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第三章 ベオルブイーターを倒せ!

第九百四十七話 ズサカーンとスワイプロード

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 ヤトカーンの実家である家の中に入ると、父親であるズサカーンが茶と茶菓子を用意してくれた。
 メルザが喜んで食べ始める。そこに遠慮などはない。
 その食べる仕草を見慣れたとはいえ、眉を引きつらせるベルベディシア。

「あなた……さすがにその食べ方はお行儀が悪いですわよ」
「モゴ? モゴモゴ……ぶはっ。うめーぞこれ」
「正室殿、いい食べっぷりだな。それに比べうちのは食費が安い! はっはっは。家計の心配はないぞ」
「なんの話をしてるんだ。それよりもこの家……壁のあれは全部モンスターか?」

 室内の壁はとても奇妙だった。
 なにせ、タコ足のような触手が壁から出ていたり、呪いの仮面のようなものが飾られている。
 定期的にタコ足がビタンと地面をたたくので、ちっとも落ち着かない。
 縦長の蛇目の仮面は時折目が動き、口部分からにゅっと青い歯が見えたりもする。

「その通り。どれも研究用の飼育物だぞ。長いことここでモンスターの研究をしておってな。お主も知っての通り、妖魔は封印されるモンスターにより、自身の能力を高めるが……」
「俺、全然能力高まらないんだよ」
「ふむ。還元されたような気分にはなるか?」
「それはある。わずかだが能力が向上した……ような気持ちにはなってるんだが、実際それを確かめる術もない」
「ふうむ。装備の封印穴を見せてくれるか?」

 これはちょうどいい。俺のでたらめな状態を理解してくれる妖魔は初めてだ。
 一度舌間形態となり、黒衣に内臓された封印穴を見せる……と、黒衣を引っ張り上げ、しゃぶりつくかのように黒衣に顔を近づけた。

「近い、近いって!」
「おい動くんじゃない! なんだこれはどうなっているんだ。この中に見えるのは確かに……だがどうして、吸い上げられるのを切り離す仕組みか? だがそれではなんの術も……ううむ」
「ルインはすげーってことでいいんじゃねーか? なぁなぁおかわりくれよ」
「そっちの棚の三番目に入っておる。ううむ、そうなると妖魔としての行使ではなく、術としてのみの還元になるのか」
「ズサカーン……でしたわね? 彼は妖魔でも幻魔でもない。ただの人間だったのよ」
「人間? 人間だと? 地底に人間が来れるわけがなかろう」
「正確には元々が人間。わたくしの詠みですから間違いありませんわ」
「つまり、人間のなせる力がモンスターの協力を受け皿にすると相性が悪く、上手く還元できないようにされているのか。ふむふむ、分かってきたぞ。義息殿。その状態のまま壁の足に何かモンスターの技を使ってくれぬか?」
「放出系の技か? あまり攻撃を飛ばす技のモンスターがいないんだ。氷塊のツララもター君がいない以上使えないし……スピリットミーティオルの流星なら直ぐに使えるが」
「スピリットミーティオルだと!? どこだ、どこの封印にある? 頼む、見せてくれ!」
「見せてくれって言われても、目に見えないんだよ。封印出来たのは偶然だったから」
「あのモンスターがどれほど貴重だと……ではその技を見せてくれ、頼む!」
「趣旨が変わっている気がするが……流星」

 勢いよく壁に激突する俺。
 そうなることは当然知っていたわけだが。
 鼻血を出しながら振り返ると、腕を組んだズサカーンは真剣な表情でつぶやく。
「もう一回やってくれ」
「お断りだ」

 このやり取りが面白かったのか、ツボにはまるベルベディシア。
 そちらを見て驚いたのは俺だ。
 メルザが全ての菓子を平らげ終えて、カルネに叱られていたのだ。
 ……そんなに腹が減ってたのか。

「しかし、今のを見る限りでは、技は正常に発動しているな。だが、おかしい点は見つけたぞ。本来モンスター封印とは、一方通行なのだ。妖魔側が封印したモンスターより一方的に力を奪い取る。封印している個所へは妖魔の妖力が定量吸い取られる。そしてこれは身に着けているだけでもそうなのだ」
「生命維持のための仕組みか何かか?」
「その通りだ。それが絶たれれば封印内のモンスターは消滅する。つまり妖魔が死ねば、封印内のモンスターは消滅するわけだ。ここまではいいか?」
「ああ。俺が把握しているものと一致している」
「では、義息殿の場合だ」
「義息は止めろ」
「君の能力は相互解放している状態だ。君自身が封印されたモンスターに妖力を提供したり、されたりする。協力関係と言えるだろう。一方的に能力をモンスターから引き出せば、身体能力の向上は容易だ。だが君の場合は妖力を与えるばかりで自分はいらない、としている。封印された側はさぞよい影響を受けているだろう。何か心当たりはないか?」

 ……そういえば全員、封印内が口々に快適だ、過ごしやすいと言っていたな。
 それはこの状態のせいか。
 しかし、話を聞く限りでは無理やり身体能力を向上させる力を引き出させるってことか? 
 だが、お断りだな。

「たとえモンスターであっても、無理やりそいつらから力を借りようとは思わない。昔リルも言っていた。協力されることを拒んでいるんじゃないかって。そうじゃない。無理して欲しくないんだ」
「さすがは我が娘。いい義息を選んだようだ」
「だから、選ばれてないぞ?」
「ならばこそ、使用制限を設けて解除したときのみ、爆発的に身体能力を向上させる。これならばどうだ?」
「それでも、封印者には負荷がかかるんだろう?」
「時間や回数にもよるが、それこそ全員から均等に力を瞬時に借りるだけなら大した負荷にはならん。少し待っていろ、えーとあれがこれでそれで……」

 部屋にある雑多な物入のようなものをひっくり返してあさり始めるズサカーン。
 こういう光景、前世のアニメで見たな……。

「これだ! スワイプロードというモンスターだ」
「モンスターを物入にしまっておくなよ!」

 探していたのは道具ではなくモンスター。
 なんならひっくり返した奴全部がモンスターに見えてきた。
 俺が聞くまでもなく妙な形をした小さなモンスターを押し付けてくる。

「さぁこいつを封印するんだ。遠慮はいらん。嫁入り道具だ!」
「受け取り辛いわ! そもそもなんでそんなに結婚させたいんだよ。ヤトならすぐできるだろうに」
「……ついに聞いてしまったか」
「いえ、やっぱり聞かなかったことに」
「あの娘はな……見ての通り、普通の結婚はできんのだ。君のような奇怪で珍妙なものでなければ到底受け入れがたい性格をしている。そしてなんといっても君は自国を持ち、皇帝に顔が利く玉の輿。親として文句は……」
「やっぱり聞くんじゃなかった……はっ!? そんなこと言いながら封印が……」

 あっけなく封印されるスワイプロードという謎のモンスター。
 早速封印個所を見るズサカーンはさらに腰を抜かす。
 俺の封印モンスターはアクリル板として取り外せる。
 そして取り外してしまったそれを見て……「うむ。これは頂いておこう」
「あんた一体、何がしたいんだ……」


 俺たちのやり取りでさすがに眠くなるメルザとベルベディシア。
 なんなら俺だって眠くなるわ。
 
「冗談はこれくらいにしておこう」
「今までの話、全部冗談だよな。さて、このスワイプロードというのはどうすればいいんだ?」
「そいつはモンスターであるが、機械のようなものだ。スピリットミーティオルのような極めて珍しいモンスターというわけではないが、特殊な技を使えるようになる。本来ならば、自らに封印したモンスター同士を連結させて技を発動させるためのモンスターだがな」
「技を連結?」
「義息殿が用いれば、封印モンスターを即座に連結し、強制的に還元させることができるだろう。だが、君の願い通りにするならば制限時間と回数を設定する必要がある。時間はわずかで回数は三回に設定しておいたぞ。早速今の手持ちモンスターで試してみるといい」
「どうすればスワイプロードの力を使えるんだ?」
「スワイプロードの封印個所に指を当て、真横にゆっくりと引きながらこう唱えろ! ヤト、俺と結婚してくれー!」
「……嘘だろ」
「さぁ早く!」

 指を封印にあてて俺は唱えた。

「スペリオルタイム……」
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