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第三章 ベオルブイーターを倒せ!

第九百五十話 部隊統括 進軍開始

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 ルインズシップを入手してから数日のこと。
 現在、ペシュメルガ城跡地に集結しているのは、フェルドナージュ配下だったものと俺たちルーン国の面々だ。
 フェルス皇国の妖魔では、俺はやはり名が知れている。
 こちらの意向に従い行動してくれるのはとても助かる。
 各自アルカーン、ニーメ、レンブラント・カーィが製作を進めていた兵器を装備し、整列している。
 フェルドナーガやフェルドラーヴァ、邪念衆さえいなければ、地底最強はここであると言える。
 アルカーンはずっと、フェルドナージュ様を救出するために装備を作っていたようだ。
 だが、リルが行方不明であると知り、さらに装備強化を加速させた。
 さらに、リルがソロモンにいるかもしれないと分かると、ソロモンを攻略するための道具まで作ってしまったのだ。
 しかし、リルがどのソロモンにいるかは不明なままで、こちらはひとまず保留となった。
 なにせ、フェルドナーガ軍の動きが活発過ぎて、もうまもなくベオルブイーターへ一斉攻撃をするのではないかと睨んでいる。
 奴らはすでにフェルス皇国が解放されたことを知っているものの、ベオルブイーター攻略を優先すると決めたようだ。
 
 ……当然、俺がここへいることも把握しているだろう。
 なにせ、ルインズシップからはずっと紅色の光が発射されたままなのだから。
 ベリアルやハルファス、マルファスの話を聞いて他にも危惧きぐすることはあるのだが、今は部隊を確認していこう。

 ここにはルーン国主要メンバーを招集してある。
 第一部隊。
 シカリーをはじめとした死霊族数名の部隊。それとイビンを始めとする伝令部隊。
 ……ここにアメーダはいない。
 彼らは幻術が得意で、対象の嘘を見抜く力がある。
 また、名を知るものをマーキングし、そこが自らの領域範囲内であれば瞬時に移動できる。
 彼らにはフェルス皇国南西より中央へ攻めるが、ガーディアンが大人しくなるまでは待機だ。

 第二部隊。フェルドナージュ様お抱えの配下生き残り集団とヤトカーンたち。
 それと、ついに呼び出されたテンガジュウ、ビローネ、ベロア。
 ベルベディシアの命令には逆らえず、ルインズシップからは降りて戦うことに。
 この部隊は北上し、そこから西を目指すが、第一部隊と同様ガーディアンが大人しくなるまで待機だ。
 
 第三部隊は現在ここにいない、シーザー師匠やハーヴァルさん、セフィアさん、イーファたちのベレッタ先発組。
 こちらは既にノースフェルド皇国側へ入ってフェドラートさんやジオたちと合流していると思われる。
 捕縛されたベレッタやフェルス皇国の者をかき集め、北東から南西へ向けて進軍してもらう。
 
 第四部隊……こちらは部隊というより一個隊と呼ぶべきか。
 使者と言った方がしっくりくる。北東にある奈落はフェルドナーガ軍の邪念衆により多く機能を奪われている。
 うまく潜入して状況をつかみ、先兵のアルケーやタルタロスがどうしているのかを確認、協力を願い出る。
 向かうのはルジリト、白丕、ビュイ、リュシアンだ。
 戦力としてこれだけ抜けるのは痛手だが、タルタロスの力を借りられれば心強い。
 だが、あいつがベオルブイーターを倒すのに協力する保証はない……ルジリト次第だろう。

 そして第五部隊。ルインズシップに搭乗するのはベルベディシア、メルザ、カルネ、俺にベリアル、ギオマ、そして連れてきている封印者、新たに到着した封印者たち。
 今回のメインは空中戦だ。空を飛べないものや、空から地上へ降りる手段がないものには他の部隊へ割り振ってある。
 この第五部隊がどうにか出来ないなら、作戦自体が意味をなさない。

「では主殿。一言だけでも」
「空に巣くうあれは、単に虐殺を繰り返す兵器のようなものだ。あれに怯え暮らし生きるより、秩序を築き上げ、平穏豊かに生きる道があるべきだと考える。フェルドナーガの野望を阻止し、ベオルブイーターを倒す……皆で行こう、アトアクルークの地へ!」
『うおーーー!』
「直ぐに発進させる。ルジリト……無茶はするなよ」
「はい。民生の安定があればこそ政治が行えますが、この地はどうも安定しておりませぬ。主殿はそちらも気にかけていりうのでございましょう?」
「統治とは本来、民一人ひとりが行えばいいと思う。だが、生物とは本来、気ままだろう? そのため代表となるものが生まれる。この代表に必要なのは圧倒的威厳と統治力。そうでなければ皆が皆、再び自由気ままになってしまう。妖魔とは生物の中でも特に自由気ままだと感じる。俺は、地底の統治に向いていない。フェルドナーガやフェルドナージュ様こそ、そういった才覚があるのだと思う。けどな……」
「勝手に奪い統治するのではなく、話し合いを踏まえるべうきだと仰りたいのですな。言葉での解決、それはこの……ルジリトも望ところではあります。ルジリト自身、幾度失敗したか分かりませぬ。ですが、たった一人自らを理解する友がいるだけで、全てが報われた思いでした」
管鮑かんしゅくの交わりか。その話を初めて聞いたとき、うらやましいと思ったよ。尊敬の念も抱いた。相手の身上になって考えること。簡単にできることじゃない」
「何を仰いますか、主殿。あなたこそまさに、鮑叔ほうしゅくのような性格と言えます。とても……懐かしい感じがしました。ではそろそろ行って参ります」
「……ああ。無理をせず引き返すことも重要。まだまだお前には託したいこともあるのだから」
「心得ております」

 深々と一礼すると、ルジリトはハルピュイアの姿となり、リュシアンたち共々旅立っていった。
 各部隊も出発し、俺はメルザの手を引いて、ルインズシップへと乗り込む。

「なんかむずかしー話してたな」
「そうだな。とても古い時代の、思想の話さ。でも……」

 幾年月が経とうとも、良を司る人物はその血を受け継いでいる。
 自分のためではなく他人のことまでを考え、相手にとって良い選択肢を取れること。
 そして、そうではなかったものを変える力をもつこと。
 互いが欲にまみれれば争いが生じ、互いが無欲過ぎれば何も生まれない。
 俺には無い食いしん坊と純粋さ。
 無いものねだりをするからこそ惹かれ合うなら、メルザが俺に求めるものは何なのかな。

「メルザ。地底を変えよう。俺たちの手で」
「ああ。そーだな。フェル様が暮らしやすいよーによ。さっさと怪物倒して、今度は俺様たちが手伝ってやるばんだぜ!」
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