上 下
1,033 / 1,085
第二章 地底騒乱

第九百二十四話 アスピド ケローネの系譜を受けたモンスター

しおりを挟む
 フェルス皇国へ向けようやく出発出来そうだ。
 ヤトカーンは地図のようなものを取り出して俺の目の前にそれを広げて見せる。
 しかし……「汚くて読めないんだけど」
「妖魔君って結構失礼なやつだね。ちゃんとみてよ!」
「えーっと、ミミズみたいな絵と穴みたいな絵と、何だこれは。くず紙が散らばってるのか? 
現在地すら分からん」
「姉御はとびっきり絵が下手なもんで……」
「あらあら。所詮は小娘ですわね。何てみじめな絵なのかしら」
「じゃあおば……ベルシアが書いてみせてよ!」
「わたくし、道が分からないのだけれど?」
「そうだった……」
「こっちを使ってくだせぇ」
「おお、アイジャックの方はちゃんとした地図だ! 現在地は渓谷の中層? ここで中層
なのか」
「別にさ。地図なんて書けなくてもさ。目的地に着ければいいんだしさ」
「いじけるなよ。中層から下層に降りて南東に進むと……アルラウネの樹? て場所がある
のか。なんかやばそうな場所だな」
「そこを通らないと厳しいんだよね、フェルス皇国に向かうのってさ。それでそれで? 
行ってどうするの?」
「フェルドナーガ軍を蹴散らす……いや蹴散らされている可能性が高いので皆を落ち着かせ
る……かな」
「ふーん。面白そう! 混ざってもいい?」
「ヤト。お前は巻き込まれなくてもいい。フェルス皇国側の妖魔じゃないのだろう?」
「んーとね。私は私の中で気になってしまったことを決して中途半端に終わらせたりしない
の。だから妖魔君についていくと決めた以上、必ずついていく。それは私が勝手に巻き込ま
れるだけだから気にする必要はない。うん。それが私だもの」
「姉御はこういう性格だから、なるべく誰とも関わらないようにしてるんでさぁ。しかし姉
御が会ったばかりの相手にここまで興味を持つなんて初めてで、驚いてるんです」
「わたくしにはただ取り入ろうとする小娘にもみえますわね。彼の魅力は妖魔のものなのか
も知れないのだけれど。この絶魔王、ベルベディシアが一目置く存在であることは認めてい
ますわ」
「なんかおばさんって偉そう……」
「おい止めろ、聴こえたらまた争いが勃発するだろ! さぁ行くぞ。まずは下層にだろ? 
どうすりゃ行けるんだ?」

 現在地はどう考えても渓谷の一番下だ。
 これ以上下に行けっていうなら地面でも掘らないと進めないだろうに。
 
「下じゃないよ。上見て。穴が沢山開いてるでしょ」
「まさか、あの穴のどれかを使って下に降りるのか!? あの中にはモンスターがいるん
だろ?」
「アスピドケローネってモンスター知ってる?」
「アスピドケローネ? 何処かで……そうだ、過去に一度クリムゾンが招来したことがあっ
たな」
「本当!? 凄いねその……妖魔?」
「いいや幻魔人だ。指先が長い鉤爪かぎづめの形をした美しい男だ」
「幻魔人!? 聞いたアイジィ。幻魔人にも会えるって!」
「……しまった。話を進めてくれ、頼む」
「んーと。アスピドケローネっていうのは本来が海に生息する巨大亀なんだけどね。
ここにいるのはその系譜を受けたモンスター。シャーグスケローネっていうんだ」
「シャーグスケローネ? 聞いたこと無いな」
「それはそうだよ。ここにしか生息してないんだから。文献は私がまとめたの。アスピド
ケローネの系譜を受けたモンスターって証拠を見つけたのも私だからね。名付けたのも私。
モンスターの生体には詳しいんだ」
「それって凄いことじゃないのか。つまりそいつの巣を通って安全に下層へ向かえる。そう
いうことなんだな」
「ええっと……行けば分かるよ。少し渓谷を登って最初に見えた手前の穴に入って」

 不安ながらも言われた通り全員で下って来た渓谷を少し登る。
 穴は大きく、中は暗くて良く見えない。
 風が入り込んでいるのか、ヒューヒューといった音だけが聞こえる。

「明かりが無いと進めないぞ」
「いいから、ほら。ちゃんと入って。少し匂うけど平気だから」
「嫌な匂いがしますわ。獣臭ではなく、水の濁ったような匂いですわね」
「姉御ぉ。本当に平気ですかい?」
「んーと、半々位かなー」
「何が半々なんだ? 本当に何も見えな……」

 言われた通りに暗い穴の中を手を伸ばして進むと、少しぬめったような何かに手先が
触れた。

「おい、何かに触れたぞ」
「うんー。それがシャーグスケローネ。直ぐに明かりつけると襲って来るからね。優し
く撫でてあげてね」
「……気持ち悪いんだけど」
「ほら我慢する。男の子でしょ?」
「あのな……男とか女以前に、先に説明してくれよ」
「何? それじゃベルシアにやらせるって言うの?」
「お前がやれば良かっただろ!」
「大声出すと機嫌そこねるから。優しく、優しくねー。もうちょっとだから」
「……地底に来てから俺の運気、凄く下がってる気がする」

 本当、ろくな目にあってない。
 そしてヤトカーン。彼女と出会ってしまったことも災厄ではないかと思えて来た。
 仕方なくぬめりけのあるツルツルした何かを撫でると、ヒューヒューといった音が
徐々に落ち着いて来る。
 この音は風が入り込んでいる音ではなく、こいつが発していた音のようだ。
 ……なんなら一匹位封印出来ないものだろうか。
 そうすれば少し戦力になりそうだが……しかしぬめぬめしてるモンスターは嫌だな。

「よし。音も落ち着いて来たしそろそろ良いかな。えいっ!」

 ヤトカーンが突如光を発する何かを天井に放り投げた。
 それはペチャリという音と共に天井へへばりつき、周囲を緑色の光で照らしだす。
 何だ? これ。どっから出したんだこんなもの。

「ロブロオーーン」
「よし、成功! ロブロオーンって泣いたら警戒されてない証拠。こうやって手順を踏め
ば大人しいいい子なんだ」
「思ったよりでかいな。顔がサメの胴体が亀の様だが、甲羅が鱗っぽい」
「面白い生物ですわね……でも触りたくはありませんわ」
「何言ってるの。この子に乗って下に降りるんだよ。早くしてよ」
「はい?」
「ロブロオーン!」
「妖魔君、気に入られてるみたい」

 顔が若干にやけ顔のサメは俺の手に顔をこすりつけている。
 ……どうしてかこういった生物に気に入られる宿命を帯びた戦士のようだ。
 そして、ぬめりけのあるシャーグスケローネの鱗甲羅部分へあっという間にまたがる
ヤトカーン。
 ……これ、本当に乗らないとダメなんですかね? 

「さぁいっきに下層へ向かうよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!

遥 かずら
ファンタジー
 ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。  しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。  勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。  しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。  さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。  窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。  ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。 【本編完結】【後日譚公開中】 ※ドリコムメディア大賞中間通過作品※

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...