上 下
1,055 / 1,085
第三章 ベオルブイーターを倒せ!

第九百四十三話 ベオルブ遺跡の真実

しおりを挟む
「うおおお……揺れが激しすぎるぞ!」
「何が起こってるの? ねえ何が起こったの? 妖魔君、もしかしてやらかしちゃったんじゃないの!?」
「分からんが、合ってると信じよう」
「これ、回したら止まるんじゃねえのか?」
「メルちゃ。触る、ダメ。ビリビリ、ビリビリ」
「あら、わたくしに触れと言っているのかしら」
「もしかして、雷を舵に流せって言ってるんじゃないか?」
「それは構わないけれど、絵画が消炭になりますわよ?」
「そうしないと金色の舵、光らないよね。本当にこの子、見えている世界が違うんだと思う」


 ヤトカーンが関心したように我が娘、カルネの頭を撫でようとしたが、がしっと手をつかまれてポイされる。
 我が娘は気難しい。
 十分可愛いのだが、気に入った者にしか触れさせないのだ。
 とても残念そうにしているヤトカーンだが、手をつかまれたのは嬉しいようだ。
 ちなみにアイジャックの毛は気に入ったようで、隙あらばむしりにかかっている。

「ではいきますわよ……雷閃!」

 俺たちが少し離れ、ベルベディシアが舵部分に電撃を放つ。
 すると……みるみる絵画の内容が変わり、舵が勝手に動き始めた。
 ベルベディシアが慌てて手を離すと、絵の中に舵が吸い込まれていく。
 そして、絵画には鮮やかな血の色で文字が浮かび上がった。
 これは……古代の文字か? ベルベディシアが驚きながらも、その文字を読んでいく。

「時は満ち、いざ押しとどめん。勇ある者を喰らい尽くすは宇宙コスモスの力。創造を超える創造を、さらに超える創造を武器にせよ。留める力我にあり。願わくば古の民よ、生きよ。汝ある限り希望は保たれん……大がかりな仕掛けね」
「ベルシア。これ読めるの?」
「ええ。わたくしの……遠い昔使われていた故郷の文字ですわ」
「この遺跡とベルベディシアの故郷に何かの繋がりがあったんだな」
「そのようですわね。でもわたくし、初めて知りましたわ。地底に来てよかったのかもしれませんわね」
「……無理やりついてきただけだったんだよな、お前」
「偶然は必然、必然から可能性が生まれるんだよ、妖魔君。こうして私とも友達になれたしね?」
「ああ。だが……」

 失ったものもある。取り戻さないとならないものもある。
 それも偶然だが、必然なのか。
 そう考えていると、表示されていた文字はすべて消え、絵の中に埋まった金色の舵が激しく回転しだした。
 位置が変わり、絵画の部分を削り……本物の舵のような形をとって、再び姿を現す。
 そこには一つのカギ穴をさすような場所があった。

「これは……レイビーの人形にあった鍵を差してみるか」
「へぇ……って舵に鍵を差してどうかなるの?」
「分からない。鍵って扉や箱を開ける以外に使うことってあるか? ……いや、あるな」

 前世の記憶でいうなら、ぜんまい仕掛けや自動車などを動かす部分。
 あれらも鍵を用いるな。
 これも同じか? と思い、差し込んで回してみた。
 すると……周囲の壁が全て開き、透明な膜が張られ……外側の景色が映し出された。
 それを見て全員が茫然ぼうぜんとしてしまう。

「すっげー……」
「ああ。驚いた」
「そうですわね。これがベオルブ遺跡の秘密でしたのね」
「すごく調べたいけど、この規模じゃそうもいかないね。あーあ、故郷に持ち帰れたらなー」
「姉御ぉ。ここからじゃベオルブイーターの活動範囲を通らないと戻れやせんぜ」
「戻れるかもしれない。少しこいつについて調べるべきだ……動かせるかは分からないがな」

 俺たちは、どうやらとんでもないものを眠りから覚まさせたようだ。
 遺跡船……とでも呼ぶべきか。
 この遺跡そのものが船だったのだ。
 恐らく舵を差したときの揺れは、地面から切り離され浮上した揺れだ。
 そして、動力はベルベディシアの雷だったのだろう。
 つまり……俺たちは巨大な遺跡船を手に入れた。
 しかもだ。この遺跡船から、紅色の光が複数、どこかに伸びているのが見える。
 その先に何があるのかは想像がつく。
 きっとベオルブイーターがいるんだ。

「ヤト。お前の故郷はどの方角だ?」
「ええっと、ベレッタの南西だよ。操作できそう?」
「ベルベディシア。俺の血を飲んで構わないから、金色の舵を握ってくれ。これを動かせるのは多分お前だけだと思う」
「やってみますわね……あら? 思ったより簡単に動かせそうですわね……」
「ビリビリ、ずるい。カルネもー、カルネもー」
「いいなー、俺様も触ってみてー……」
「あの紅色の光はなんですかねぇ? あっしにゃ恐ろしい光に見えやすが」
「ベオルブイーターが持つ、何かの能力を封じるもの……じゃないかな。お父さん、これ見たら腰を抜かすかも」
「ヤトのお父さんも研究者なのか?」
「私とは分野が違うかな。二人掛かりなら二日もあれば調べ終わると思うよ。ベルシアと私で操作してみよう」

 金色の舵を握っているベルベディシアから紫色の電撃がほとばしるたびに、遺跡船全体が喜ぶかのように、輝きを増しているように感じた。
 まさかこんなタイミングで俺が欲しくてたまらないものが手に入るとは思わなかった。
 だが、いくつか気がかりな点がある。その最たるものが……。

「そーいや俺たち、入口を破壊したよな……」
「あ……あははは。大丈夫大丈夫、きっと……ね?」
「不安ですわね……もしかしたらあれがこの船の防護壁替わりだったのかしら」
「壊しちまったものは仕方ねーだろ。なんとかなるぜ、にはは! それよりルイン。俺様……腹減ったよぉー」
「カルネも。メルちゃ、お乳、飲む」
「ばっ、こんなとこで言うな! ルイン、あっち向いてろ! えいっ!」

 無理やり首をあらぬ方向に向けられる俺の視界には、壁から半分顔を覗かせる恐怖の人形がいるのだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...