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第三章 ベオルブイーターを倒せ!

第九百五十一話 対ベオルブイーター戦その一 戦線一路、ベリアル、ギオマ、ルインの三点攻撃

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 地底の空を駆けるルインズシップに乗り、一路北西へと進行する俺たち。
 その進行方向に、突如大きなビジョンが投影されるのを確認して一時停止させる。

「あれは……昔フェルドナージュ様の戦闘を見せてもらったものと似ている」
「あれがフェル様ナーガってやつか?」
「そうだ。間違いなく俺に向けてだろうな」

 映し出されたビジョンには、巨大な蛇に乗るあの男、フェルドナーガが映っている。
 ゆっくりと口を開きしゃべりだした。

「よもや安息の地を抜け出そうとはな。声を拾ってやる。表に出て話をしろ。なに、妙な術などかけたりはせぬ」
「メルザ、少し行ってくる。ベリアル、頼めるか?」
「ああ、いいぜ」

 ルインズシップより外に出ると、心地良い風が吹いていた。
 だが、眼前に映る光景は、心地良いものではない。
 力でねじ伏せる強欲の支配者だ。

「ルインよ。心を入れ替え大人しくなり、我のものとなったあかつきには我の統治全てを見せたかったのだがな」
「あいにくだが、あんたの統治よりフェルドナージュ様の統治が魅力的でね」
「妹は生ぬるい。妖魔はきつく縛らねばならぬ。ベルータスがフェルドナージュに従ったと思うか?」
「思わないな。あれはあれで一つの統治だろう。互いに不可侵条約を結べばいいんじゃないのか?」
「それは統治とは言わぬ。このままでは未来永劫変わることのない地底という、我々のみ押し込められた場所で生きねばならぬ。それはおかしいとは思わぬのか?」
「それは……だが、お前のやり方が正しいとは思わない。ベオルブイーターを倒すというその一点以外はな」
「なればこそ、ベルータスを、フェルドナージュを、タルタロスを打破せねば、ベオルブイーターなど倒せようはずもなかろう。その行為すら否定するか!」
「それは思い上がりだ。お前は交渉をしていない。自らの絶対的な力を信じて従わせ、己の力を増長させたいだけだろう!」
「……ふふっ。食えぬ男よ。我の力の根源を知るか。貴様なら、ラーヴァも越える血となったであろうに。良かろう。ベオルブイーターを始末した後、我自ら貴様を服従させに行ってやる。覚悟しているがよい」
「俺も負けっぱなしは嫌なんでね。ケリをつけてやる、フェルドナーガ!」

 映像はそこで途切れた。
 どっと力が抜ける。大した威圧感だ。果たして今の俺で太刀打ちできるものかどうか。
 いや、成長は常にできることだ。それに俺は……封印者が成長するほどに力を得られる。
 この戦いでも更なる成長を遂げてやる。

「クッ。はっはっはっは! よく言ったぜ。あそこでうじうじしようもんならこっから落として俺が罵声を浴びせるとこだったぜ」
「一度負けてるからな。あいつには負けたくないんだよ。まったく、ベオルブイーター対策だけでも頭がこんがらがるってのに、そのあとに邪眼対策まで考えろとか。この世界、本当にクソゲーだぜ」
「違いねぇ。おめえの前世で言うクソゲーってやつをよ。俺も味わってみたいもんだぜ」
「ははっ。帰れるならお前と遊んでみたいもんだ。待てよ? いっそヤトとあの親父にでも頼んでみるか。アルカーンも加えれば何でも作ってくれそうだ。ついでにデンジー三兄弟にでも頼んで……」
「おい。何ブツブツ言ってやがる。戻って進軍だろ。いよいよだぜぇ……」
「ああ。魔対戦とは違い、魔族対ベオルブイーターだ。これほどの大規模戦闘。そうは見られないだろう」
「けっ。一番の首謀者になるのはおめえだろ。燃えてきたぜ。外からベルベディシアに合図しろ。やっぱこのまま行くとするぜぇ!」
「お。おい!」

 加速しようとするベリアルを制して外からベルベディシアに見えるよう、ハンドサインで前進を合図する。
 両腕を腰に当てて少し怒った表情が見て取れた。
 隣でメルザがそれを真似ようとして、慌ててジェネスとがカルネをひったくるようにして助ける。
 カルネ、たくましく育つだろうな……。

 ――速度を上げるベリアル。その姿は黒き竜、ドラゴントウマだ。
 俺が地底で出会った初めての竜で、地上へと帰る途中で仲間になったその死竜に、魂の共有者であるベリアルは宿った。
 その咆哮は天を震わせ、尻尾は岩壁を軽々と粉砕する。
 羽ばたきは周囲に爆風を引き起こし、ブレスはあらゆるものを消滅させる。
 そんな相棒に乗り空を駆ける。
 悪くない時間だ。
 そしていよいよ……ベオルブガーディアンが見えてきた。

「野郎、既にドンパチ始めてるようだぜ。明らかにガーディアンの数が少ねえ」
「お前から見てどうだ? ベオルブイーターってのはガーディアンさえどうにかなれば倒せる相手か?」
「んなわけねえだろ。外周のほんの一部しか触れてねえから分かってねえんだ。そろそろルインズシップに停船を指示しておきな」

 直ぐに手で待てと合図し、ルインズシップを止める。
 メルザが外に駆けだそうとしているのを羽交い絞めで止めるジェネスト。
 メルザの出番はまだだって言っといたんだけど。

 ここからは偵察と実験。
 それができなければ全部隊を動かせない。
 
「ギオマ。メナスも出てきてくれ」
「到着したか。予定通り出番か。グッハッハッハッハァ」
「主様。私なぞをお役立てできるのでしょうか?」
「ああ。お前なら安心して任せられる。ギオマに乗り、指示した通りに頼む。それと、離れすぎるなよ。封印に戻せなくなるからな」
「御意」

 ギオマとベリアルは共に近い距離で進行。
 ベオルブガーディアンに接近。見える範囲でガーディアンの数は五十はいる。
 このガーディアン、ベオルブイーターの中心に進めば進むほど数が多くなる。
 現在はもっとも離れた距離だ。かろうじてベオルブイーターの中心が見えるか見えないか程度。
 ここがデッドラインと言えるだろう。
 
「ベリアル。ここでいい。釣ってくるぜ」
「行ってきな。ヘマしてもいいようにはしておいてやる」
「おいおい。ここでしくってるようじゃ到底本体なんて倒せない。黙って構えてろよ……バネジャンプ!」

 俺は単独、空をバネジャンプと流星でベオルブガーディアンまで差し迫る。
 俺に反応して動いたのは三つのガーディアンだ。
 そのうちの一つにしがみつくと、残りの反応した二つが俺のしがみついたガーディアンへと差し迫る。
 それから再び流星で移動し、迫ってくるガーディアンに移動を繰り返すと、三つが密着した状態となった。

「バネジャンプ」

 大きく上方にそれると同時に、ガーディアンも上方へと向かってくる。

「ラモト……ギルアテ!」
「エゴイストテュポーン。くたばれや!」
「散りと化せ。魂吸ブレス!」

 三方向からガーディアンに向けて同時攻撃すると、今まで攻撃を反射していたにもかかわらず、俺の攻撃とベリアルの攻撃は反射されず、ギオマの攻撃は反射された。
 その様子をメナスがしっかりと確認。さらに落下する俺を受け止めてくれた。

「ふう。三つ破壊できたな。どうだった?」
「主様の話していた通り。全ての個所で攻撃が弾かれるわけでは無い様子。攻撃角度次第で破壊できそうです。でも、このやり方では心配です。あなたを失ったら私なぞ……」
「平気だ。国のみんなは優しいだろ? お前が仮面なんてつけなくても笑って生きられる国を作るまで、死んだりはしない。それより……そろそろメルザが怒りそうなんで、下ろしてもらえるか?」
「これは、失礼しました……」
「いや、助かったよ。俺たちは攻撃に集中しなきゃならない。お前の目、頼りにしてるぞ」

 メナスはオズワルの戦いのさ中でも俺をかばい、受け止めてくれた。
 一番信頼できるキャッチ相手と言えるだろう。
 安心して飛べる。

「次、もっと多く釣るぞ。いけるなお前ら!」
「ふん。ぬるいわ。今度は我の攻撃を当ててやる。メナスよ。場所は把握したな? 我を導けよ!」
「そりゃこっちの台詞だぜぇ。ギオマ、おめえには負けねえからな!」
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