。
 アクソニスの仲間が、別の場所から異様な攻撃を受けたその瞬間を私は見逃さなかった。
 赤星の力に邪眼を乗せ、対象を縛った上で星の力をぶつけると、ベルローゼは何故か自分へ向けられた攻撃とは思わず、全身で私の攻撃を受けた。
 あのベルローゼを容易く仕留めた。これほどまでに自分の力の向上を喜んだことはない。
 直ぐに奴の首級を挙げようと思ったが……私の全身の毛穴が開き、汗がにじみ出た。
 恐ろしい形相をした男。いや、男なのかも分からない。
 それは奇妙な剣を封じると、ベルローゼから離れた場所で何かを探っているようだった。
 こちらの居場所は分かっていない。そう認識して先制を仕掛けた。
 しかし、ベルローゼをも容易く倒してみせたこちらの攻撃を、まるで意に介さず撃ち落としていく。
 赤星のことを知り尽くしている。そう感じた。
 攻撃の手を緩めれば死ぬ。
 そう感じながら、ずっと攻撃していたが……無駄だった。
 父上の言った通り撤退すれば。
 ベルローゼが単独を好むため、一人だと決めつけていた。
 直ぐ近くに味方がいると、普段の私なら考えていたかもしれない。
 積年の恨みが自分の眼を曇らせたか。
 対峙する者は目が開いていない。
 かき消さなかった一本の青い剣が勝手に動いている。
 それは触手が生えており、徐々に肥大化しはじめ、私のいる場所を狙っている。
 
「殺れ、ティソーナ」

 攻撃の手を止め、走って逃げた。
 それは無駄に終わる。触手が伸び、足をからめて空中に吊るされた。
 悪魔のようなそいつは、開かない目から血の涙を流して叫んでいた。

「俺の先生を……お前のせいで。お前のせいなんだ」
「ぐっ……その声。まさか、ルイン・ラインバウトだと、言うのか」

 そいつの姿はあまりにも変わり果てていた。
 背中に黒い翼が生え、両腕は燃える炎のように染まって見える。
 青黒い髪は腰まで伸び、顔から生気が失われているようだ。
 あの時、父上に進言した通りだった――。

「父上。あの男、生かしておくのは危険ではありませんか?」
「ラーヴァよ。あの男の力、欲しいとは思わぬか」
「それは……ですが、あまりにも異質過ぎるかと。あのような巨大モンスターを封じておけるものなど、神絡みの嫌な予感しかいたしません」
「いずれの神の寵愛とて、我の者としてしまえば我が寵愛を受けたことになろう」
「ですが……」
「よい。地上での戦いはさらに困難を極めよう。あの程度、扱えずに地上、地底双方を支配することなどできまい」
「……はっ」

 ……父上は聞き入れなかった。
 私の悪い予感は的中していた。
 こいつは……既に神の領域を越えている悪魔だ。
 
「死ね」
「おっと待ちなよ……君らしくもないね。少し頭を冷やしたらどう?」

 間に割って入ってくるものがいた。
 付近には誰の気配も感じていなかった。
 突然現れたそいつは、光の輪を腕にはめている。

「タナトス。次はお前だ」
「落ち着きなって言ったでしょ。君、正気のままだよね。手が震えている。ほら、その涙、拭きなよ」
「お前に、何が分かる。たった今俺は大切な人を失ったんだ……俺の力で。俺のせいだ」
「死んでないでしょ。いや、このままだと死ぬだろうけど。君が力を逆に還元出来れば助けられる方法はある。急いだほうがいいよ」
「何? どういうことだ?」
「良いから。その男は縛り上げなよ。おっと、ラーンの捕縛網じゃなくね。それ、権利破棄すらもう出来ないよ。君が完全に使役状態にしてるから。戻す方法はあるかもしれないけどね」
「本当に助かるのか? どうすれば、どうしたらいい? こいつを縛る方法ってなんだ?」
「はいはい。結局私がやらないといけないのね。よいしょっと。爆発しない光の輪……機輪キリン

 ……なんだ? この人物は確か……父上に子飼いにされていた管理者、だったか。
 なぜこいつがここにいる。
 いや、もう一人いる! あれは間違いない「タ、タルタロス、ぐ、貴様……」
「ああダメダメ。動かないでね。死ぬよ本当に。ていうか彼に殺させないでよ。私ら今、大分よくない状況なんだからさ」

 私は一体どうなるんだ。いや……実力の差がありすぎる。
 私は……暴れるのは止そう。
 命なくば、先に死んだ兄たちやジーヴァたちに顔向け出来ないのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...