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第三章 ベオルブイーターを倒せ!

第九百三十二話 ベオルブ遺跡へ

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 フェルドナージュ様の船であるメデューサリアを、付近にある池へと停泊させて遺跡へ向かう準備にかかった俺たち。
 本当に素晴らしい船なのだが、陸に止められないのが難点である。
 この船から降りるにははしごを使うのだが、メルザは背が低いので、乗り降りも困難だ。

「おーいルイン。手伝ってくれよ」
「ああ。四幻は一度全員封印へ戻ってくれるか」
『承知』

 俺がそう叫ぶと、全員クリムゾンと同じく胸前で両腕を交差させるポーズを取ってかがんでみせる。
 誰かこのポーズを指導して流行らせたな。これは恐らく……ちらりとギオマを見ると、そっぽを向かれた。
 お前か! こいつらに一体何を仕込んでるんだよ! 
 暇だって言ってたし、きっとこいつらで遊んでたな……。
 船を降りようとするメルザに近づいて、カルネを預かると、にかっと笑ってみせた。
 メルザの状態……今は両手もあるのだが、片方の手は異様に白い手だ。
 もう片方は以前、ギル・ドーガに吹き飛ばされた手を再生したもの。
 既に違和感なく両手を使えるらしい。
 しかし、もう片方の手はブネの手だ。
 フェルドナージュ様は片手の頃のメルザしか知らない。
 今のメルザを見たらびっくりもするだろうが、それと同じくらい喜んでくれるだろうな。
 両手が開いたメルザは、小刻みに動いて下まで降りて行く。
 体力は相変わらず無いだろうから、無理しなくてもいいのに。

「よっと。へへっ。ここにも美味い飯とかあるんだよな?」
「それはどうかな。遺跡に美味い飯なんて、聞いたことないぞ」
「俺様の直観が働いてるぜ。ここにはきっと、スッパムよりうめー飯があるんだ」
「メルちゃ。舌、変。気のせい」
「まぁ、何食べても割と美味しいっていうから……カルネ、俺たちも降りるぞ。舌噛むなよ」

 俺は勢いよく跳躍して一気に地面へ着地する。
 すると――「ツイン。もっかい。びゅーん」
「はいはい……バネジャンプ!」

 垂直にびよーんと飛び跳ねて、再び地面へと着地してみせる。

「ツイン! もっかい、バネ!」
「バネジャンプ!」

 もう一度飛び跳ねると、船上のベルベディシアと目があった。

「……あなた、何してらっしゃるの?」
「すみませんでした……」

 軽くベルベディシアに怒られると、大きく笑うギオマの下へ飛び跳ねる。
 メルザは自分もやって欲しいのか、少しうらやましそうにこちらを見ていた。
 さすがにもう一回やったら電撃が飛んできそうなので、今は諦めてもらった。
 ヤトとアイジャックは先導して既に遺跡へと向かい始めている。
 彼らはメデューサリアに乗船中も警戒はしていたが、今のところ襲って来るような、愚かなモンスターはいない。
 何せこっちには、バカでかい竜が一緒だった。
 その風圧だけでも、鳥型のモンスターは恐れをなして逃げていく程だ。
 早く来いとヤトが俺たちへ手招きをするので、そろそろ真面目に向かおう。
 泉から遺跡へは、少し距離がある。
 移動中はメルザも俺もベルベディシアも、周囲をよく観察していた。

「特に変わった足跡も見られないね。やっぱり遺跡を訪れる妖魔はいないか」
「先ほど船から見た限りでは、大きな遺跡に見えたが?」
「遺跡の扉は普通には開かないんだ。仕掛けが複雑なの。古文書でも持ってないと開けられないよ」
「そうなのか? それにしたってそんな場所があるってこと、フェルドナージュ様にも聞かされて無かったぞ」
「だってこの場所、フェルス皇国領じゃないから。奈落の管理者、タルタロスの支配領域だよ」
「おいおい。それって勝手に入ったらまずいんじゃ」
「国境の一番外れだし……それに君から聞いた話だと、フェルドナーガが奈落を支配しちゃってるんでしょ。それならこんな場所まで来ないよ」
「それもそう……か。一つの国を完全支配出来る程、盤石じゃないよな」
「そういうこと。ね? えーと、女王ちゃん」
「俺様はメルザ・ラインバウトだ! にははっ」
「ううん、どうみてもこの子、女王には見えないなー……」
「それは同意ですわね。貴方、おいくつなのかしら?」
「俺様か? 俺様、年とかよくわからねーしよ。でも、きっと十歳は越えてるぞ?」
『当たり前でしょ!』
「まぁ、年齢が分からないのは俺も同じなんだ」
「ふーん。そうゆうとこまで夫婦なんだねー。自慢は良くないよ、妖魔君」
「別に自慢はしてないぞ。事実だからな。そうだベリアル! お前なら俺の年齢分かるんじゃないか?」

 肩の上に乗って大きなあくびをしているベリアルに、俺の年を尋ねてみた。
 しかし、答えは予想し得る答えだった。

「知らねえな。大体年齢だの性別だの、俺が興味あると思うか?」
「私はすっごく興味あるんだけど? ベリアル君はいくつなの? ねぇ、ねぇ!」
「あーー、うるせえ! 俺はやかましい女が好きじゃねえんだよ!」
「なになに? ベリアル君はどういう子が好みなの? ねぇ、ねぇ!」
「目を輝かせながら近づいて来るんじゃねえ! 俺ぁ封印に戻るぜルイン。珍しいものが見えるまで、表に出ねえからな!」
「あ、ちょっとベリアル君、ベリアル君ー! おーい! ねえ妖魔君! 私も封印して!」
「バカ言うな。これ以上俺の封印内に厄介事を持ち込めるか!」

 全く。人の封印を都合のいい逃げ道に使わないでくれ。
 ただでさえ他人の命を預かってるみたいで気が重くなるっていうのに。
 はぁ……こんなことなら陽気溢れる骨の王、レウスさんにお越し頂ければよかった。
 今頃サムズアップして別の骨とにっこり微笑みあってることだろう。
 骨蔵族だったか。
 あいつら元気にしてるかな。

「んあ? どーしたルイン」
「いいや。仲間が増えるのはいいことだが、抱える者が多すぎて溢れてしまいそうだと思ってな」
「にはは。何言ってんだ。ルインはすげーんだぜ。こーんな大きな器にいーっぱい果物詰めても溢れたりしねーよ。溢れそうなら俺様が全部食ってやるぜ」
「メルちゃ。単純。でも、メルちゃ、食べそう」
「違いない。メルザの器には遠く及ばない……かな」

 この場所、この状況、そして新しい仲間。
 どれを取ってみても我が主は寛容で、動じたりもしない。
 純粋で真っすぐ見る瞳はキラキラと輝いたままだ。
 くもってるのは俺の心かもしれない。
 ソロモンの話を聞いてからというもの、リルとカノンの身をずっと案じている。
 ブンブンと頭を振り、大分近づいた遺跡を見てみる。

 色は黄褐色で、古さを少し感じる外観だ。
 周囲には怪しい木々が生え、縦に伸びる長い階段が視界に入っている。
 そして、その階段の左右には何かの兵器にも見えるものが、無数に置いてある。
 元々ここは、城か何かだったのだろうか。
 
「長い階段だなー。何段あるんだ?」
「メルザはカルネを抱いて俺につかまれ。上まで運んでやる」
「あら。わたくしもでしょ?」
「まぁ女子二人分くらいは」
「俺も運んでくれていいのだぞ! グッハッハッハッハァ!」
「妖魔君、私も!」
「それじゃ自分も……へへっ」
「……よく考えたらギオマに乗って遺跡の頂上まで運んでもらえばいいんじゃないのか?」
「それは止めた方がいいよ。地形が壊れるから」
「ぬぅ。我に調整出来ぬとでも思っておるのか?」
「失敗するのが目に見えていますわ。お止めなさい」
「何だと!? この我に不可能は無い! みておれ!」

 やべ、ここで巨大竜に変身されるのはまずい! 
 慌てて止めると、仕方なく一人ずつバネジャンプで運ぶことになった。
 ……頼むから入り口でバテさせないでくれよ。

 結局へそを曲げたギオマを含む全員を運び終えると、俺意外は上機嫌に戻る。
 そもそもギオマは封印に戻ってくれれば事足りるわけなんだが。
 バネジャンプで一番はしゃいでいたのは当然、我が女王メルザだ。

「それにしても面白い名前ですわね。バネジャンプ。わたくしもそういった技を考えようかしら」
「おい、電撃放出しながらピョコピョコ跳ねるのは止めてくれ。カルネに当たったらどうするんだ」
「我も考えてみるか。グッハッハッハッハッハァ! 魂吸ジャンプ……ふむ、悪くない」
「物騒過ぎるわ!」
「ほら、ギオマのおじさんは少し黙って。今仕掛け調べてるから。うーん、文献より難しい」

 遺跡の入り口部分は包まれたドームのように固く閉ざされている。
 触ってみたり軽く叩いてみたりしたのだが、金属というより石のような感触だった。
 いや、石という表現は全く持って正しくない……それは、叩いても音がしないからだ。

「何だこれ。何で出来てるんだ?」
「分かりませんわね。地底にある金属か何かかもしれないわ」
「んー。食ってみるか?」
「おいおい。どう見ても無機物だろう」
「それ、試してみるのもいいかも!」

 と、メルザの困惑発言に、座って調べていたヤトが立ち上がる。
 ……何言ってるんですかね、学者さん。
 無機物は食べ物じゃありませんよ? 
 ていうか、遺跡への入り方、知らないのかよ! 
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