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第三章 ベオルブイーターを倒せ!

第九百五十九話 ベオルブイーター戦その九 その先にある己の声

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 ルインズシップを離れる前に、死神のような恰好をした男が声をかけてきた。
 どこかで聞いたような……と思ったが、直ぐ「やっぱり分からないか。シュウだ。この格好はスキアラにな。しかし大変なことになった」
「シュウが無事でよかったよ。お前にもメルザを任せたい。頼めるか?」
「無論のこと。このシュウ。必ず約束は果たす。ルイン、積もる話もあるだろうから、早めに戻ってきてくれ」
「……ああ」

 弱い声でそう言い残し、ベリアルと共にルインズシップから出た俺は……タナトスの台詞を思い出していたところで、レウスさんが飛んでくる。

「おーいルイン! 様子見てきたぞ? な? な?」
「レウスさん。ご苦労様。どうだった?」
「あれな。友達が乗ってたわ! 攻撃してきたぞ。バラバラにされたわ。でもな。俺、死なないから。な?」
「……ベオルブイーターを見てきてほしかったんだけど」
「ダメだ。あいつはダメだ。完全に無視されるだけだったわー。ないわー」
「そ、そうか。それじゃレウスさんも封印に戻ってくれ。……ふう。様々なものを封印する、魔幻妖人のルイン、か……」
「見ろ、ルイン。もうベオルブイーターのガーディアンはほぼ機能してねえぜ。あいつを落とすなら今しかねえ」
「ああ。そうだな……なぁベリアル。俺がおかしくなったら、お前は止められるか?」
「何言ってやがる。そんときゃおめえ……前みてえに俺がおめえを動かしゃいいだろ」
「それはもう、出来ない。お前と俺は一つの肉体に宿る二つの魂だった。だが、魂のくさびはもう切れている。ちゃんとしたホムンクルスの体さえあれば、お前だって本当は……人のように生きられるはずだ」
「興味ねえな。この体は都合がいいぜ。ギオマ並みの力もありやがる。よくここまで成長したもんだぜ」
「ふふっ。ずっと一緒だったからな。そしてター君やデュラサーも戻ってきた。この状態で全開にしたらどうなるのか。絶魔を越える絶魔。フルスペリオルタイム……もう後には引けないよな」

 俺は、自分の体がまるで悪魔のように変化するのをずっと恐れていた。
 背中に翼が生え、両腕が変色し……メルザのことまで忘れてしまうのではないか。
 本物の……それこそフェルドナーガの見た目のような生物になってしまうんじゃないか。
 そう考えてばかりいて、自然と制御していたに違いない。

「まぁ、おめえがどんな風になろうが、俺が止められねえ道理はねえ。ソロモンの悲願を……果たすときだ」
「ああ。目の上のたんこぶ付きでな。シャックスとフェネクスはあの中にいるだろう。そっちはお前に任せる」

 バネジャンプと同時にベリアルを封印に戻した。
 そして、ベルベディシアに攻撃の合図を送る。
 しばらくすれば俺は自然落下するだろう。 
 ――生まれ変わる前の嫌なこと。生まれ変わった後の嫌なこと。
 本来記憶とは、嫌な出来事をなるべく忘れるように出来ている。
 だが、俺は違った。
 例え嫌な出来事でも忘れられずに記憶してしまう。
 何度も何度も、それで苦しい思いをした。
 だが、今ならその苦しみこそ俺を強くする引き金であることが分かる。
 脳裏に過去のタナトスの声がこだましていた。

「制約をつけないと肉体が崩壊する。それと、魔の力が強くなりすぎて、かなり野蛮となるだろう。制御するにしても容易くはない」

 大切な人を守りたい。そのためには自分の外見や状態など構っていては守れない。
 過去の記憶が振り切る憤怒に変わっていく。
 強い憤り、弱い自分。小さいあいつを守り通せず、両腕を牛なうことになったあいつ。
 治療のため長く離れた。会いたいと願う気持ちを捨て去り、ただ強くなろうとした。
 多くの仲間が出来た……失った仲間もいる。
 救えなかった。目が見えればどんなことだって出来ると思っていた。
 やりたいことがいっぱいあった。
 でも……たとえ目が見えていても、ほんの一握りの範囲しか救い出せない自分。
 目まぐるしく続く自責の念。
 激しく痛む体――だが、その中に、ひと際暖かい声を聴いた気がした。

「大好きだぜ。ルイン――」
「ウアアアアアアアアアアアアアアアア! 飲み込まれはしない! 俺は、ルイン・ラインバウト。人としての心は失ってなるものか!」

 体全身に激しい痛みが走った。
 俺は……両手を、足を、体を触る。
 背中には翼が生え、両腕は変色している。
 目は開いていない。にもかかわらず視界は三百六十度もある気持ち悪い視点だ。
 ……化け物だが、人型。高揚感はあるが制御出来ている。
 失敗か? いや、そんな感じはしない。

「ははっ……フェルドナーガ。別に飲み込まれなくても……」
『不完全』

 ……どこからか声が聞こえた気がした。
 
『カイオスの力を』
「なん、だ……」

 思わず口を押えた。
 聞こえたんじゃない。俺自身がしゃべってるんだ。

『思い出せ』

 ――――そこから記憶が完全に無くなった。
 気づいたら俺は……両手に二本のおかしな剣をツルで巻き付かせるようにして持ち、ぼろぼろの状態で空に一人で浮かんでいた。
 完全に何かに飲み込まれた。
 そして目の前に広がる光景は……崩れ落ちていくベオルブイーターが視界に大きく浮かび上がる。
 一体何が起こった。どうなっている。
 あれは俺が……やったのか? 
 ルインズシップも見当たらない。。何も……分からない。
 
 
「ベ、ベリアル」

 しかし封印から出て来ない。

「バルフート、ター君、デュラサー、ハルファス、マルファス、パモ! セーレ! レウスさん! ……よかった、封印にはいる。だが……」

 全員眠りについているかのようだった。
 力を吸い取られたのかもしれない。
 俺が……意識を飛ばしてこいつらを利用してしまったのか。
 
「俺は、俺は何をした。俺に、何をさせた……っ流星!」

 突如として空中に浮かぶ俺へ、攻撃を仕掛けてくるものがいた。

「フェネクス、止せ! そいつはやばすぎる! 逃げるぞ!」
「不意打ちで一矢報いることすらできんのか! この化け物め!」
「待て……なっ!?」

 俺はそいつらを捕縛しようと考えた。
 考えただけで、ラーンの捕縛網が勝手に飛び出し、そいつらを竜の形状をしたラーンの捕縛網が縛り上げる。
 ただ縛り上げているだけじゃない。ベキベキと破壊される音が鳴り響いていた。

「うぐあああああ!」
「や、めろ……」

 ラーンの捕縛網はどんどんと締め上げ……そいつらは俺へと封印された。
 自分のその手は血まみれで、震えが止まらない。
 
「なんだ、一体どうなったんだ。このままじゃ訳が分からない」

 一度ルインズシップに戻るか。
 いや、紫の城も片付けねばならない。
 ベオルブイーターが落ちたのなら、きっと作戦通り部隊が向かっているはずだ。
 その合図があってから目的地に向かえばいい。
 今は……この二人をどうするかだ。
 そう考えていたが、その二人は突然と姿が消え……俺に封印されてしまう。

「なっ!? 勝手に封印だと。冗談じゃない」

 ギオマに助け出させたあの死神に聞いてみるか? 
 だが、ルインズシップに戻っている場合じゃないんだ。
 単独で向かう? シャックスとフェネクスという敵がいるはずだ。
 二人……もしかしてさっきの奴らがそれか? 
 自分の状況がまるで理解出来ない。
 このままでは、意図せず仲間を傷つけてしまうかもしれない。
 このまま仲間の下に戻ってはいけないと感じ、まずは空に浮かぶ紫色の城に向かうことにした。
 近くで見るとおかしな門がある。しかし誰かがいる気配は今のところ感じられない。
 俺がその門に触れると、門はバラバラに崩壊した。
 ……これ以上考えないようにしてその門の先へと進むことにした。
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